赤鼻のサンタクロース

以前、ブログに書いたことのあるお話を、記憶を頼りに書き直したもの。

クリスマス当日を迎えた、泣き虫なサンタクロースのお話。

それは、子供達に大人が語る、この世界のどこかにある、サンタクロースの森のお話。



鈴の音が響く森は、たくさんのサンタクロース達が住んでいて、クリスマスが近づくにつれて大忙し。


今年も例年通り準備は進み、サンタクロース達は当日プレゼントを配る地域の確認に入っていました。



他のサンタクロース達が忙しなく動いたり、準備をいろいろ進めていく中、ひとり、プレゼントの小屋の前にある、半分雪に埋もれた階段に座り込むサンタクロースがいました。


サンタクロースは、ため息をつきました。

ため息は、森に降る粉雪に消えていきました。

さっきから、このサンタクロースはこの調子なのです。

近くには、トナカイを繋いだソリが転がっているのに、何も準備をしようとしないのです。


ため息ばかりをついて、目をはらし、鼻は泣き顔のせいで赤くなり、時折視界をにじませては、声をあげて泣いていました。

その度に、トナカイは前脚で雪を蹴っていました。


そこへ、金のサンタ服をきた、サンタクロースの中のサンタクロース、大サンタクロース様がやってきました。
手に、何かを握っています。


「こんなところで時間つぶしか?もう荷造りは終わったのか?」


大サンタクロース様は、話しかけてきました。

幾千の夜空を共に駆け抜けた懐かしいソリに、自分を乗せて引いてくれたトナカイの子供達。


トナカイは、鼻を鳴らして、大サンタクロース様に話しかけていました。


「やはり、準備をしていないのか。」


大サンタクロース様は、トナカイから話を聞きました。


泣きはらした顔で、サンタクロースは言いました。


「私には、荷が重いです。」


大サンタクロース様は、無言で、手に持っていたものを差し出してきました。


それは、子供達から届いた、サンタクロースへの手紙でした。


大サンタクロース様は、ニカッと微笑むと、驚いて目を見開くサンタクロースの手をとって、手紙の束を握らせてこう言いました。


「それを見ても、まだ飛べないのなら、私に言いなさい。私は、この森のどこかに必ずいるのだから。」

大サンタクロース様は、そう言い残すと、再び森の奥に消えていきました。


サンタクロースは、手紙を読み始めました。



サンタさんへ。
今年も、楽しみにしています。
僕は、クリスマスとサンタクロースが大好きです。


ひとりひとり、書いてくれた言葉は、すべてサンタクロースのやらかしたミスでした。

ある時は、トナカイのドリフトのせいで、空にプレゼントをぶちまけてしまったり、またある時は暴れるように空を駆け回るトナカイに振りまわされて、空に響き渡る声を発してしまったり、またある時は、クリスマスの前の日にプレゼントを配ってしまいました。


子供達は、それを喜んでくれていました。

プレゼントがたくさん空から降ってくる夢を見れた、楽しそうなサンタクロースの笑い声がきこえた、前の日にプレゼントが届いて、びっくりしたけどすごく嬉しかった。


サンタクロースは、もし、今年も何かミスをしたらとうとうクビだと、他のサンタクロースに言われ、ずっと泣いていたのでした。


子供達の温かい言葉と励ましに、サンタクロースはすっかり笑顔になっていました。

しかし、目や鼻はぐしゃぐしゃに濡れて、とてもキレイとは言えません。


泣きじゃくるサンタクロースにトナカイが近寄って、いつの間にかくわえていた、サンタクロースのハンカチを渡しました。


「これ、おまえが持ってたのか。」


手癖の悪いトナカイに笑いながら、サンタクロースは気持ちを引き締め、遅いクリスマスの準備に取りかかりました。


トナカイは、プレゼントのルートの確認をしています。


プレゼントは、もう自分が配る分だけ。

せっせとソリに運びました。


トナカイは、準備運動に入りました。


サンタクロースは、手紙をひとつひとつ思い出しながら、時折涙を流して、さっきまでの自分を殴りたい気持ちでいっぱいになっていました。


大サンタクロース様からいただいたソリと、共にクリスマスを駆け抜けたトナカイの子供達が、自分にはいたのに。


すっかり、自信をなくし、自分を見失っていたのだと気づきました。

最後のひとつをソリに乗せて、サンタクロースはトナカイを見ました。


「行こう。世界中の子供達が待ってる。」



トナカイは、月が眩しくないようにと、愛用のサングラスをかけました。


「...そんなのかけてたのか。」

サンタクロースは、どの手紙にも書いてあった言葉を思い出しました。


サンタさんのトナカイは、とってもカッコイイ!



トナカイは、それを聞いて、鼻を鳴らして勢いよく空へと駆け上がっていきました。



寒空に、響くベルの音。


ソリは、キラキラと星の軌跡を描いて、空を飛びます。


サンタクロースは、手綱をしっかり握り、ひとつひとつ、プレゼントを配っていきます。


しかし、それ以上に張り切ったトナカイが、サンタクロースを絶叫させたのは、ナイショのお話。


ある地方では、その年、珍しいホワイトクリスマスとなり、空には光が描いたMerryX'masの文字が見られたとか。



サンタクロースの鼻は、少し赤く、それは寒空のせいで赤いのだと言われています。


けれど、本当は子供達の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、涙が出てきてしまうほど、泣き虫だからかもしれません。


これは、大人が子供に語る、サンタクロースの森のお話。


森には、金の服に身を包む、大きな大きなサンタクロースもいて、それは大人だけに、夢のプレゼントを運ぶのだとか。



クリスマスの夜は、空に夢を思い描いてみませんか?


サンタクロースが、あなただけに、ウインクをしてくれるかもしれませんよ。



おわり。

赤鼻のサンタクロース

お話の元は、私が小学生の時に書いていた、いじめられっ子のサンタクロースのお話から。
ある日、突然それをふと思い出し、今書いてみたらどうなるだろうか?と思って、書いたのが始まりです。

赤鼻のサンタクロース

サンタクロースに手紙を書いたことはありますか。 その手紙を見て、サンタクロースはやる気を出しているかもしれません。 そんな、夢の中の夢のようなお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-25

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