苦渋の決断

この判断は正解か不正解か。

よくある話


電子メールにて

「今日なんで休んだの?」
 「前の日曜日からちょっと風邪気味で、今朝、あまりにも調子悪かったんで、休みました。明日は行けると思います。」
 「そうですか。お大事にね。」
 「はい。ありがとうです!」
 
 それから半時間ばかり過ぎた。

 「ずっと言いたかった事があるの。風邪っ引きに言うのはなんだか追い討ちをかけてるようで心が疼くのだけれど…
 やっぱり、付き合うのやめにして下さい。勝手ですいませんでした。」

 私がこのメールに気付いたのは翌日の朝であった。流石の私も最初は少しばかり気が動転していたが、いつも通り朝の支度をダラダラとしていたら、だんだん心の方もいつも通りの呑気さを取り戻していった。その後、私はいつもと同じ京都行の電車に乗った。その日は木曜日だったから、いつもより人が多かった。それ故、私は私の嫌いな怖い初老の男の隣に立つ羽目になった。この男、本当に嫌な男で、満員電車の中にも関わらず、その男の体に当たろうものなら、舌打ちされ、どんと押し返してくるのである。ここで、いつもの私なら、何とか当たらぬ様にと、気を配るところであろうが、今日は違った。ずっと、思案していた。どのように終わらせてやろうかと。実は先に申しておくと、この時点で私には、あの女とやり直すなどという発想はなかった。というのも、私は薄々、彼女が私のことを敬遠し始めたのを感じとっていた故、こうなることは覚悟していたし、私自身そうなった場合、女の言うがままにしようと決意を固めていたのだ。ただ、まさか電子メールで、その様な事が伝えられるとは思わなかった。これが現代風というものなのか。私にはさっぱり分からないが、ともかく私はいろいろ思案した結果、告白のとき手紙をしたためたのを思い出し、終わりも始まりと同様の形でするのが風流かな、なんて思い、手紙を書くことにした。手紙の内容は大まか、こうである。

 「sさんへ
 取りあえず、ごめんなさい。おおよそ、僕に関して嫌悪感を抱くような事があったのでしょう。僕は世紀のダメ男ですから、一体何がいけなかったのか思い当たる節が数多くあり、どれが主要な原因なのかわかりません。
 実は僕も貴方に伝えたい事がありました。というのも、僕は貴方に本心を打ち明ける事がどうしてもできず悩んでいました。僕は貴方の前になるとついつい不器用なくせに、恰好を付けようとして空回りして、一人、疲れていました。ですから、この貴方の判断は今の僕にとって、一種の『悩みからの解放』になります。しかし、そうは言っても、別れとは辛いものですね。もし、僕の現在の本望をここに書き記すならば、『やり直したい』という感情が真実でしょう。でも、僕は最後の貴方の意に背くつもりは毛頭ありません。僕は貴方の決断を大いに尊重し甘受します。
 一年と六日間という短い間でしたが、ありがとうございました。僕の人生において、数少ない安寧のひと時でした。
  グッド・バイ
                                     fより」

苦渋の決断

で、どっちでしたか。

苦渋の決断

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2016-10-10

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