Love past...Love future

Love past...Love future

大切な人との思い出に時を忘れて浸りませんか?
大切な人とのこれからの未来の夢を見ませんか?

「初めて会ったときの事を覚えてる?」

「あの時は、ありきたりな感じの普通な人って
感じで特別ピンと来なかったのにね。」 

彼女にそう言われ、僕はあの最初に会った日の事を思い出していた。

僕は田舎街のカフェでウェイターとして
働いていた。その時に客として会ったのが今の彼女だった。

よく晴れた春風薫る、五月の中頃。
ただ少し肌寒い風が吹く日で、薄手のコートに
身を包んだ彼女はショートボブの髪に
白い肌、眼鏡をかけていて、どこか落ち着いていた雰囲気を纏っていたのをよく覚えている。

彼女はカウンター席に座ると
珈琲を頼んだようで、出来上がるのを待っていた。

僕の勤めていた店はそれなりに人気のお店で
いろんな人が出入りしている。
ただこんなにも存在感のある女性がカウンターに
一人で座っている姿は稀だったからな。

「お待たせいたしました。」
他のスタッフがどうやら珈琲が出来たのを
運んだようだ。

珈琲を飲んでいる姿は、どこか艶めかしくて
僕は見とれてしまっていた。

どうやらその視線に気付かれてしまったらしく
彼女の振り向き様に目があってしまった。

僕は恥ずかしさがありながらも腹をくくり
彼女に声をかけることにした。
彼女の前に立ち、第一声を発する。

「いらっしゃいませ、うちの店は初めてですか?」

彼女は、珈琲を飲みながら答えた。

「前から気になってて、今日初めて来たんです」
「それよりもさっき目が合いましたよね?」

少しニヤつきながら話をされて僕は
恥ずかしさを隠せなかった。

「あまりに珍しいお客様だったので、つい..」

そんな話を続けるうちに、彼女は月に何度か
店に足を運んでくれるようになり、その度に
カウンター越しに話をたくさんするようになった。

彼女は漆原亜咲(あさき)。この街に春に越してきて
木工品のお店を構えて、製造販売などをしているという。昔からの夢でそれが叶ったと喜んでいたのを覚えている。
以前にこの街に住んでいたらしいのだか、親の仕事の都合で引っ越しを経験していた。

「今度、お店に遊びに来てみませんか?」
亜咲は笑顔でそう僕に話しかけてきた。
「行ってもいいの?」僕は問い返す。

「もちろんいいに決まってるじゃない!」
そう言ってフランクに話かけてくる笑顔の亜咲が
とても可愛く思えた。

「それじゃあ今度の休みに行くね」
僕がそう答えると飲みかけの珈琲を一気に飲み干して、帰り支度を亜咲は始めた。

「そろそろ行かなきゃ....またね。お店で待ってますから!」

出入り口の前で、はにかんだ笑顔で
言葉を残して出ていった。
亜咲が飲んでいった珈琲、キリマンジャロの香りが
僕の鼻先とカウンターの一帯を包んでいた。

僕は、心の声に耳を傾ける。
それは紛れもなく亜咲に向けられた
"恋心"だと確信した。

その週の休みに亜咲のアトリエにお邪魔することにした。
亜咲以外の従業員は中年のパートの女性が一人。
僕以外の客はいない時間だったらしく
僕を客と勘違いをしたようでいろいろと製品について勧めてくれていた。
その時に亜咲が工場から顔を出してきた。

「今はまだぜんぜん宣伝出来てなくてお客さんが少ないの....でも来てくれて嬉しい。」

そう言って少し苦笑いながらも話していた。
いろいろな造形物を見て、そろそろ帰ろうと
したときに亜咲からフクロウの形をしたキーホルダーをもらった。手作りのものらしい。

