星祭りの夜に…。

スピカ音楽堂の星祭り公演〜金星音楽団オッドアイの指揮者〜

スピカ音楽堂の星祭り公演〜金星音楽団オッドアイの指揮者〜

一年の内で一番、
東の夜空の一等星が明るく輝く夜…。
たまたま中央都市にいた私は
金星音楽団の「星祭り特別公演」を
観劇するため スピカ音楽堂を訪れた。

しかし、公演開始後
しばらくして、
ここへ来た事を
後悔し始めた。


オッドアイの指揮者(マエストロ)の
指揮は勿論、
楽団の演奏は素晴らしかったし、
「緑の歌姫」の美しい歌声も
申し分なかった。

しかし、今夜の演目は
「星空の恋人たち」という

「碧の星姫」と
「片翼の黒鷲」の恋物語だった。

そう、私は
砂糖を入れ過ぎた
カフェ・オ・レ以上に、
甘い恋愛物語は
大の苦手だったのだ。

星空の恋人たち〜碧の星姫と方翼の黒鷲〜

星空の恋人たち〜碧の星姫と方翼の黒鷲〜

ーはるか昔、まだ夜空に神々が住んでいた頃…。

夜空の安全を守る為、
誰よりも早く夜空を翔ける
黒鷲に変身する力を持った若者と、

神々に美しい音楽を奏でる
役目を持った、琴の名手の
美しい娘が恋に落ちた。

2人とも恋に夢中になる
余り、いつしか自分の
役目を蔑ろにする様に
なっていき
ついには夜空の神々の怒りに
触れてしまった。

罰として
若者は翼の片方を、
娘は大変な琴を
取り上げられ、
天の川のそれぞれ対岸に
離れ離れにされてしまった。

そんな哀れな2人が
年に一度、会う事が出来るのが
星祭りの夜。

天の川を、青い流星が
横切る時。

その青い流星は
天の川を渡る
舟の灯りと言われており、
舟の船頭が、娘を
若者の待つ対岸へ連れていく
と言われているのだ。ー

Cafe綺羅星〜Hunny bear〜

Cafe綺羅星〜Hunny bear〜

「星空の恋人たち」は
今年は演出、脚本が一新したと
いう事で例年以上に注目を
集めていた。

ただ、例年の公演に比べ
ロマンスの色合いが濃く、
いつもの淡々とした
舞台進行を想像していた
私は すっかり面くらって
しまった。
私は正直、あまり楽しめなかったが
お隣のご婦人が、始終ハンカチで涙を
拭っていた様子をみると、
新しい脚本での舞台は
成功したと言ってよいのだろう。


公演後、
cafe綺羅星に立ち寄ったが
星祭りの夜という事もあり
店内は大変混みあっていた。

「申し訳ございません。
今夜は 相席をお願いしているのですが…。」

そう言ってHunny bearが案内したのは
ケンタウル広場に面したテラス席だった。

テラス席にて〜星影の紳士〜

テラス席にて〜星影の紳士〜

「相席かね?構わんとも。
今夜は混みあっているからね。」

先客の黒い毛並みの紳士は
そう言って快く相席を承諾した。

「君も、《星空の恋人たち》を
観劇してきたのかね?」

カフェ・オ・レを注文し
席についた私に、紳士が
訪ねてきた。

「…まあ、そんなところです。」

「誠に素晴らしい舞台だった!
碧の星姫の健気さも、
方翼の黒鷲の誠実さも良く
表現されていた。
昨年までの味気ない舞台に
比べて 、登場人物の感情表現が
本当に豊かになっていて、
実に現実味溢れる人物描写であった!
わざわざ立ち寄った甲斐があったよ。」

彼は、舞台の評論家か何かだろうか?
延々と今夜の舞台の素晴らしさに
ついて語り続けた。

残念ながら、私は厄介な御仁と
相席する事になったらしい。

「で、どうだね?
君は今夜の舞台についてどう思った?」

ひたすら聞き流していたのだが
ここで遂に、
舞台の感想を求められてしまった。
まさか、途中で寝てしまいそうに
なったとはとても言えない雰囲気が
その紳士からは放たれていた。
しかしだからと言って、
自分の意に反する感想を述べて、
更に舞台について言及されるのも面倒だ。

