車窓に見ていた

車窓に見ていた


あの日 私は

私 を 壊すために 電車に乗った


階段を降りた ホーム

白い靴下をはいた 制服の少女たち


エルメスのトートバッグをさげた女


寝不足です 疲れてます
でもそれなりに 幸せに暮らしてます

そんなスーツを着た 男


彼女ら 彼ら を見送って



午前7時3分発 下り 普通列車

がらがらの車内


廻る世界から 遠ざかるため

日常から はみ出すため

2人がけの隅を選んだ



私 を 壊すのだと
思い詰めていた 昨夜の私を

耳元で あの子が 歌って

肌にすり込んだ 香水が

私を 子どもじみた気持ちにさせた



悲しいことは ひとつも なかった

痛みも 絶望も 寂しさも

不安も 恐怖も


未来 も 全て 消えて

ただひたすら 従順に
教えられた通りに 電車を乗り継いで

知らない街を 目指していた



とても晴れた 美しい日だった

春だったのか 秋だったのか

寒かったのか 暑かったのか

少しも思い出せないけれど


空がとても 青かったこと

穏やかに 澄み切っていたこと


それだけが まだ 私に残っている



あの日 車窓から見た

通過していく 幸せ を


遠くから 描こうと している


壊れた私は 私だった

ただの 私だったのよ

車窓に見ていた

切り貼りしたあの日のこと。
駅の名前をもう思い出せません。

車窓に見ていた

一度だけ目指した駅。 待ちぼうけした晴れた日。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-02-07

Copyrighted
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