ヘルツ記号が見えないならば

「1と6との転回速」と関連するような、しないようなそれです。

あの日は傘を差していたろう
耳のそばには低音を
煙ったむこうには高音を
足下には水溜まりへの収束を
跳ね返り多角度に重なる
雨音を、聞いていた
ああ、いま、霜を踏んだ

電波に乗ったのは
息遣いより身近な紙擦れだ
咳払いと過去性のインタビュー
酔いそうな0.8秒の沈黙に
致命的などの意味はないそうだ
外の景色が、見えた
ああ、そうか、信号が変わる

目を瞑ったって黒があるように
血潮の明滅が映るように
耳を塞いでも、せんなきことに
心音は、聞こえるじゃないか

鼓膜へ刺激が到達せずとも
振動ならば、ひびくがゆえに
傷口には、分岐した拍動
十分の一の爪先が抜け駆けたようだ
熱を、帯びた
生物めいたふたつの渦が
はるか二重螺旋を思い出し
水素と酸素に溶ければ良い
(さもないと、静謐は)
川面は凪がず鏡になった、
微細なゆらぎを湛えたままで
知ることができたのはそこまでだ
海を遠ざける塩素の、匂いをまとった身体で
循環の流れを眺めていた
砂の動く、ような

僕は
水平線越しの紫をのぞむ、臨む、望む
だまされたような目でみつめている
でたらめのような喉奥にひそめている
(錯覚だ、紫色の空など無い、幻妄だ、電気信号が成したうつろだ、気の利いたまやかし)

ああ、まだ、街灯が点いている

赤の散乱が、おわる
肺が、冷えはじめる
耳をすます
耳をすます
拾い損ねが嫌なのか?
いや
ほんとうに掴みたいものを奪うためだ
清濁の正誤に精度はなく
そこにことばが、そうだ
「これはことばだ」
二重性のおそろしい連なり
無機の子音が列をつくって
音韻が、有機があらわれる
切り貼りのうつくしさを引き合わせたように

耳を澄ませ
耳を澄ませ

ヘルツ記号が見えないならば

今年もよろしくお願いいたします。

ヘルツ記号が見えないならば

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-02

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