習作 8

純愛のかけらもない情欲だけにドライブされた性行為。生の性行為。しかし醜く汚らわしいがゆえの美しさをも感じさせる性行為。

オナニー

家に誰もいないことを願いながら、僕は歩いた。
まだ心臓がどくどくしている。
頭の中で、Aの刺激的な言葉がリフレインしている。

「ねえ、もうさっさと家に帰ってオナニーして射精すれば?」
「ねえ、もうさっさと家に帰ってオナニーして射精すれば?」
「ねえ、もうさっさと家に帰ってオナニーして射精すれば?」
・・・・・

家に着いた。
誰もいなかった。
書置きがあった。
「今日はプリザーブド・フラワーのお稽古があるので6時に帰ります。」

時計を見た。まだ4時。

ティッシュを取り、カーテンを閉める。
ズボンとトランクスを脱ぎ捨て、下半身裸になる。
横になる。
ティッシュをペニスの下に置く。

あの時のAの顔を思い出す。
一人でいるときのAは、確かに僕のことを嫌っていなかった。
かといって、僕のことを好きであるとも思えなかった。
Aの目は、なにか動物的な視線で僕を見つめていた。
たじろぐ僕を愉しんで見ているようでもあった。

あのフレーズを思い出す。
「ねえ、もうさっさと家に帰ってオナニーして射精すれば?」
「ねえ、もうさっさと家に帰ってオナニーして射精すれば?」
オナニー、射精、Aの顔。
オナニー、射精、Aの胸。
オナニー、射精、Aの汗。
オナニー、射精、Aのすこし強い体臭。
オナニー、射精、Aの太股。
頭の中をぐるぐる回る。


********************


僕は今ではオナニーをほとんどしない。
性欲を感じたときは、誰か女に射精させる。

ステディな女が一人いる。彼女は僕にとってある意味僕自身の親よりも近しい存在だ。なぜなら僕は親の前では泣かないが、彼女の前では泣くことができるからだ。彼女とは最高のセックスを経験したことがある。そのセックスについてはいずれ皆さんにお話しする日が来ると思う。
色々な理由でかかわりを持つ女が何人かいる。ステディな彼女とのかかわりを最も純粋な恋愛に近いものとすれば、この女たちとの情愛はそれぞれに異なる不純物を含んだものだ。ただ、純粋な恋愛と比較して劣るものかと言えば必ずしもそうではなく、純粋でないかかわりには純粋でないかかわりなりの美しさがある。
気が向いた時には、一駅行った裏町に立つタイ人の馴染みの街娼を抱きに行く。30過ぎだが、人懐っこく猫のような、いい女だ。
僕は彼女を人として扱う。彼女も僕を人として身を委ねる。ただ、必ず僕と彼女の間には1万5千円という金銭が介在する。そして彼女も僕もお互いの本名を知らない。
このタイ人が街に立っていなければ、もう一本違った筋に立つ中国人の街娼を適当に捕まえて、3千円で手で処理させる。
ユンミからの手紙に号泣した僕を一方の極とすれば、中国女に手で処理させる時の僕は他方の極だ。
皆さんには、この一見相反する態度が一人の男の中に同時に存在しうるという事実を認識して頂くために、少し細かく中国女との交渉の様子をお話ししたい。


真夜中の4時、タクシーでその裏町に乗りつける。
筋を一通り歩く。売れっ子のタイ人の馴染みは当然こんな時間には立っていない。40がらみの薄汚れた中国女が数人たむろしている。
その中に、真っ赤な口紅をさした女がよってきて強引に腕をつかむ。20年前は美人だったであろう女だ。彼女はここにたむろする女の中でも一番商魂たくましい。
3千円で手での処理の約束をして廃屋になったラブホテルに連れ込む。するとおざなりに包皮を上下させてから、1万円で後ろからのセックスを持ちかける。
拒むと、5千円での口の処理をすすめる。これも断ると、この客からはこれ以上取れないとあきらめて、1秒でも早く射精させようと包皮をやたらにこするのだ。

