灯火

灯火

拝啓

どんな人生だったのかな

誰よりも強くて、弱いのがじいちゃんだった。
いつも優しいのがじいちゃんだった。
世話を焼いてくれたのもじいちゃんだった。
ばあちゃんが大好きなじいちゃんだった。
怒ると怖いのがじいちゃんだった。
犬が好きなじいちゃんだった。
グランドゴルフが好きなじいちゃんだった。
魚釣りが好きなじいちゃんだった。
友達思いなじいちゃんだった。

ほんとは、もっといろんなことがあるはずだ。
もっともっと書けるはずだ。
けど、ごめん。こんなもんだった。

あんまり多くてもなぁっていうのもある。
10年間、しっかりお世話になった。
まだまだ俺はガキだったからさ。
色々言いそびれたよ。

もう2度と会えない人。
そういう人が、これからどんどん増える。
増えるだけじゃない。
俺もいつか、そうなってしまうかもしれない。
悲しい。
お坊さんが毎回のように語る。
「死というのは逃れられない」
「死は常に隣にある」
「忘れているだけ。いつもそこにいる」

俺は「死」を忘れたことがない。
死にたくない。
いつか死ぬ。その事実がこの上なく怖い。
今すぐにでも逃げ出したい。
どこかに行けるならいきたい。

もっといろんな…。
10年分。返したかったよ。いろいろ。
本当にあげればキリがない。
いろんなもんをもらった。
全部返せなくてごめん。
返せないようにできてるのかもしれないけど。
今回教えられたよ。
これから先、いろんな人に出会って、いろんなお世話をしてくれるかもしれない「その人たち」には、全部返しきれたらいいな。
俺も、いろいろ与えられる人になるわ。

じーちゃんみたいに。
いろんなことを楽しめるような人に。
本当に、心の底から、尊敬してたよ。

おやすみない。
ゆっくり休んでな。

灯火

敬具

灯火

86年間のあかり

  • 自由詩
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted