Deinde

刀剣乱舞の二次創作小説です。原作を知らない人でもなんとか話の筋が掴める程度にまでは解説を入れていますが、原作ゲームプレイ済みの方の方が楽しめると思います。
結構暗いです。

「また負けたのかよ……」
__突き出される''敗北''の二文字

「今回も酷い怪我だな」
__肌が裂け流れ出る赤黒い血液

「__もう、無理ですよ」
____未来への、絶望



〖 Deinde 〗


私は、弱い。

突然こんな自虐的な宣言をしたのは決して冗談でも嘘でも、ましてや謙遜でもない。誰もが認め自分でさえも自覚している。私は、弱い。
何に関して弱いか。スポーツでも頭でもなく、少々特殊な事象なので解説しよう。
ある日突然人が消えた、ある日突然歴史的建造物が消えた。これは過去に遡り歴史を塗り替える歴史修正主義者達の仕業であり、正義に反する大犯罪である。それを阻止する為、物に宿る魂を具現化するという特異な力を持ち政府に見初められた私は、''刀剣男士''という古の刀剣達の魂を引き継いだ男士を召還、指揮し、勝利と安寧を掴み取る……そんな任務だった気がする。
ああ、「自分の任務も不確かなのか?」と貶してくれても構わない。そう、私には__ここに来るまでの、一切の記憶が無い。名前、年齢、勿論任務の事だって、ここにあった資料や彼ら刀剣男士と話してやっと掴みかけたもの。これが正しい任務の内容だなんて保証は一切無いし、間違った事に精を注いでいるのかもしれない。それならば、私は天下の大悪党も夢では無いだろう。政府へ記憶を亡くした事態を報告し、この仕事__審神者と呼ぶと教えてくれた__を辞退する事も出来たかもしれない。だが、「わからない」のだ。
刀剣男士と私、審神者の拠点であるこの''本丸''は、私がここに来る前暮らしていた__いわゆる現世__とは全く別の空間にあり、そう易々と行き来できるものでは無いという事がわかった。いや、私に記憶があればそれが出来たのかもしれない。だが、記憶が無い。現世に戻る術も繋がる術も無い私は、不確かで不明確で憶測で不安な任務を達成する為に、この本丸で審神者として任務を遂行している。そして、今日もまた____。

「ん、うぅ____」
「そんな顔して思い詰めた顔して……ねぇ、ボクと乱れたいの?」
目が、覚めた。
つい最近までその可憐な花弁で庭を埋めていた桜は散り、葉桜と呼ぶのが相応しくなった皐月の初頭。雲一つ無い午後の陽気に沈みかけていた意識は彼女__じゃなくて彼により引き戻される。私の前で微笑む彼は乱藤四郎、薄紅色の柔らかい髪はそよ風に靡き、今日の晴天をそのまま切り取ったような空色の瞳は心配そうに私を見つめている。寝ぼけ眼を擦り、机に突っ伏してた上半身を起こして「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「大丈夫、少しウトウトしてただけです」
「そう? 身体の調子悪かったりしないかな?」
「心配しないでください、ね?」
まるで母親のように私を気遣う彼も、刀剣男士の1人。女の子のような身なりも、彼の元となった短刀が乱れ紋__私の見解だと、かなり女性的__なのを反映している。彼は近侍という、所謂私の秘書。彼以外にもたくさんいる刀剣男士達の管理、タイムスケジュールの調整、その他諸々。私の右腕として日々奮闘してくれている心強い味方だ。彼はこの本丸で2番目の古参、最古参は____
「主、お手入れ終わったよ~!」
小気味良いスパンという音を鳴らして障子を開け、飛び込んで来る微かな薔薇の香袋の香り。突然の来客に驚きつつも、いつの間にか胸に収まった艶やかな黒髪をそっと撫でた。彼がこの本丸最古参にしてエース、可愛いは正義を翳す沖田総司の愛刀、加州清光。
「無理な出陣させてごめんなさい、お疲れ様」
「ううん、主の為だと思えば、あれぐらいの怪我なんて屁でもないって」
そうやって加州はにへら、と笑った。屈託ない、曇のない、透き通った笑顔。でもこれが彼の本心からの笑顔なのかと、私は不安に思ってしまう。今日、加州率いる第一部隊は大敗を喫し、加州は中傷を負って帰城した。予測してない強敵と遭遇した訳でもない。…………私の、せいだ。
私が弱いと開始早々に暴露したのを覚えているだろうか。そう、私は一軍を率いる将として、圧倒的に力不足だ。個々の力の判断、効率的かつ確実な作戦、強敵へと挑める戦力の補完。戦を指揮するにあたって必要不可欠な力が欠けている私は、全敗と呼んでも差し支えない程に、負けていた。
「あれ、主泣いてる!? 今日負けちゃったの……悔しかった? ああ、当然だよね負けたんだし__」
「違うんです」
加州は私を気遣ってくれた。心情が顔に出やすい性だから、思い詰めた顔でもしていたんだろう。いや、涙? いつの間に私は泣いていたの? 顔が熱い、手が震える、胸が締め付けられる。悔しい、悲しい、でも、加州は悪くない。
「そうだよねこんなに敗北が続いて……俺も鍛練頑張らないとね」

