今年は秋がないまま冬になった。

「ほら、あの会社の人は自殺したっていうじゃない。
自殺が良いってわけじゃないけど、それだけ仕事を頑張ってたということでしょう?」

電話越しに彼女の険しい表情が浮かぶ。僕は何も返事が出来なくて黙ったまま。

「私だって就職したとき、2kg痩せたもの。営業してノルマがあって、やらなきゃいけないことがいっぱいだった。」

僕は入社して3kg太った。それは仕事ができていなかったということなのか。
僕は静かに、僕を戒めた。

その後も彼女の声は途切れることなく続いて、

「こうやって私と話す時間があるなら、さっさと行動することね。」

その言葉の後、僕の返事を待たずに電話は切れた。通話時間12分8秒。

電話中に僕を戒めた傷から赤い水滴がひとつ、できていた。


あなたはすごい。僕の自殺願望を意図せず払拭してくれた。
「仕事を頑張れないやつは自殺する価値もない」
そういうことでしょう?

ありがとう。
僕は僕を戒めて生きていくよ。

今年は秋がないまま冬になった。

僕の戒めだけじゃ、僕は頑張れないのだろうけど、戒めがないよりかはマシだと、そう思っている。

今年は秋がないまま冬になった。

夏の刺激的な暑さ、冬の突き刺さるような寒さ。いいとこ取りの秋はどこに行ってしまったのか...。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-31

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