ジムの家賃

A美さんはマンションを探していた
東京の西の方で
ペット可の物件
しかもペットは
ミニチュアダックスのジムと
チワワのレオナルドの2名様

ある時彼女はようやく良い物件を見付けた
1DKで月6万円
もちろんペット可で
動物は1名様ごとに月1,000円

大家さんは好好爺で
更新料も不動産屋さんの手数料のみ

日当たり良好
商店街も近い
駅までは少しあるけれど
自転車で いぬ達のお散歩も善きかな

大家さんは動物が好きらしく
必要な会話しかしないけれど
会うといつでも上機嫌


それから彼女はもうそこに8年住んでいる

全く上がらない家賃は
毎月62,000円ずつ
黙々と引き落とされる


ある時、覚悟はしていたけれど
年長のジムが天に召された
純然たる寿命
だからと言って悲しみが
減るわけではない


それからA美さんは、
大家さんに会う度に言葉を失うのだ

ジムのことを伝えなければ

でも

1名様分の家賃
これを払わなくなったら
本当にジムはいなくなってしまう


たったの
たったの
たったの1,000円の中に
ジムはいるのだ


レオナルドは無邪気にA美さんを慰める
存在で 挙動で 表情で 食欲で

大家さんはジムのいない散歩姿を見ても
決して何も言わない


今日も陽は暮れる

朗らかで優しい大家さんと
A美さんと
レオナルドと
自転車を照らして

ジムの家賃

ジムの家賃

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-19

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