やさしい うそ と 少女

うそには沢山の種類があります。人を傷つけてしまう、うそ。自分を守るためにつく、うそ。そして、相手を想ってつく、うそ。
今回はそんなうそをテーマに書きました。
温かく切ないお話を目指して書いたので、少しでも切なさやその中にある温かさを感じてもらえたら嬉しいです。

誰よりも愛しく、大好きなあなたに優しい【うそ】を。


私は恋人さんの事が大好きです。私には勿体ないぐらい優しくてかっこいい恋人さんは、誰にも負けないぐらい素敵だと思う。
でもだからこそ、私から【離れて】しまいそうで怖いの。
私はあなたと違って素敵じゃない。あなたの周りにいる女の子に比べて可愛くもない。性格も面倒だし、嫉妬深い。…自分でも嫌になるくらい魅力がないから、あなたにいつか愛想を尽かされてしまいそうで、とても怖いわ。


仕事で忙しいあなたの帰りを、忠犬のようにいい子に家で待つ毎日。そんな毎日も嫌いじゃないけど、やっぱり寂しいと感じるの。

「…ただいま、」

玄関が開く音。そして聞こえた甘く優しい声。その声に反応するように腰を下ろしていたソファから立ち上がれば、愛しい恋人さんの元に足早に向かった。

「おかえりなさいっ」
思わず勢いに任せ抱き着いてしまうも、私より力の強いあなたは軽々と私を抱き留め、暖かな腕の中に抱き締めてしまう。
その温もりが、寂しさを少しずつ、少しずつ消してくれるの。

「…寂しくなかった?って、寂しがらせちゃったのはオレだと思うんだけど…、」
申し訳なさそうに下げられた眉が少しだけ悲しくて、私は小さな【うそ】を吐いた。

「大丈夫、私は寂しくなかったよ。だからそんな顔しないで。…ね?」
寂しかった想いを隠すために【うそ】を吐いて、私はあなたを笑顔にしようとした。ただ、笑って欲しかった。あなたの笑顔が、好きだから。

「優しいね、キミは。有難う、そう言ってもらえて嬉しいよ」
そう笑って告げるあなたはとても幸せそうで、嬉しそうで。これで良かったんだと思う。


『…寂しかったよ、会いたかったよ』
そう言えばいいだけなのに言えなかった。私が【うそ】をつくことで、あなたの笑顔を【守れる】なら、私は嘘つきになるよ。



仕事場でモテる恋人さんは、私という【存在】が居ても、沢山の女の人に言い寄られている。そしてそれを私は知っている。知っているからこそ、あなたがいつか誰かに取られてしまいそうでとても怖くて、不安でしかたないの。でも私に出来ることは【演じる】事だけ。あなたに離れていってほしくないから、我儘を言わない、束縛しない、いいこを【演じる】しかないの。


でも不安気な私の瞳に気付いたのか、恋人さんは小さな声で突然、
「…オレはずっと、キミだけのものだよ」
と囁いた。甘くて優しくて、そして私の胸をぎゅ、とその言葉が締め付ける。



だけど私は嘘つきだから、あなたの笑顔を守りたいから、今度は私が笑う番。



「ふふ、知ってるよ。私もずっと、あなただけのものだよ」










この言葉に【うそ】はない。
でも、本当は、
『じゃあずっと私だけを見ていて』
『他の人をその瞳に映さないで』
『他の人に【うそ】でも甘い言葉を囁かないで』
『誰にも言い寄られないで』
『誰にも触れられないで、触れさせないで』

そんな最低で冷たい言葉を、言いたくなるの。





…紡ぐ言葉に対しては【うそつきじゃない】けど、想いを隠してしまう【うそつき】な私をどうか許して。そして、我儘を言ってもいいなら、……私を愛していて。











…ずっと、ずっと、あなただけを、私は愛しています。

やさしい うそ と 少女

想いを隠すことは辛いことだと思います。苦しいと思います。伝えることはとても怖くて勇気のいることだけど、自分の想いを全て隠すのではなく、少しずつでも吐き出して、辛くない、苦しくない日々を過ごしてください。

最後まで読んでくださって有難う御座いました。次回作も是非宜しくお願い致します。

やさしい うそ と 少女

うそ 少女 束縛 そして切なさを書いてみました。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-12

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