一週間

 月曜日の菱形工場、第五搬入口で塾講師のI先生と待ち合わせ。
 火曜日のコンビニエンスストア、サンカクマートで隣のクラスのYと待ち合わせ。
 水曜日の墓場、四角野霊園で部活の先輩Kさんと待ち合わせ。
 木曜日の公園、円井公園の池の近くのベンチで部活の後輩Aと待ち合わせ。
 金曜日の喫茶店、歪みの森でインターネットの掲示板で知り合ったサラリーマンのTさんと待ち合わせ。
 土曜日の自宅、待ち合わせの予定は無し。
 日曜日の植物園、二十円山植物園で生物教師のE先生と待ち合わせ。
 
 月曜日の菱形工場、第五搬入口で待ち合わせた塾講師のI先生と、夜の工場を見学。工場の人は誰ひとりとしておらず、機械も一ミリだって動いていない。I先生が工場見学に満足してから、I先生の部屋へ。交代でシャワーを浴びた後、セックスをする。
 火曜日のコンビニエンスストア、サンカクマートで待ち合わせた隣のクラスのYと、新商品を物色。Yは新商品のスナック菓子と、昔からある定番のスナック菓子をそれぞれひとつずつ購入する。変わり種の多い新商品を果敢に試そうとする好奇心と、はずれのない定番菓子を口直しと考える保守的な面を持ち合わせている。食料と飲料を調達し、ぼくの部屋へ。新商品のスナック菓子の味や造形について、ああでもない、こうでもないと議論を交わした後、シャワーを浴びずにセックスをする。
 水曜日の墓場、四角野霊園で待ち合わせた部活の先輩Kさんと、霊園見学。顔も名前も知らぬ誰かの墓を、ぐるぐる見て回る。この墓石がいいねと、Kさんがときどき呟く。不謹慎だと思いながらもやめられないのが性癖ってやつでしょ、と、Kさんは宣う。霊園をゆっくり一周した後、Kさんのおじいさんが住んでいたという家へ。現在は空き家となっているため、電気と水道は使えず。薄暗く湿った畳の部屋で、セックスをする。
 木曜日の公園、円井公園の池の近くのベンチで待ち合わせた部活の後輩Aと、池にいるアザラシを眺める。どこからやってきたのか、アザラシは円井公園の名前に因んで「まるちゃん」と呼ばれ、この町のアイドルとなっている。公園の売店では「まるちゃん団子」や「まるちゃんアイス」なんてものが売られているが、アザラシの味がするとか、アザラシの血肉が入っているとかではなく、ただの串団子で、ただのバニラアイスクリームで、団子をのせたトレイや、アイスクリームのカップにアザラシが描かれているだけであるが、それがまァ、それなりの売れ行きだそうである。Aは池の岸に転がり目を閉じているアザラシを見ながら、なでなでしたい、と呟き、うっとりする。アザラシは眠っているようだった。アザラシにあまり興味がないぼくは、横で「まるちゃん、まるちゃん」とアザラシに声をかけている白髪のおばあさんのことを、見ていた。自分の孫の名前でも呼んでいるかのような調子で、アザラシの名前を呼んでいた。アザラシは時折、手(ひれ?)をぱたぱたと動かした。小一時間の観察を終えると、ぼくの部屋へ。いっしょにシャワーを浴びながら、そのままセックスに移行する。Aが見ているあいだ、アザラシは一度も目を覚まさなかった。
 金曜日の喫茶店、歪みの森で待ち合わせたインターネットの掲示板で知り合ったサラリーマンのTさんと、コーヒーを飲む。ぼくはブラック、Tさんは角砂糖を三つ、コーヒーフレッシュを二つ投入したものを、飲む。他にすることもないので、コーヒーを一杯ずつ飲んですぐに店を出る。Tさんのお金でホテルに行き、無駄に広い浴室でセックスをする。Tさんはどうか知らないが、ぼくは、ガラス張りのシャワー室で立ったままするセックスがいちばん興奮すると思っている。
 土曜日の自宅、予定は敢えて入れない。からだを休めることも、たいせつである。
 日曜日の植物園、二十円山植物園で待ち合わせた生物教師のE先生と、植物園を見て回る。これといった盛り上がりもなく、淡々と植物を眺め歩いてゆく。二十円山植物園は、ぼくらの住んでいる町から電車で二時間のところにある。E先生とぼくが、先生と生徒だからである。つつがなく植物園を一周し、お土産物コーナーで小さなサボテンを買う。E先生は何かしらの花の種を買う。それから近くの大衆食堂でごはんを食べる。ぼくはかつ丼を、先生は焼き魚定食を注文する。注文取りのおばさんに、仲の良さそうな兄弟ねと言われる。E先生は、ははァ、と嬉しいんだから嫌なんだかわからない笑みを浮かべ、ぼくはしかめっ面で先生を睨む。うだつの上がらない男だ、と思う。一生結婚できないだろうな、とも思う。でも、先生は、魚の食べ方がとてもきれいだ。ごはんを食べた後、電車に乗ってぼくらの町へ。「じゃあ、また明日、学校で」と言って先生は、駅から出るとさっさと帰ってゆく。先生が住んでいる家を、ぼくは知らないのだけれど、ぼくが住んでいるところを、先生は知っている。先生だから。先生だから、セックスはしない。ぼくもおとなしく家に帰り、お母さんが作ったごはんを食べて、お風呂に入って、テレビを観て、眠る。

一週間

一週間

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-28

CC BY-NC-ND
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