「ふざけないでください!!」

____強く言ってしまった。

「あ、……ボク、お茶取ってくるよ」

____。

私はなんて事をしたんだろう。負けて、加州に気を遣われて、その上怒鳴り散らすなんて。乱がこの場からいなくなったのも、きっとイライラしてる私に遠慮したんだろう。本当に……馬鹿な事をした。「次こそ勝とうね」、これで良かったじゃない。なのについカッとして、あんな事言ってしまったのだろう……。きっと乱や加州は、自分達が悪いと言わたように受け取った。違う、そうじゃない。自分の無力さを励ますような彼等の言葉が、無性に悔しくて同情されてるみたいで、あんな風に声を荒らげた。
「…………ごめんね」
咄嗟に声に出したのは、謝罪の言葉。場の沈黙が辛くて、涙が止まらなくて、どうしようもなくて、こう言った。ごめんね、こんな無能でごめんね。君達にいつも辛い思いさせてごめんね、……__。


「主……俺はね……」
「ごめん、ね……」
「ねぇ、主」
「ごめんねぇ……うっ……」


「主」



手が、空気を裂く。ヒュンと音をたてた手のひらはパチンッという音を最後に静止した。__叩かれたのか、加州に。

「 主 」

普段のおちゃらけた彼ではない、真摯な目つき。瞳の裏を見透かされているような真っ直ぐで研ぎ澄まされた視線は彼の刃と同じ、不浄を切り裂く鋼のような平手打ちだった。

「次は、勝とうね」

「…………うん」



あれ以来、私達は少しずつだが、更に過去へと遡り戦う事が出来るようになった。でも、相変わらず折れる刀は増えつづける。
鎌倉で今剣が折れ、博多湾では蜂須賀と必死になって仲間にした長曽祢が折られた。仲間が増えていく度に折られる仲間も増える。本丸の空き部屋は空いたり埋まったりを繰り返すばかりで、いつまでも空き部屋のままに。
それでも進軍は少しずつ加え進み、先週やっとの思いで阿津賀志山の本陣を堕とす事ができた。
……だが、犠牲は今迄の比ではない。折れた刀と今残っている刀の数はだいたい同じぐらい、つまり半分を折ってしまった。でも私にかつての悲しみや悔しさは込み上げてこなかった。いくら人の形をしていても所詮は道具、1つ2つ失っても思うところは無い。そんな考え方が身に染みて、無茶な行軍や捨て身を命令する事が出来てしまっていたから。もしこれが間違いなら、私はきっと政府にどうにかこうにか処刑されてる。男士を駒とするのは間違いではない、それで戦績が上がったのなら寧ろ喜ばしい。…………私は、間違ってなどいない。


或る日、朝礼

「今日から池田屋の記憶、市中に進軍します。出陣が決まっている物には既に伝えてありますが、決起の為だと思い全員を集めました。池田屋は未知の場所ですが、遡行軍は過去に遡る程に強くなるのが判っています。あまり強い敵ではありません。早急に敵本陣を堕とし平和を取り戻すのです」


「おっし、出陣だー!!」




「 俺、
最後まで愛されてた……? 」



池田屋以来、本丸の士気はガタ落ちだった。加州清光という本丸最古参のエースが折れた事により、諦めが色濃く現れるようになった。物に士気などあってはならないが、刀剣男士という質の良い兵器の欠陥だと思えば多少なら許せる。休養があれば士気など勝手に回復するし、時が経てば加州が消えた穴も塞がる。それまでの辛抱だ。____と、思っていたのに。
つい今朝、手紙が届いた。手紙が届くなんてこの本丸ではなかったから、何か大変な事が起こってしまったのは容易に理解できる。手紙の中身は見ていないが、良くない事だろう。それだけはわかる。
白い封筒の封を指で丁寧に切り、中身をつまみ出す。淡白なコピー用紙を開くとそこに____


《 審神者の任を解任す 》

と、大きく書いてあった。まあ審神者にやりがいも特に感じていなかったし、ろくに娯楽も無いこの場所で永遠に任務を続けてるよりは断然マシだ。解任されて寧ろ嬉しい。そういえば、どうやって手紙を送ってきたのだろう。この封筒は気付いたら私の卓の上にあって、誰かが持ってきたわけではない。人間は無理でも、封筒程度の小物ならなんとか現世からこちらまで送るよ事ができるのか。まあ、考えたって記憶の無い私に答えなど判る筈がない。

