夜道の錯乱

平凡な日常が、あたりまえのようにいた家族が、
1番信頼していた人によってすべて失うことを

想像できますか?

はじまりにしておわり

1998年5月3日僕は生まれた。

両親は僕が小学校4年か5年か定かではないがそれぐらいに離婚した。
まったく生活に支障なく暮らしていたので特になにも思いはしなかったが。
僕には兄弟がいないので母と僕 そして愛犬が一匹いた。 犬は可愛い。
とても愛でていたしなによりも大切なものだった。
"あの事件"のことをこの日記に書き表すためには、もうすこし僕の親族のことを紹介しておきたい。父方の親戚の事はほとんどわからないので言う事はできないが、父方の祖父が亡くなったということは知っている。
どうやら葬式にも出向いたらしい。
母方の祖父母とは昔から一緒に遊びにいったりと小さいころから母や父同然のような関係だった。イオンモールのゲームセンターでぬいぐるみを取ってもらったりお寿司に連れていってもらったりと楽しく幸せな思い出しかないように思える。
母方の親戚とはいつもめでたいことがあればすぐ集まる間柄だった。
おっと、、まだ"あの事件"の主な舞台となった僕の地元のことを紹介しなかったか。
僕が住んでいた のは大阪の固有名詞は伏せるが( そこが悪い印象を持たれても悲しいことなので…)
市内の開発途中の地域で昭和の住宅街と近代的な商業施設が同じ地域のなかにあるような場所だった。
祖父母の家はそのほぼ中心にあるこじんまりとしたビルだった。その上階が家で昔、他の階は企業に解放していたらしいが、当時はだれも使っておらず薄気味悪かった。
僕の家はそこから10分くらいの立派といえるマンションの9階に住んでいた。とても住みやすく幸せだった。とても、とても

小中 と僕はバスケを上手くなく、レギュラーとして試合に出ているわけではないがずっと習っていた。
そのまま市内の私立高校に入学して当たり前のようにバスケ部に入った。そこでも試合にでれたわけではなかったが、それでも楽しかった。"あの事件"の前までの僕の人生は目立った活躍こそないものの 普通 という幸せに満ち溢れていたと思う。
もう導入はこれぐらいでいいかな

さて あの事件のことを ここに書きます

あれは11月の中頃、肌寒くなってきた頃のことだ。
その日僕は部活がいつもより長引き、学校を出たのは7時すぎだったと思う。学校から家までは自転車で35分くらいだが、部活の友達と帰るので帰路は45分はかかる。いつも途中で別れてからは1人になるのだが。
その日 僕達はクリスマスのことで大いに盛り上がっていた。いまおもえばあの時間が人生最後の心から楽しめた時間かな、もうあれ以上の楽しむという感情は一生生まれない いや生まれることはできないのかなと思う。
時系列が前後するが、6日前に親戚夫婦が腹痛で病院に運ばれた。心配はしていたが、食中毒ではないというのでそこまで大事に捉えていなかった。
いまおもえばあれが全ての兆候だったかもしれない。
みんなと別れてから一つ目の信号に当たったので、
ふと、 ほんとうにふと携帯の液晶画面をみると、
LINEの新着メッセージが一件。10分前に来ていた、ちょうどみんなで盛り上がっていたころだ。そして何気なくアプリを開いてメッセージを見た。
そこには 大丈夫か? の4文字。
地元の親友ともいえる友達からだった。
なにが大丈夫?なのかさっぱりわからない。だから
いきなりどうした?と返した。
ここからは僕達のやりとりをそのまま書きます。

大丈夫か?

いきなりどうした?

いまどこ?

帰り道やけど なに???

はやく家にかえったほうがいい

なんで? わけわからん

自殺したそうだ

え?は?だれが?




お前のお母さんが犬と



このメッセージが来た瞬間なにも考えれなくなった。
僕は自転車を漕いだ。無我夢中で無意識の中で。
秋の夜道。まるで取り乱したように。
とにかく漕いだ。
家の下まできたとき、二台のパトカー、救急車、そして野次馬が数人。
僕は警察官に言った。
僕は自殺した女性の息子です。と
なぜあのとき、あんなにも冷静に自らが何者かを伝えられたかはわからない。いまでもなぜだか。
警察官は神妙な面持ちで僕を"事件現場 "つまり僕の自宅へと案内してくれた。
自宅の扉は開いていて、周りはブルーシートでおおわれていた。

遺体はいまは病院です。あなたの愛犬は…無惨な姿で見つかりました。お母さんは首吊り自殺でした。
むかいのマンションの窓から首を吊った状態のお母さんが見えたそうです…
通報したのもその人でした。 そして、

警察官は僕に1枚のメモを手渡してきた、そこには
一言 ごめんなさい とだけ書いていた。

これはお母さんの遺体のそばに置いていました…

そうとだけ言って警察官はもう何も言わなかった。

家を出たのとほぼ同時にメッセージを送ってきた友達からいつでも俺んとこに来いよとメッセージが来ていた。いい友達をもったなあと少し感動した。
しかし、迷惑をかけたくないのでおばあちゃんの家に行くと返信した。その時だった。
おばあちゃん? 背筋が凍ったようだった。
嫌な予感がした。不安で心が押し潰されそうだった。
まさか?いや、そんなことは…

嫌な予感がするのでついて来てもらっていいですか?

僕は警察官とともに祖父母の家へ向かった。
エレベーターを上がり玄関へ。
その間、この嫌な予感はさらに増大していくばかりだった。
鍵は開いていた。嫌な予感は確信へ変わりつつあった。
扉を開いてリビングへ…
その瞬間 僕達は息を呑んだ。
警察官もこの光景は初めてだったのかもしれない。
そこには喉元を切り裂かれた状態で横たわる祖父の姿があった。そのそばには自宅と同じ ごめんなさい の
メモ。
そして奥のキッチンには縄で首をしめられ苦悶の表情を浮かべる祖母の死体が転がっていた。

僕の嫌な予感は当たっていたのだ

そして事件の前日、母方の親戚夫婦が亡くなっていたと知らされた。何者かに薬を盛られたらしい。
あのメモこそなかったものの、おそらく母だろう。

昨日まで笑顔の美しかった母。

広い心で僕の全てを受け止めてくれた母。

僕の道しるべだった母。

その母が僕の大切なものを奪っていった。
真相はわからない。
もう母はこの世にはいない、祖父母も親戚も。
"あの事件"からもう3日が経つ。
友達の家に居させてもらっているが、もう迷惑はかけられない。
これは日記とはいえないな。

さて、これからどうしよう。

夜道の錯乱

夜道の錯乱

"普通"の幸せな人生を送る青年。 なぜ?なんで? 一夜にして崩れた"普通" 青年はどう生きるか。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-14

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