10月31日午前3時

特に意味はないです。

深夜の公園にいた。
缶コーヒー飲みながら、お気に入りの音楽鳴らして。そのミュージックビデオでは、ボーイッシュな女性ボーカルが夜道を歩いて行く。時間の止まった住宅街を、缶ビール片手に「君」と「夜の散歩」。誰も知らない場所に行きたい、誰も知らない秘密を知りたい。どこにも行けない僕は少し悲しくなって、タバコに火をつけた。ライターのオイルが切れかけていて、カチッカチッという音が何度も虚しく響いた。街頭もほとんどない真夜中の公園に、小さな小さな明かりが灯った。吐き出された白煙は、春の夜風に吹かれて夜空に消えていった。その様子をぼんやりと眺めていると、気分が和らいだ。それは生暖かい風の吹く春の夜で、とっくにぬるくなったジュースみたいな味がした。涙を流しながら少しだけ笑うような、嘘だらけの夜だった。どうでもいいことに苛立って唾を吐きかけるような、惨めな夜だった。かくれんぼで置いていかれたような、一人ぼっちの夜だった。他人に好かれたいけれど、関わりたいとは思えない。投げつけられた酷い言葉を、そっとポケットにしまっておけるような優しい人になりたい。何食わない顔で笑顔を振りまけるような、強い人になりたい。叶わない願いごとをしていたらまた悲しくなってきて、僕は楽しいことを考えようとする。大好きな漫画の新刊のこと、作成中の短編小説のこと、離れて暮らす彼女のこと。でもそんなのは一時の安らぎで、正体不明な不安と悩みを抱えて生きる僕達には、もっと長続きする精神安定剤が必要だ。やっぱり、もっと他人と繋がっていなきゃダメだ。講義の合間も、放課後も、そして夜遅くまで、誰かと一緒にいなきゃダメなんだ。上手くいってそうな人達は、そうやって悩みや不安を共有して、分散させて、打ち消し合っているんだ…

公園の隅の方でガサッと音がした。今まで全く気がつかなかったが、ホームレスの男が背を向けて眠っていた。汚れにまみれた茶色い毛布と、何が入っているのか分からないペットボトル容器。その小さな背中を眺めていると、何だか上手くやっていけそうな気がして嬉しくなった。そして、そんなことで嬉しくなった自分に悲しくなって、僕はもう一本タバコを潰した。

次の日の講義は、もちろん全部休んだ。

10月31日午前3時

10月31日午前3時

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-03

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