「ありがとう、大事にするよ。」
そう言ってお店を後にする時に合わせて
「今度、一緒に出掛けませんか?」と
少し改まった感じでデートに誘った。

亜咲は少し考えて、なにも言わずに
ただ、頷いてくれた。

その日のことは、色鮮やかに記憶され
僕のバッグにはフクロウのキーホルダーが
いまでも着けてある。

「..初めてデートしたときは本当に緊張したよ」

僕は亜咲にそう言うと、大笑いされた。

「確かに、誘ったのに緊張しまくりだったね」

思い返せば、初デートの日
お互いの仕事が終わり、少し遅い時間だったけど
ちょっと背伸びして高級フレンチを予約していた。
メニューが難しくわからないことだらけで
背伸びしたのに逆にカッコつかなくて。

でもその日の食事は特別美味しく感じた。

亜咲と店のすぐ側で待ち合わせ、入店する。
亜咲は店に入るとすぐにソワソワし始める。

「高そうなお店、大丈夫なの?」
「心配要らないよ」

僕がソワソワを一蹴りして席に座らせる
そして、緊張のメニュー決め

「私、ここの料理わからなくて。教えてくれる?」

メニューが分かりやすく載ってると思い込んでいた僕は詰めが甘かった。

「フランス語しか載ってない....。」

あえなく撃沈した僕はおすすめを聞いて
亜咲が好きそうなメニューを用意してもらった。

「いいとこ見せようとしなくても良かったのに」
「でも、ありがとう」

亜咲がそう言うと料理が運ばれ始め
僕と亜咲は高級フレンチに舌鼓する。

食事が終わり、彼女がトイレに席をたった時に
さっと会計も済ませ、亜咲が戻ってくるのを待つ。

「今日はグダクダでごめん」
僕がそう言うと呆れた顔をして
「肩肘張らずにでいいんですよ」
そう言って財布に手をかける亜咲。
会計も済ませたことを伝えると少し
不満そうな顔も見せたがなにも言わずに
僕の背伸びを汲んでくれた。

帰り際、家の前まで送ると
僕を呼び止める亜咲の声がした。

「今日は楽しかった。またどこかに連れてってね。」

そう言い残し家の中へ入る亜咲
その時の亜咲は艶めかしさと愛くるしさでまるで天使を見ているようだった。

僕は決めた。告白を、想いを伝えよう。
そう決意して家に帰る。

デート以降、僕の勤めるお店にも頻繁に来てくれて
僕も亜咲のアトリエに通うようになっていった。

亜咲に対する想いの強さは日に日に強く
確実なものになっていき、嬉しくもあり
時に苦しくもあった。

そして、気になることがあった。
言うまでもない。亜咲の気持ちはどうなんだろう?
そればかりが頭のなかで巡りめぐる。

「考えても仕方ないか..。」

亜咲をもう一度デートに誘う。
受けてくれるだろうか、嫌いにならないだろうか
いろんな事が錯綜してくる。

そうして僕は、亜咲の事が頭から離れず
仕事も手に付かない程、想い焦がれていた。

「今日は、どうする予定なの?」

「今日は遊園地に行かないか?」

「楽しそうね、行きましょう!」

車を走らせて、遊園地に向かう僕と亜咲の二人。
ハッチバックのシルバーの乗用車、カーステレオからは僕が好きで聴いているジャズが流れている。
お店で流れているBGMと似ている。

