深海

出会い

 空へ高く高く解き放て

 ベランダデ洗濯物を取り込みながら美奈は心の中で呟く。青く澄んだ空、夕焼けの綺麗な空を見たときは必ずだ。瞳を閉じ胸の奥のあたたかくて涙が出そうなほど愛しいそれを、空に浄化するかのように解き放つ。
 何度も何度も解き放っているのに、いつになったら空っぽになってくれるんだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、部屋の中から美奈を呼ぶ声がした。
 「ママー!色鉛筆どこー?」

 美奈には子供が二人いる。女の子と男の子だ。愛妻家の夫もいる。どこからどう見ても幸せな妻だ。色鉛筆を子供に渡しながら、美奈は思う。やっと今日も終るなと。何に向かっているのか、どこまで行けばゴールなのかはわからないが、夕方一日が終わりかけた頃にほっとするのだった。

深海

深海

もがけどもがけど沈んでいく、叶うことのない想いを解き放ちたいのに……

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-04

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