渡り廊下に春が見えたら。

ゆおん 作

渡り廊下に春が見えたら。

あなたにも きっと わかる。


「春が来たらね ここは桜並木だから

それは それは 綺麗な道になるの。

わたしはね、

何度もその下を歩いた。

見送られて 手を振り返して

さようなら

ありがとう って

桜の花びらが舞う春に

何度も お別れをしたのよ。

そうして 何度も 絶望したの。

あなたにも きっと わかる。
ここから出て行くということの意味。

忘れてゆくということ。

あなたにも きっと わかるわ。」



小さな中庭 不自由な日射し

誰かが帰って行った世界
あのドアの向こう 鍵のかかる音

小さな平和をぼんやり過ごす
置き時計の秒針に泣いては

シーツを握りしめていた

白く囲まれた 灰色 冷たい部屋

あの幸せを ひと口だけ かじりたい


あの日 手を振った あなたの

あの日 さようなら と言った私の

忘れるという罪
ドアの向こうに行くということ


散る

舞う


美しい春を 私は 知らない

渡り廊下に春が見えたら。

入院時に仲良くなったおばあちゃんが居ました。
とても可愛らしいひとでした。
退院前にしたお話がモチーフ。

渡り廊下に春が見えたら。

桜の道を歩いて出て行ったあなたと 見送った私と。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2017-01-27

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