__中身は意外でもあり、予想通りでもある。解雇通知、俗に言うニートデビューだ。これで面倒な審神者業ともおサラバできる。だがしかし……。
「現世に戻る方法は____無い……!?」
手紙には、審神者の仕事は終わりだが、私を現世に戻す事は出来ないと書いてあった。どういうことだ。私はここでいたかもしれないかつての友人や恋人、両親さえにも会えず死んでゆくのか。……酷すぎる。確かにここには畑や井戸もあるし、自給自足生活も不可能ではない。だかそれでは、ただ「生きているだけ」ではないか。ったく、どうしたもんだ。

__さて、池田屋に向かった乱率いる第一部隊がそろそろ帰城してくる。戦果を聞きに迎えに行こう。

「乱、報告をお願いします」
彼の部屋の前に立ち声をかける。中から声は聞こえないが、プレートが「部屋にいるよ♡」という面を向いているのでここにいるのだろう。返事の無い部屋に入るのは些か申し訳ないが、「入りますよ」と少し大きめの声で言い襖を開ける。
男士個人の部屋は大きな中庭を囲むように造られている。この部屋は1階南向き、最高の場所に造られている。入口の襖を開ければ庭が一望できる。だが、本来美しい筈の景色に、私は絶句した。
「それは……」
思わず手に持っていた帳面を落としてしまった。

墓石、というのが妥当だろうか。頭1つぐらいの高さに積み上げた石に名前を掘り、小瓶には小さな花が挿してある。ざっと数えて30弱、今迄折れた男士達の墓場だという事は容易に想像できた。……それと同時に、私の中にどす黒い感情が渦巻く。ここは戦場、仲間の死如きにいちいち立ち止まっていては直ぐに敵に足元を掬われる、過去は全て消し去り進撃する事だけを考えなければならないというのに……! なのに乱はまるで私から隠すようにその墓石を造り、私が部屋に入るやいなや直ぐに庭に繋がる障子を閉めてしまった。障子を背に、青ざめた顔で取って付けた笑顔をする。アレを私に見られた事が不服……いや、私に見られれば自分が危険だと察したのだろう。それなら実に懸命な判断だが、生憎私の脳裏にさっきの乱の姿は焼き付いて離れる事は無いだろう。
「あるじ__さん。あのね、ボクは__」
「戦果はどうでしたか」
「あるじさん、ねぇ、聞いて!」
「__私の質問に答えてください」
「……っ、」
涙目になった乱、冷静に言葉を紡ぐ私。両者の温度の差は明らかだが、私が乱に合わせて涙を零す必要は無い。何故なら私が主だから、ここでは私が絶対主君であり、反論は許されない。
「池田屋の記憶市中、B勝利2回、敗北1回。敵本拠地は見つけられず。3回目の戦闘で__鯰尾藤四郎が、破壊。以上です」
乱が言った戦果を帳面に記入する。たった3回しか戦えなかったのか……まだこの戦場で充分に戦う戦力も揃っていない。大太刀を夜戦投入する訓練を本格的に検討するか__
「ねぇ、あるじさんは、悲しくないの!?」
「いいえ、別に」
それだけ言って踵を返す。審神者の任を解かれたといえ、このままでは一向に現世に帰る方法が判らないままだ。池田屋を攻略すれば現世に戻れるという保証は無いが、何かしらのヒントは見つかる筈だ。……そうやって自分を鼓舞しないと、この仕事は辛すぎる。

「__何の用ですか」

腕を、掴まれた。小学生のような細くてか弱い、刀を持てるのかも疑うような美しい手。その手は私の手首をしっかりと握り、小刻みに震えていた。帽子の鍔で表情は隠れてしまっているが、きつく結んだ口元からは悲愴を感じる。次第に握る力も弱くなり、振り払えばすぐにでも逃げ出せる。だが、私は……動けなかった。
「あるじさん、悲しいんじゃないの」
「いいえ」
見当違いだ、と彼の言葉を一瞥した。悲しくなんて、ない。

「嘘だよ。だって、さっき、鯰にぃが折れたって言ったとき__」
「離してください。私には仕事があるんです」
「____っ!!」

手を振り払い、歩き出す。刀の癖に兄弟の死を悲しむなど、あってはならない。そもそも乱と鯰尾は史実でも一緒に過ごした時間はとても短い筈だ、ここでの1年に満たない思い出など大した事無いだろう。それなのに__

