練習-2-

前半部分です。
後半は後ほど。

「なぁ、(いおり)。最近噂になってる女の子いるだろ?」
店番をしながら、奥の座敷で昼飯を食している店主に声をかける。
「そうだね」
「俺は会ったことはねぇけど、あいつも俺とおなj――」
その言葉を遮るように、静かな声が覆いかぶさる。
「彼女の名前は霧織夢(きりおりゆめ)。歳は高校生くらいかな。(あきら)よりは年下だけど背はあの子の方が高いよ。膝まで流れるような艶やかな黒髪に純白のワンピース姿。あ、あとは人懐っこい子だから、すぐ見つかると思うよ」
すらすらと淀みなく説明をする庵。
「……相変わらず情報通なことで。軽くひいたわ」
「酷い言い草だね、知りたそうだったから教えてあげたのに。ふぅ……ということで、晶、いってらっしゃいな」
「えぇ、めんどい。まぁ、聞くだけだけどな。最終的にどうするつもりなんだ?」
「もし、そうなら危ないからこの店に連れてきて保護する感じになるかと」
「そういうのなら、庵の方が得意だろうが。俺はそういうの得意じゃないの知ってるよな」
「はい。なので、さっきのさっきまで、そうするつもりだったのですが、暴言が聞こえましたので辞退させていただきます」
にっこりと微笑みながらも有無を言わせない空気に、晶はおずおずと了承する。
「くすくす。晶は物分かりが早くて助かります。あ、そうだ。彼女にひとつだけ伝言を」
「お前が行けよ!!」
「聞こえませんね。気をつけていってくるんですよ?」
半ば強引に追い出された晶だったが、一旦外に出るとそんなやりとりがあったとは思えない真剣な眼差しで少女を探し始めた。
庵の言う通り、出で立ちが特徴的すぎて、半刻ほどしたあたりで見つけることができた。
河原で何かを探すようにかがんでいる少女の背中に、晶はぶっきらぼうに声をかけた。
「おい、お前が霧織夢ってやつか?」
「……何?」
少しの沈黙の後に返ってきたのは、ぶっきらぼうな声。かがんでいたせいで黒髪はうっすらと輝きを失っている。両方の目は前髪で隠されて感情を汲み取ることはできない。
「だから、お前は霧森夢かって聞いてんだよ」
「そうだったら、何だって言うの」
凛とした佇まいからは想像できない物言いに一瞬驚くが、負けじと要件を伝える。
「ちょっくら用事があるからついてこい」
「用事があるなら今すればいいじゃない。私は忙しいの」
「用事があるのは俺じゃねぇ」
「じゃあ、そいつにここまで来るように言えばいいわ」
「俺もそうしたいのは山々だが……あいつは店から動く気がないんでね」
「そんなのそっちの勝手でしょ。暗くなったら探せないんだから、邪魔しないでよ。さっさとどっかに行ってほしいんだけど」
棘を含んだ言葉が次々と飛び交う。何を言っても聞いてはくれない様子に晶は閉口する。そして、店に一旦帰ろうと踵を返したときに伝言を思い出し、伝える。
「あ、そだ。そいつがさ、何だっけ……。えっと、そうそう。お前の探しもんの役に立てるかもだってさ」
「あなたバカなの? そういうことは早く言いなさいよ。さぁ、さっさとそいつのところに案内なさい」
「へーへー。はぐれんようについてきな」

練習-2-

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-09

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