習作 6

ハグとキスのお話です。

もしもソウルでユンミと会ったなら

実際に僕はソウルでユンミに会うことはなかった。
イヤホン越しに彼女のすすり泣く声を聴いた時、僕は確かにユンミを抱きしめたいと思った。

実際にソウルにいたら、そして実際にユンミの涙を見たら、
間違えなく僕は彼女を強く抱き寄せただろう。

すると、ユンミの激しい息遣いが全身で感じられる。
泣きじゃくる彼女の背中を必死にさする。大丈夫、大丈夫だから、と思いながら。
彼女の気持ちが少し落ち着く。
ホッとする。
と同時に、ユンミのあの香水の匂いと、彼女自身の匂いとが入り混じった匂いを感じるだろう。
彼女も僕の匂いを感じるはずだ。
二人は先ほどまでとは違う胸の高まりを感じる。

恐らく二人はまた抱き合うだろう。
最初のハグは友達同士のハグ。2回目のハグは、それ以上の何か。
しばらく抱き合う。今度はお互いの心臓の鼓動を感じる。少しずつその鼓動が高まっていく。
二人の中で、もう一歩前に進みたいのに何か紐のようなものがまとわりついていて身動きが取れない時に感じるような気持ちがどんどん大きくなっていく。

二人は一度離れる。
多分ユンミがリードしてくれただろう。
彼女は僕を優しい目で見つめてから、そっと目を細めるだろう。
そして僕は、誰に教わったわけでもないのに、そっと彼女にキスするだろう。
唇と唇とが触れている間、ユンミは目を閉じたまま。そんなユンミを見つめて、僕はうっとりとした恍惚感に酔いしれるだろう。
彼女が目を開くと、目を開けていた僕と目が合う。彼女は顔を赤らめる。

Why didn't you close your eyes? You really don't know how to kiss.
Why not? I just wanted to see you. So I saw you.

そして二人は手をつないで、夜の公園をしばらく散歩するだろうと思う。


僕は仮にあの時ソウルに行ったとして、ユンミとソフトキス以上の関係を持ったとは思わない。
あの当時のユンミと僕の関係性からすれば、ソフトキスが必要かつ十分だったと思う。

だから、ユンミとの思い出からは、僕はソフトキス以上を想像することができないし、例えばユンミが僕にフェラチオしている姿を僕は絶対に想像したくない。
逆に、目の前でユンミが泣いているのに、「まあそんなに気を落とさずに。」なんて気取って声を掛けているようなら、それは無粋というものだ。
何といってもあの場で僕はユンミを抱きしめなくてはいけない。


男女の関係は、心理的な距離の程度に応じて進んでいくのが最も自然で美しいものだと思う。
しかし現実には、好きでもない男女がセックスしたり、逆にお互い好きで好きでたまらないのに何故かボディコンタクトを持たないカップルもいる。
僕自身も、そういう不自然な経験を多少し、そこに醜さを見、しかしまた思いがけない美しさをも見出すことがあった。

次からは、みなさんとそういうエピソードについてもお話したいと思う。

習作 6

次回以降、性描写が増えると思います。
主に行為中の心理描写に重点を置きます。(いわゆる官能小説的なものを書くつもりはありません。)
ですが、嫌悪感を持たれる方もいらっしゃると思い、「スタンダール著 『恋愛論』を読もう!」シリーズを始めることにしました。
良かったら一緒に読み進めていきましょう。

習作 6

ハグとキスのお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 成人向け
更新日
登録日
2016-11-08

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