朝、崩壊の時間
午前四時、崩壊。
ぼくはすでに何度目かの崩壊を迎えているのだけど、まず、部屋のドアノブが転げ落ち、パズルのピースと化した天井がばらばらと崩れ落ち、床が真夏の砂浜のように熱くなる。
窓には蜘蛛の巣模様の亀裂が走り、机は真っ二つに割れ、椅子の脚も湯せんしたチョコレートみたいに溶けだし、ベッドの下から轟音が鳴り響き、ぼくのからだを激しく揺さぶる。筋肉を震わす。血液は波打ち、臓器が戦慄く。
例えるなら、そう、おおきな鐘を、胸元でがんがん打ち鳴らされている感じだよ。
こんな日が週に一度か二度、あるんだよ。夜明け前、キミがまだ夢の海をたゆたっている頃のこと。ぼくはその時間を、崩壊の時間と呼んでいる。
それから、キミには見える?
ぼくには見えるのだけれど、夜、ベッドに入って照明を落とした瞬間、部屋の天井に夥しい数の蛍が現れる。
おしりを黄色く光らせ、蛍は、ぼくの部屋の天井をすいー、すいー、と飛び回る。泳いでいるメダカを、水槽の上から覗いている感覚に似ているなァと思いながら、ぼくは、まぶたを半分閉じて蛍の光を追う。蛍の黄色い光が、まぶたの裏で横に膨らむ。目玉焼きの半熟の黄身をフォークでつぶしたときのように、広がる。
そのうちに眠くなって、眠って、数時間後に、崩壊。
崩壊の時間は、カラスの鳴き声がしたら終わるのよ。
転げ落ちたドアノブも、ばらばらになった天井のパズルのピースも、窓もきれいに元通り。
机も、椅子も、何事もなかったかのようにぼくの部屋に佇み、床は従来の冷たさを取り戻し、ベッドの下からは物音ひとつ聞こえなくなる。
つまり、朝が来たということ。
おはよう。
朝、崩壊の時間