夜中のアイスクリーム活動

 舌の上でバニラ味のアイスクリームが溶ける瞬間が生きている中で一番好きだと思う。
 三秒見ているだけで顔が熱くなっちゃうくらい気になっているあの子と手がちょんと触れてしまう瞬間より、布団に入ってあったかいなァ、やわらかいなァってにんまりしちゃうあの瞬間よりもだ。
 ジュワッよりもとろっ寄りのシュワッていうあの感じがなんとも言えなくて、とても好きで、あの瞬間を求めてボクは何度も何度もバニラアイスクリームを口へ運ぶのだ。
 他校なのだけれど毎日会いたくて、わざわざ電車の時間を変えたくらいボクが夢中になっているあの子は、時間をおいて少し溶けたものの方が好きだと言うけれど、ボクはまだカチカチのものに力一杯スプーンを突き刺して、舌の上でゆっくり溶かしながら食べるのが好き。
 ボクがバニラアイスクリームを食べるのは大抵やる気を入れたい時や、逆に課題の後とかにリラックスしたい時なのだけれど、実は眠る前にベッドの上で愛猫のワニラを撫でながら食べるのが一番好き。そして食べ終わったら一杯の抹茶を飲んで眠る。そうした日の夜は必ず、名前も知らないあの子と空飛ぶクジラに乗る夢を見る。
 雲を千切って隣のあの子に渡すと、一口ぱくりと食べて、それから残りをボクの口に押し込んで「美味しいね」と可愛い笑顔を見せてくれるのだ。
 しかしバニラとは一体何なのかよくわからないのだけれど、例のあの子よりも甘くて、雪ほど白くはないけれどボクの肌よりは白い、ボクの知っている色の中で一番優しい色をしていて、ケーキとかにココナッツと入れるとそれはもう素晴らしくて、製品表示にバニラエッセンスとかバニラビーンズってあるだけで、リッチな印象を持たせるバニラってやつがボクはとても好きだと思う。
 月の光が強く感じられる頃、ボクはベッドに腰掛けて、ワニラを撫でながらスプーンをしゃぶる。
 ボクがこの後見るであろう夢の中では、大きなクジラが雲の後ろから尾びれだけを覗かせてゆらゆらさせながら、まだかまだかとボクらを待っていることだろう。
 あの子に会うために始めたことだけれど、今ではもうあの子に会うためなのか、あの感覚を味わいたいからなのか、どちらが理由でスプーンをしゃぶっているのかわからない。
 とにかく、あのあの子のことですら考えられないくらい頭を空っぽにして、今夜もボクはあの瞬間を貪欲に求めている。

夜中のアイスクリーム活動

夜中のアイスクリーム活動

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-29

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