行方帽子

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石を上手く蹴れたらできる距離の分だけ進んでいけば,きっと辿り着くのだった。一緒に頂きますと片づけをする,お姉ちゃんの隣の席に。内緒で彫った皆の名前が触れるところに。そこにくっつけちゃうんだ動物の,5枚組みのシール。
一歩,一歩,一歩。つま先がちょっと窮屈になってきた靴を気にして進んでく。お母さんは大きくなったねって褒めてくれるってもう知ってる。一緒に靴を買いにも行ける。今度はちょっと大きいサイズ,次に大きくなってもいいようにちょっと大きいサイズじゃなきゃいけない。僕はまだ大きくなれるだろうから。大きく育っていくだろうから。もう一歩,もう一歩。石のとこまでもう一歩。


はりきり過ぎた風がいけなかったから,帽子は黄金草の中に入っていった。切りそろえれた黄金草は僕の背より高いくせに,僕の頭を叩ける「シナヤカ」で硬い葉っぱだらけで,僕は前から黄金草が苦手だった。お父さんに肩車して貰ったときに眺められた黄金草の頭は風に吹かれて綺麗だったから,黄金草は大人にいい顔する草なんだ。そんなことも「コビテル」ようで嫌なとこ。でも,今は我慢する。帽子を被って辿り着かなきゃいけなかったから。帽子は置いてけないんだ。だから,石には待ってもらってる。
顔を覆って黄金草の中を進む。葉っぱが「シナヤカ」で硬いから,掻き分けるということにとても向いてないと思う。掻き分けるたびに帰ってくる葉っぱが「シナヤカ」で硬いから,しかも数も多いから両手の同じ部分を何回も叩いて痛さも重なって,もうあちこちが痛い。でも,帽子は見える。手も届きそうだから。届かなくても工夫したいから。だから,掻き分ける。


見上げて真ん中に帽子があるように立ち止まった。帽子は黄金草の頭のすぐ下にある葉っぱ数枚に抱っこされている。そう見えた。
その帽子を取るには少し背が足りない。今度は黄金草の,助けを借りるしかない。硬い葉っぱの,「シナヤカ」さを。茎を僕の体重一杯に引く。「シナヤカ」だから曲がる黄金草を離す。勢いよくてコケちゃったけど,帽子は葉っぱから離れて少し後ろに落ちた。下の柔らかい土の上に,パサっていうのが正しいと思う音して,落ちた。拾った帽子は僕の帽子だった。
黄金草をまた掻き分ける帰り道は,帽子のために痛がったんだった。



石は待ってた。今度は弱くなっちゃったけど,まっすぐ飛んでった。次の距離までまた一歩,また一歩。帽子を被った僕と,少しつま先が痛い靴を履いて進んでく。黄金草の上を風が吹いて,ザザーっと鳴った。多分黄金草は綺麗だろう。お父さんと見たいと思う。お母さんもお姉ちゃんも,一緒だといい。そのためにも。


石を上手く蹴れたらできる距離の分だけ進んでいけば,きっと辿り着くのだった。一緒に頂きますと片づけをする,お姉ちゃんの隣の席に。内緒で彫った皆の名前が触れるところに。もう一歩。もう一歩。

行方帽子

行方帽子

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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