となりの席は誰の席?

となりの席は誰の席?

短編です。よんでもらえたらうれしいです。
アドバイスもください。


 その日、私は死んだ。それから私は同じ時間を何度も繰り返している。場所は電車の中で駅を降りると、また同じところに戻っていた。電車の中は二人掛けの椅子がずっと並んでいた。私は窓側に座って外の景色が変わるのを見ていた。私が座っているのは誰にも見えてない。でも何度もそこにいるのだ。
 
 その日を、僕は後悔していた。彼女に声をかけられなかった。一目惚れだった。隣の席で彼女は僕の好きな作家の本を読んでいた。そこに惚れたわけじゃない。彼女のピンとした姿勢、そして真剣な目付きで本を読む横顔に心を奪われた。
 
 私が成仏できないのは心残りがあるからだ。けれど、思い出せない。何度も同じ時間を繰り返しているけど、私は無性に本を読みたくなる。きっと死ぬ間際に読んでいて、ラストを読めなかったとかそんな理由かもしれない。でも私は本を持っていない。
 
 僕はその日から毎日、同じ時間、同じ席に座っているけど彼女には会えないでいた。僕は窓側の席に座れない。僕だけじゃなく誰もだ。なぜだろうか。あの日、声をかければよかった。慌てて電車を降りようとした彼女は本を落としていった。僕はその本を拾ったが彼女を引き止め返すことができなかった。
 
 はぁ、私は何度同じ時間を繰り返すんだろう。
 
 はぁ、僕は次の日も彼女を待ち続けるんだろか。
 
 「もう…イヤだ、疲れた」
 その時、二人の声が重なった。二人の時間が重なった。彼女は彼を見た。彼は彼女を見た。
 
 思い出した。その日は雨が降っていて私の隣に座った彼は濡れていたけどタオルを持っている風ではなかった。私は彼にハンカチを渡そうとしたけど声をかけられなかった。
 
 違った。本当の後悔は本を返せなかったことじゃない。彼女に僕もその作家が好きだとか理由をつけて、彼女に想いを伝えたかった。
 
 「これ、どうぞ使ってください。そんなに濡れてると風邪引きますよ。返さなくても大丈夫です。」
 そういうと彼女は本を落としたことに気づかず足早に立ち去ろうとした。
 
 「あの、本落としましたよ。ハンカチは必ず返します。僕もその本好きです。また、話したいです。」彼は彼女の腕を掴み、彼なりの告白をした。
 
 彼女は本を受け取りにっこり微笑んだ。電車を降り、ホームから急いで階段を駆け昇った。そして、今度は彼の名前を聞くのを忘れたことに気付いた。振り返ろうとした瞬間に足を滑らせ階段から転落した。

となりの席は誰の席?

となりの席は誰の席?

電車で起こる不思議な話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-17

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