明日の君へ。

明日の君へ。
そう題された小説は、本屋の棚をなめるように埋め尽くしていた。
その小説が人気だということは知っていた泰造も、いくらなんでも驚いた。
「うわあ、すごいなあ」
おもわず少年のような声を上げて、棚を見上げた。上から下まで、全部そうだ。
こんなに売れたら、作者も嬉しいんだろうな。…ていうか、きっとびっくりするんだろう。
泰造はその本を手に取り、ぱらぱらとページをめくってみた。
うん、いける。面白そうだ。あんまり細かい字が好きではない泰造でも、このぐらいの大きさなら読める。
友人に勧められ、読んでみるよと約束したはいいが、字が細かくて読めなかった、なんて格好がつかない。格好がつかないどころじゃない、かっこ悪い。
迷わず籠に小説を入れ、一回りしたが特に面白そうなものはなかったので、泰造はそのままレジへ向かった。
たいして混んでもいない本屋は、10秒ほど並んですぐ順番が来た。
もっとも、10秒じゃ「並んだ」とはとても言えないかもしれないが。
「お願いします」
律儀に泰造は言って、籠を差し出す。ついでに財布も差し出す。…おっと、間違えた。
「いらっしゃいませ~。文庫本が一点。合計…」
愛想笑顔ならぬ愛想声を出していた店員の、合計金額を読み上げる声が止まった。
財布の中身を覗いていた泰造は、びっくりして顔を上げる。
────泰造も、止まった。
なんと、店員は昔の同級生だったのだ。しかも、一度はお付き合いもさせていただいた。とびきり可愛いあの子。
その子が、昔の面影をしっかりと残して、目の前に立っていたのだ。
「ユキ…!」
「泰造くん!?」

その日はユキの仕事が終わってから、近くの喫茶店で飲み明かした。…といっても、コーヒーでね。

明日の君へ。

明日の君へ。

泰造が小説を買いに行った本屋さんの店員は、実は───。

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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-24

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