生への謝罪

僕はもうすぐ遠い町に引っ越す
だから今の家がいとおしく
ほんとうに名残惜しい

そこで僕はその家で過ごす最後の日まで
すべての会話を
すべての行為を
すべての一秒を
大切にすると決めた

丁寧に言葉を選び
可能な限り想像し
記憶のアンテナを張り巡らせた

するとどうだ
本当は何もなくとも
そうやって生きていかねば
ならぬのだと気付くのだ

そして僕が今まで
どれだけ自分の生を
ないがしろにしてきたのか
気付くのだ

そして僕は
浪費された生命に、傷付けられた時間に
手荒に処理されてきた僕のたましいに
深く
深く頭を下げた



夕日が落ちる頃
僕は住み慣れた家を出た

オレンジを纏う街
少しの家具をのせた車がゆく

僕は心のなかで
無意識にぞんざいに過ごした
去りゆく街に頭を下げた

あたらしい街に着く僕は
あたらしい僕だ

すべてを大事にする
人生が始まる

生への謝罪

生への謝罪

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-21

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