「初めて会ったときの事、覚えてる?」

「あぁ、覚えてるよ。忘れたりしないさ」

「懐かしいよね。ずっと気になってて入った店にあなたがいて....。珈琲が本当に美味しかったの。」

「キリマンジャロがうちではオススメだからね、いつもよく飲んでくれてたね」

「いまでも好きよ、苦すぎなくて、酸味もあって、マイルドでバランスがよくとれてて。」

「そっか。ありがとう」

「もう二人でいる時は緊張しなくなった?」

「あの時の事かぁ。レストランでグダグダだった」

「カッコつけすぎなのよ。」

「男なら誰だってそうしたいものさ」
「結果的には慣れないフレンチレストランで上手くエスコート出来ませんでしたけどね~」

僕は少し、意地悪ぎみに答え返した。

その後は遊園地までは程遠くなく
沈黙の時間もあったりしたがすぐに着いた。

いろんな乗り物に乗ったり、テラスらしきスペースで話し込んだりもした。

時はたちまち過ぎていき気付けば夕暮れ時

亜咲が僕に話しかける。

「今日ももう終わっちゃうね」

僕は今日が終わらなければいいと思っていたし、
僕の中にはまだなし得ていない事があった。

「話しておきたいことがあるんだ」
「二人で痛いからあれに最後に乗らないかな?」

亜咲は少しだけ戸惑いながら最後なんだしと
僕に付いてきてくれた。

それほど高さはないが田舎街の街明かりを
望める程の高さのある観覧車。

僕と亜咲は観覧車に乗り込む。
他にもカップルらしき男女が何組か
先に乗ったり、後に並んでいたから
やはりデートには外せない乗り物なのだろう。

観覧車が進む
低い位置から高さが上がるにつれて
口数が減っていく。

そして僕は切り出した。
「あのさ..。」

亜咲が返す。
「何?」

「今日も一日楽しかった。今日だけじゃない。いままでもずっとずっと。」

「そして、これからも亜咲とたくさんの時間を一緒に過ごしていきたい。」

「僕と付き合って下さい!」

あまりに唐突で亜咲はビックリしたようで
俯いて考え込んでしまった。

観覧車が最高地点に到達する。
しばらくの沈黙の後、亜咲が声を洩らす

「ありがとう。気持ちはとても嬉しいよ」
「私も貴方が好きです。」

向かい通しに座っていたのを
亜咲の隣に座り直し肩を抱き寄せた。

「ありがとう。大好きだ。」

僕は彼女にそう言うと亜咲は黙って頷いた。
観覧車が折り返しもうすぐ終わりを迎える。

帰りの道の車の中、来るときと変わらずに
他愛のない話なんかで時間が過ぎる。

亜咲の家の前に着く。
今日のあのひとときが幻ではないことを
確認するためにもう一度想いを伝えてみた。

「亜咲。俺の事、好きで居てくれますか?」

亜咲は車を降りて、なにも言わずに
外から運転席に廻ってきた。

僕は気が気じゃなくなり、ウインドウを開けて
気持ちを確かめようとした。

その瞬間だった。
ウインドウを全開にして外に体をつき出す。

亜咲が僕の頬に手を回し、唇と唇が重なりあった。

「おやすみなさい。大好き」

亜咲はそう言うと自宅に入っていった。

人生の中で最高の一日になった。
今日の日の出来事をフクロウのキーホルダーが
見守っていた。

それから数年の時を重ね
亜咲と僕は一緒に過ごしている。

亜咲は自分たちのアトリエが多方面から
反響を受け、来客も以前に比べて多くなり
支援する人もたくさん増えた。

僕はというと、新しく独立をし
喫茶店のオーナーとして日々、悪戦苦闘しながらも
充実した生活をしている。
喫茶店の仕事の中には亜咲の作品を
手にとってもらうためのスペースも用意していて
彼女の少しの支えも出来ていることが
何よりの幸せだとそう感じている。

僕たちは裕福とは行かないが結婚する。
夢や幻ではなく現実として実現する。

そうして、いろんな事を経験しながら
毎日を過ごしている。

たまに休みが合うと僕が以前勤めた店に
珈琲を飲みに行く。

亜咲が頼む珈琲はやはりキリマンジャロ
亜咲の飲む珈琲の香りと亜咲の艶めかしくて
落ち着きのある雰囲気が昔と変わらずに
僕を包み込んでくれる。

「亜咲、愛しています。いままでも、これからもずっと。」

Love past...Love future

Love past...Love future

あるよく晴れた日、遊園地デートに誘った僕。 助手席には友達以上恋人未満の女の子。 僕らは出会った頃の事を思い出していた。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-29

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