えんきょり、恋愛

面識もない。話したこともない。だけどつい、その姿を探してしまう。そんな、少しだけ遠い二人の距離のおはなし。

夜空に舞う、紫煙


私には気になる人がいる。好きかどうかも分からない。どんな人かも分からない【気になる人】。私が知っているのは、その人は私が住んでいるマンションの向かいにあるマンションに住んでいるという事と、煙草好きな男の人という事だけ。

知っている事はとても少ないのに、何故か、惹かれてしまう。…どうしてなのか。私にはわからない。



深夜一時。私は毎晩ベランダに出てお祈りをしている。冬の夜は寒いからベランダに出るのが億劫になる事もあるけど、もうこの生活を四年も続けている所為だろうか。お祈りをしないと安心して眠れない身体になってしまっていた。

お祈りの内容は、今日も世界が笑顔で幸せでありますように。というもの。綺麗事だと笑われてしまえばそれまでだけど、私にとっては心からの願いだった。

そんなお祈りを始めた四年前に、私は【彼】を初めて見た。私の住んでいる場所はマンションの九階で、【彼】も向かいのマンションの同じ九階に住んでいた。そして、私のマンションから彼のベランダはよく見えた。勿論道は挟んでいるし、距離だって遠いのに、何故か、【彼】だけはよく見えてしまう。

名前も知らない【彼】は深夜一時過ぎに、ベランダに出て来る。部屋で煙草を吸うのは嫌なのか、【彼】は毎晩決まった時間にベランダに出て、煙草を吸っていた。そういうところは綺麗好きというか、部屋に対してだけど律儀というかなんというか。とにかく素敵だと思った。

夏の時期は、黒いタンクトップにスウェット。冬の時期は黒のトレーナーにスウェットと、服に無頓着なのが手に取るように分かる格好を【彼】はしていた。肩ぐらいまである髪は軽くウエーブしているように私には見えていたけど、実際のところはよくわからない。

それでも、どこか妖艶で、綺麗で、私はいつもつい見惚れてしまう。









彼を知る術なんて、きっと私にはない。探せばあるのかもしれないけど、この距離が今の私には心地良いから、このままの方が良いのかもしれない。






遠い遠い距離ではないけど、私の胸にある【気になる】気持ちが、いつか【恋】に変わっても、私は、ずっと彼と、【遠距離】のままなんだ。

えんきょり、恋愛

私の住んでいるマンションの向かいにあるマンションに住んでいる男の人をイメージして書きました。その方は決まった時間に、ではないのですが、何時も深夜に煙草を吸いにベランダに出て来るのです。
ストーカーとか、その方に恋をしているとかそんな事はありませんが、少しだけ遠い遠距離恋愛も素敵だなと思い、書きました。
向かいのマンションに住んでいるお兄さん、素敵なお話を私に降らせてくれて有難う御座います。

そして、ここまで読んで下さった皆様も有難う御座いました。次回作も是非、宜しくお願いします。

えんきょり、恋愛

遠距離恋愛

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-26

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