ウロボロスの女

ウロボロスの女

前作同様、ダーリンとの共作ですが、この時は互いに新キャラづくりにガチでした……
わたしとしても、ここまでキャラクターにこだわったのは初めてだった……

薄暗いバーのカウンター席に、男が一人。氷の残ったグラスを傾けながら、憂鬱そうな表情で物思いに耽っていた。若手と呼ばれる世代の芸人として7年ほど活動を続けている男は、かつてバラエティ番組で引っ張りだこだったが、伸び悩んでいる現状についてはっきりと自覚していた。どうすれば、浮上できるのだろう。
ふいに、隣のスタンドチェアに座っている女の存在に気付く。誘惑的な色香を身に纏い、“妖艶”という言葉を具現化したような美しい女が、自分の真横で微笑している。

しかし、奇妙だ。
自分はそれほど思索に集中していたのだろうか。
この女は一体いつからこの席に居た?


狼狽する男を見つめる女はどこか愉しげで、艶やかな唇が弧を描いている。そして無邪気に問うた。
「もう、考え事はおしまい?」
女は氷のように冷たい手で、カウンターテーブルに置かれた男の手に、そっと触れた。

アイツが俺の中に入ってくる。
気持ち悪い。吐きそうだ。立っていられない。
怖い。やめろ。助けてくれ。


また、悪夢を見た。
ここ最近、毎日のように同じような夢を見続けている。そして、こんな夢を見る時は、前日に自分がどこで何をしていたのか、何ひとつとして覚えていなかった。
体重は随分減り、血色も悪くなった。日に日に疲労感が増しており、どうも一日中働くだけの意欲が湧かない。とはいえ、売れない芸人にも仕事はある。

アラーム音に気付かず、重要なライブの打ち合わせに遅刻する日々が続く。そもそも、いつもは周囲を叱る側であるだけに、こういったことが起きると仲間たちからここぞとばかりに馬鹿にされるのだが、最近はこの男が遅刻することが多く、病気か何かじゃないかと心配されるようになっていた。

自分はもう駄目なのだろうか。そして男は再び、昨夜と同じバーに向かう。特に行きつけだと決めているわけではない。なんとなく、だ。

新ネタを考えているうちに、氷だけになったグラスを見つめる。自分はどうすれば浮上できるのかと、あてのない未来についてまとまりのない考えを巡らせながら。
しばらくすると、男は驚く。隣に女が座っていることに気付かなかった自分自身に。そして、その女が異質な妖しさを纏った麗女であるということに。

「……もう、考え事はおしまい?」
そして女は、男の手に触れた。
瞬間。離れ離れになった恋人と再会したような懐かしさ。今にも喰われてしまいそうな恐ろしさ。それに加え、奇妙な既視感まで覚えた。硝子玉のように美しい女の瞳に見つめられると、頭が、体が、心が、麻痺する錯覚に陥る。

男の意識は次第に虚ろになってゆく。女は嗤っていた。

ウロボロスの女

一応はループ物。そして最初に戻る、の繰り返し。
女は悪魔か何かかな?それともスランプに陥った男の見た幻覚的な何かかな?

ウロボロスの女

売れない芸人と妖艶な美女の不思議な構図。

  • 小説
  • 掌編
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-10-19

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