「あるじさん、鯰にぃが折れたって言ったとき、悲しそうな顔してた。ボクにはわかる、和泉守さんや山姥くん……清光くんが折れたときも。ずっと、泣きたいのに無理して無表情だった!! なんで、なんでそんなに頑張るの!? ボク達だってあるじさんの為に頑張ってたけど、自分の為にしか頑張らないあるじさんは好きになれないよ、もっと、ボク達と……」
「…………っ!! 五月蝿い!!!」

__五月蝿い。なんでそんな私に構うの。

「あるじさん」

私の真名も知らないのに、なんで私を呼ぶの。

「ねえ」

もう、何も言わないでよ。






『 またね 』







__その後の事はよく覚えていない。私は暫く乱の部屋にいて、気付いた時に乱の姿はどこにもなかった。私の手元に彼の本体__刀身だけが残り、それ以来他の刀が次々と本体を残し消えていった。初期刀の加州、初鍛刀の乱両方を失った事により、全てに絶望したというのか。……それなら、すべて私の責任なのだろう。これでは現世に帰る事も夢のまた夢、ああ、どうすれば……。
「どうなされましたか?」
「長谷部……」
今この本丸に唯一残っている刀は、彼だけだ。私の部屋に積み上げられた夥しい数の刀、消えた男士達の本体の中に、いつ長谷部が混ざってもおかしくない。
「あなたは、これでいいのですか」
ずっと不思議に思っていた。本体を手放し本丸から消えた刀達がどうなるかはわからないが、彼だって他の男士を追ってここから逃げ出したい筈だ。最近は出陣すらできていないが、ここで腐れるよりは博物館で人の目に当たる方がまだましだろう。なのに、なぜ残る。
「主は、俺に早々に此処を出ていけと仰るのですか?」
__そういう事ではない。出ていって欲しいわけじゃないけど、ここに残って欲しいわけでもない。じゃあ何を望んでいるのか、それもわからない。本当に……わからない。
「無言は肯定と言いますが……」
やめて、悲しそうな顔をしないで。違うの、違うの、あのね__。
「今迄お仕え出来て、俺は貴女を誇りに思います。さようなら」
「待って!」

やっと声を発した時には、もう遅かった。フラッシュのように強い光に目を閉じ、開いたときに長谷部の姿はもう無かった。畳に置かれた長谷部の本体は何も語らない、人間に例えれば屍だろう。__とうとう、一人ぼっちになってしまった。まぁ、当たり前といえば当たり前だ。彼ら刀剣男士も心を持つ、あんな恐怖政治みたいな私のやり方についてこれないのは当然。ほんと、馬鹿みたい。なんで気付かなかったんだろう……なんで、あんなに、……____。

その時、短刀が目に入った。乱藤四郎、粟田口派では珍しい乱紋が特徴、細川に仕えていた一振り。懐刀であり、守刀。そして、腹を切る為の道具でもある。


___気付いた時、私は墓が建てられた庭にいた。墓が造られてない刀は抜き身にして、私を囲うように置いた。これで、寂しくない。白装束なんて物はないからいつもの小袖だけど、正式な場所じゃないから服装なんてどうでもいい。何もせず、ただここに存在するだけの私は無意味だ。だから、これでいい。己の命を己の手で絶ち、この世界にも現世にも別れを告げる。自殺した者の魂は報われないなんて言われているが、私は死後の世界なんて信じていない。もしあるなら、そうだな。……男士の皆と会えれば、私のやってしまった事を謝る事が出来る。私の命1つで罪が償えるとは到底思えないが、何もしないよりかは断然いい。

「ありがとう、隣にいてくれて」

最後にそう呟き、乱を私の腹に刺す。痛い。でも、痛くない。刺したら、少しずつ動かして傷を広げる。痛い、声が出てしまう。でも、痛くない。
そうしたら段々痛さも感じなくなって、乱を握る手の感覚が無くなる。座っていられなくなる。倒れる。
優しい土の匂いと鉄の匂いに包まれて、眠くなる。眠くなる。眠く、なる_____


眠く 、 なる





あーあ、ちょっと目を離しただけなのに。

こんな真っ白になって、それに凄い痩せてるじゃん

服だって汚れすぎ、女の子はもっとお洒落しないと

表情乏しくなっちゃったね

……骨だから、しょうがないか

最後ぐらい、隣にいるよ

ボクもここで、一緒に眠ってあげる

Deinde

どうでしたか。是非、コメント批評など残していってください。ただこちらは二次創作なので、「原作未プレイだから話の設定が掴めない」といったようなコメントはお控えください。

Deinde

乱藤四郎は墓を建てる 乱藤四郎は愛した主に突き放される そして 乱藤四郎は消える

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-27

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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