子どもの頃の将来の夢

 愛を求める相手が片方欠けている子どもは、おしなべて甘えん坊なのかもしれない。
 小学生の時分、僕は「教師」になりたいと言っていた、そう記憶している。それは、最も就きたい職業として挙げていたのではなく、おそらく別の質問に置き換えた上での応答だろう。
 あなたにとって、一番の憧れの存在は?
 教師だった。担任の先生に憧れ、かけがえのない存在だったことを自覚していた。だけど、あんな風になりたいかと訊かれると、首肯しかねる。それとこれとは、また話が違ってくるから。
 名前も顔も憶えている。若くない女性の先生で、格好はいつもラフだった。小学校の先生はみなそうなのかもしれないけど。あと、声が大きくて、怒るとちょっと怖かった。
 普段からなにかと内側に溜め込みがちで、その反動でときどき感情を爆発させていた僕は、大人になる過程を歩いていた。そんな少年を、その先生は懇々と言葉で説いてくれた。辛抱強く、こちらに分かるように、丁寧に。大切なことを、いくつも。
 あれからずいぶんと時間が経過したのだと、こういうことを書かされると感じる。将来の夢が「教師」ではなくなった僕は、自分の夢を誰にも告げられないのは嫌だな、と友人の前で漏らした。
 涙は流さなかった。

子どもの頃の将来の夢

子どもの頃の将来の夢

将来の夢が「教師」ではなくなった僕は、自分の夢を誰にも告げられないのは嫌だな、と友人の前で漏らした。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-12-17

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