内心かなり悩んだが
運ばれてきたカフェ・オ・レを
前に、私は慎重に言葉を選び
こう返答した。

「私はカフェ・オ・レには砂糖は
一つまでと決めています。
それが私には適量だからです。
しかし、今夜の舞台は 私には
砂糖2個以上…。つまり…。」

「君には甘すぎるロマンスだった
という事かね?」

「…そう言う事です。」

答え様によっては激昂されるのではと
冷や冷やしたが、意外にも紳士は
すぐに私の心中を察してくれた。

「はっはっは、すまなかった。
感激のあまり、ちょっと熱く語りすぎた
ようだ。いやいや、気に病むことはない。
ご婦人ならば兎も角、男性には
ああいったロマンスが苦手な方も
おるだろう。」

彼はそう言って、
残りのマカロンを口に運びながら、
青い光が灯るランプを持つ人々が
集まるケンタウル広場に視線を
移した。

あの青い光が灯るランプは
天の川を渡る船頭の青いランプの
灯りを模したもので
星祭りを象徴する光でもある。

本来、船頭のランプの灯りは
青い流星の光だ。
しかし流石に流星は中々手に入る
代物ではないので
通常は「雨色雫」という発光性のある
植物の実で青い灯りを代用している。

ケンタウル広場〜星祭りの少女〜

ケンタウル広場〜星祭りの少女〜

よくよく見ると、
黒い毛並みの紳士の
座席の足元に
祭りのランプらしきものが
置いてあるのが見えた。
「これから星祭りに参加されるのですか?」

私は話題を変えるきっかけを見つけた
事に安堵しつつ、紳士に問いかけた。

「いやいや、私はこれから仕事だよ。
一年で一番の大仕事さ。」

「祭りの夜に仕事ですか。
それは失礼しました。ランプをお持ちなので
つい…。」

「なに、気にする事はない。
可愛い娘への土産話にちょっと
立ち寄ったのさ。」

「娘さんがいらっしゃるのですか?」

「実の娘ではないのだが
長い付き合いでね。久々に今夜
会う事になっているんだよ。
さて、そろそろ仕事の時間だ。
長話へのお付き合い、恩にきるよ。」

「どうぞお気をつけて。」

そう言って立ち去る紳士を
見送ろうとした時、
ふいに彼はこちらを降り返った。

「今夜の舞台は本当に良い出来栄え
だったが、一つだけ腑に落ちない
点がある。

…船頭の台詞が一つも無かった事さ。」

そう語った、
彼が首からぶら下げた青いランプには
キラキラと青く瞬く光が見えた。
その灯りは、「雨色雫」の灯りでは
無かった。

そうか、
まるで2人を知っているかの
様な口ぶりは、成る程、
そう言う事だったのか。

私はようやく彼の正体を悟った。


「私も全くの同感です。
ですが、これからお会いになる2人の
幸運は、心から願いますよ。」

紳士はニヤリと笑うと、
青い流星が入ったランプを
輝かせながら、店を後にした。

彼は今夜の事を、
対岸に着くまでの間
きっと面白おかしく
碧の星姫に語って聞かせるのだろう。

そう思うと、
途端に微笑ましい気持ちになった。


砂糖2個以上のロマンスは苦手だが、
2人の幸せを願えない程、
私も薄情ではないさ。


1人テラス席に残された私は、
すっかり冷めたカフェ・オ・レを
口に運びながら
もうすぐ青い流星が天の川を
横切るであろう夜空を眺めた。

星祭りの夜に…。

星祭りの夜に…。

神戸のアトリエシードさんの企画展 「星巡りの唄」展に出展した あみぐるみ達の物語です。 真夏の企画展だったので、 七夕祭りを題材に考えてみました。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-09-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. スピカ音楽堂の星祭り公演〜金星音楽団オッドアイの指揮者〜
  2. 星空の恋人たち〜碧の星姫と方翼の黒鷲〜
  3. Cafe綺羅星〜Hunny bear〜
  4. テラス席にて〜星影の紳士〜
  5. ケンタウル広場〜星祭りの少女〜