シンデレラ

 昔々、とあるところにシンデレラという一人の心優しい娘がいました。
 シンデレラは継母と二人の義理の姉に、奴隷にようにこき使われる日々を送っていました。
 ある日、この国のお城で舞踏会が催されることになりました。
 継母と姉たちは着飾ってお城へと出かけていきましたが、シンデレラは留守番を申し付けられ、舞踏会へは連れていってもらえませんでした。シンデレラは悲しくて泣きました。
「ひどい!私も舞踏会に行きたいのに!」
 するとどこからともなく、老婆のしわがれた声が降ってきました。
「お前のその願い、叶えてやろう」
 その声に反応して振り返れば、一人の魔法使いの老婆が立っていました。
「あなたが私を舞踏会へ連れていってくれるの?」とシンデレラが訊ねれば、魔法使いは「いかにも」と大仰に頷きました。
「でも、こんなみすぼらしい恰好じゃ――」
 シンデレラは自分の灰や埃で汚れたみすぼらしい服を、しょんぼりと見下ろします。
「私が魔法で変えてしんぜよう」
 魔法使いは片手に持っている杖を振って、たちどころにシンデレラの服装を綺麗なドレスに変えました。
「次はこれじゃ」
 魔法使いはさらに杖を振ります。
 ネズミが馬に、かぼちゃが馬車に、ぼろぼろの革靴はガラスの靴に変わりました。
「極めつけはこれじゃ」
 最後に、魔法使いはシンデレラ自身に魔法をかけました。
「いいかい?この魔法は十二時の鐘が鳴り終われば解ける。それまでに戻っておいでよ」
 シンデレラは魔法使いの忠告に頷き、かぼちゃの馬車に乗り込んで、喜びいさんで舞踏会の開かれているお城へと出かけていきました。
 一方、お城ではすでに大勢の人たちが舞踏会を楽しんでいました。
 特に女性たちは、王子の心を射止めようと、王子の前で妖艶な動作で踊ってみせます。
 しかし王子は、つまらなさそうな顔で舞踏会の様子を眺めているだけでした。
 そんな中、舞踏会へと入ってきたシンデレラを見た瞬間、王子の顔色はぱっと変わりました。
 一目惚れでした。王子はシンデレラの、その美しい容姿に一瞬で一目惚れしたのです。
 王子はシンデレラに一緒に踊ろうと申し出ました。シンデレラに断る理由はありません。
 二人は時間を忘れるほど、夢中で踊りました。
 その様子はとても美しくまた優雅で、周りの女性たちはみんなシンデレラに嫉妬しました。
 そんな女性たちの様子を察して、シンデレラは密かに優越感に浸るのでした。
 しかし、楽しい時間は長くは続きません。始まってしまえば、必ず終わってしまうのです。
 時計の針が十二時を指し、鐘が鳴り始めてしまったのです。
 鐘が鳴り終われば、魔法はすべて解けてしまいます。
 シンデレラは王子から手を離し、一目散にお城の外へと走りました。
「あ、待ってください!」
 王子は急に走り出したシンデレラを追いかけました。
 シンデレラは無我夢中で逃げていたので、階段でガラスの靴の片方が抜けても拾う余裕はありませんでした。シンデレラはかぼちゃの馬車に飛び乗り、魔法が解ける前にお城を脱出しました。シンデレラの身体から離れたせいか、それともご都合主義か、そのガラスの靴の片方だけは鐘が鳴り終わっても魔法が解けず、そのまま残っていました。
 そのガラスの靴を、シンデレラを取り逃がした王子が拾いました。
 一瞬でシンデレラの靴だと見抜いた王子は、家来たちにあることを命じました。
 それはこのガラスの靴がぴったり合う女性を探すことでした。そのガラスの靴が合う女性がシンデレラだから、その女性を自分のお妃にしようというのです。
 家来たちは王子の命を受け、国全体におふれを出しました。
 それを耳にした女性たちは、こぞって自分がシンデレラだと主張しました。
 しかし、欲張りなその女性たちの中に、ガラスの靴が足に合う女性はいませんでした。
 そのうち、シンデレラの継母と姉たちの番になりました。
 継母と姉たちは必死に足をガラスの靴に突っ込もうとしましたが、無駄でした。
 がっかりした様子の王子は、蒼褪めた表情の継母と姉たちに言います。
「この家の女はもうこれで全員か」
 継母は少し言葉を濁します。
「いえ、うちにはもう一人みすぼらしい娘がおりますが――」
「よし、じゃあそいつも呼んでこい」
「し、しかしですね、あの子は――」
「つべこべ言わずに連れてこい。さもなくばこの場で叩き斬るぞ」
 王子は腰に携えている剣に手を添えました。
「わ、わかりました。つ、連れて参ります」
 観念した継母はシンデレラを王子の元へと連れてきました。
 王子は多少期待感の持った目をしていましたが、継母に連れられてやってきたシンデレラを見た瞬間、がっかりした表情に戻ってしまいました。
「どうせ違うだろうが――まぁいい、とりあえず履いてみろ」
 乗り気ではなさそうな王子に勧められ、シンデレラはガラスの靴に足を伸ばしました。
 そしてシンデレラの足は、まるで吸い込まれるようにガラスの靴に入ったのです。
 これを見て、王子は目を剥きました。
「ま、まさか、お、おまえ――あなたがこの間の舞踏会の――」
 シンデレラは、照れて頬を赤らめながら頷きました。
「ば、ばばば、馬鹿なっ!そそそそそ、そんなっ!こんなっ!」
 王子は今にも泣きだしてしまいそうに顔を歪めました。
「わ、私の妃が――私の妃になるはずの女性が――こんな――こんな化け物なんて!」
 王子は悲鳴を上げて、逃げ出しました。
 周りの女性たちから、失笑が漏れました。継母と姉たちなんか、腹を抱えて嘲笑しました。
 魔法が解けて醜い容姿に戻ったシンデレラは、ガラスの靴を履いて立ち尽くしていました。

シンデレラ

シンデレラ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-14

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