他にいなければこの女でもいいかなと思いながら、一旦この女の腕を振りほどく。
角を曲がると、何回か買った女が走って寄ってきた。
「ねえ、おにいさん、おにいさん、きょう、てこき、ね、おひさしぶりじゃない」
この女も決して醜くはない。ただ、やつれている顔つきをした女だ。パチンコにはまっていると聞いたことがある。
ちらっと彼女をみて、少し歩くペースをおとす。
「ねえ、おにいさん、さいきんぜんぜんやらないじゃない。ねえ、きょういいでしょ?ねえ、たすけてよ。」
この女は本当に無粋な処理しかしない。まだ気分次第によっては5千円で尻を突き出す口紅の濃い女の方が面白味がある。行き過ぎようとした。
「ねえ、ほんとにきょうおきゃくさんいないの。きょうふぇらもいい。あなたかっこいいから。」
いつもは10メートル歩けば諦める彼女が、今日は優に50メートルは追いすがってくる。僕の加虐心に火が付いた。あえて少し歩調を早める。
「ねえ、おっぱいさわるもいい。きょうあなたのちんぽさわりたい。おおきいちんぽさわりたい。ねえ、おにいさん。」
「マンコも見せるならいってもいい。」
この辺でいいだろうと思った。
「うん。いいよ。わたしのおまんこみて。」

駐車場の車の陰に隠れる。この時間に通行人も見回りの警官もいない。
「今日は後払いだよ。」
よほどパチンコで負けが込んでいるのか、彼女は従った。
フェラチオするといっていたが、コンドームの持ちあわせがないのでできないという。今度は逆に、この女に金だとしか思われていない被虐的な快感を感じる。
対する僕の加虐心は、しきりに包皮をこすって一刻も早く射精させようとする女の手を払いのける。
「まず、胸を見せて。」
彼女はTシャツをたくし上げ、毛玉のついたブラジャーを押し下げて、胸を露わにした。どうということのない胸だ。
女はしきりに僕の手を彼女の両胸に宛がう。お義理に少し揉むと、わざとらしい喘ぎ声のまねをやる。こんな三文芝居で射精するほど女に困っていない。
「マンコ見せて。」
女はジーパンのファスナーをおろし、下着を少しだけおろして、陰部を見せた。何の手入れもされていない陰毛の奥に、赤黒い陰唇が見える。
後払いの立場を使って、多少加虐的な遊びをやることにした。
僕は黙って包皮を上下させる女の手を再び払いのけ、女のジーパンをくるぶしまで引き下ろした。そして言った。
「片足を上げてマンコ開いて見せて。」
「おにいさん、ひときたらあぶない、ね、ああ、おにいさんのちんぽおおきい、おにいさんのちんぽかたい。」
再びペニスをさすり、なんとか逃げようとする女。
「暗くてこれじゃマンコが見えない。マンコ見せるって約束じゃないの?」
観念したのか、或いは言うことを聞けば客がさっさと射精すると思ったのか、彼女はポーズをとった。

真夜中の場末の駐車場の物陰で、ジーパンをくるぶしまで下げて、片足を放置された古テレビにかけて片手で陰唇を開く女。その女がもう一方の手で自分のペニスを刺激している。
これは官能的だ。汚らわしいが、その汚らわしさゆえに、ある意味において妖しく、美しい。

もういいだろうと思い、亀頭の先に神経を集中させた。彼女をじっと見た。
射精した。
久しぶりに精子が放物線を描いて飛んだ。
彼女の手を汚した。

僕は彼女に5千円渡した。
「ありがとう。」
彼女は意外にも、素の笑顔で駐車場を去っていった。



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真夜中の駐車場で中国女にポーズを取らせた僕の原点が、この日のオナニーだった。
純愛のかけらもない情欲だけにドライブされた性行為。生の性行為。しかし醜く汚らわしいがゆえの美しさをも感じさせる性行為。

オナニー、射精、オナニー、射精・・・
Aの妖しい、強気な顔とともにこの二つの言葉が頭の中をぐるぐる回り、程なく射精しそうになった。
一旦手を止めるかどうか迷ったが、迷うより先に手のスピードが速くなった。
亀頭は刺激を求めていた。ペニスは射精を求めていた。

射精した。
下に引いたティッシュをはるかに超えた所に精子が飛んだ。
水色のシーツが汚れた。

習作 8

続きます。

習作 8

純愛のかけらもない情欲だけにドライブされた性行為。生の性行為。しかし醜く汚らわしいがゆえの美しさをも感じさせる性行為。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 成人向け
更新日
登録日
2016-11-11

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