星空のしたにベッドルームを

「日常生活の喧騒から離れて、そうだな、だいたい一万歩くらい、遠くまで歩いたら、きっと普段の生活では関わらないような人と出会えると思うんだ。例えば？うーん、公園で仲良しの老夫婦とか、スッピンのナンバーワンギャバ嬢とか。え、笑うところかな？個人的に会ってみたいだけだけどね。ほら、テレビ番組でもよく言ってるでしょ、へー東京にもまだこんな場所が残ってたんですね～って。そういう、あれよ、なんていうか、変化？ちがうな、日常とは違うなにかを見たいっていうか、つまりね、未知のなにかに出会いたいのよ、ユーマとかじゃないからね。」

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「実をいうとさ、新幹線で一走り、みたいなの好きじゃないんだよね、こう見えて。せっかちー？それとこれとは別、旅は気長に行きたいもんじゃん。あ、今回新幹線だったことは別よ？ほら、また仕事あるし。言い訳じゃないから。目指すは北の大地！え、知ってるよそんなとこまでいかないことくらい、冗談を真に受けないでくださいー。正直いうとね、駅弁食べたかっただけ。ここでしか食べられない究極の逸品とかって紹介されててさ、食べたくなっちゃったんだよね、人間食欲は押さえられないっていうか。おい、デブっていったんのだれだ。」

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「雨の日ってさ、好きじゃないよ、濡れるし、蛙でるし、じめじめしてさ。だけど雨ってさ、汚れた人間の巣を一瞬洗ってくれてるっていうかさ、もちろん雨がやめばまたすぐに埃っぽい風が吹いて汚れた空気が充満して、濡れた建物には一層粉塵が付着しちゃって、そうやって蓄積するんだよね、でも洗ってる瞬間は、なんだか色が鮮やかな気がしちゃって、ぼーっと眺めて過ごすのが嫌じゃないんだよ。コーヒーと窓のそとの景色が、自分のための映画みたいで、惚れ惚れしちゃうよね。あれ、今ポエミーとか思った？いいじゃんたまには、センチメタルな気持ちにさせてくれるのも雨の力だと思う。そういう意味では、洗ってるのは人間のすべてなのかもね。自然て偉大だ。」

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「もしも夢が叶うならね、結婚式っていうものをしてみたいんだ。もちろんきみとだよ？こんな狭い部屋なんて抜け出してさ、天井の高いガラス張りのチャペルがいいね。牧師さんはイカした外国人、できたらキング牧師みたいな人がいい。ウェディングケーキは特注の大きくて派手なものがいいかな、演出も盛り上がるようにしたい。あ、つい理想ばかり語っちゃった。いいよ、理想語ってくれても、きっちり聞いたげる。聞き上手だからね。あ、笑ったな？」

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「最近さ、息をするって苦しいことなんだなって気づいたんだよ。呼吸するっていうかさ、肺が膨らんで、酸素が供給されて二酸化炭素が出ていって、そうやって義務的に生きているはずなのに、息をするってすごく苦しい。ときどきさ、涙まで出るんだよ、からだがさ、辛いっていってるんだよ、きっと死んじゃえば楽なんだってわかるけどさ、それは意識が遠くまでいっちゃってからの話で、遠くまでいっちゃうってことは無ってことだから違うよね、そもそもそこまでいくのにもっともっと苦しいじゃん？だから死ねないんじゃないかなって思う。息するって、苦しいよね、本当。」

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「昨日、初めて週刊誌を買ったんだ。中身はゴシップばっかりで、正直ちょっと面白かった。あの人が浮気したとか、アイドル同士の恋愛とか、離婚結婚って話でさ。ニュースっていうと天気予報くらいしか見ないような人間なもので、なんだか物珍しかったっていうか。でもそのなかにさ、コラムみたいなのが載ってて、テーマが死ぬ前の準備って書いてあった。貯金通帳は解約しておくこととか、使わないもこは捨てておくとか。あと、遺書は書かない方がいいって、家族を呼んで、直接話して、音声録音でもしておけば完璧って。そしたら誰を呼ぼうかなぁって考えてみたけど、そもそも遺産なんてないからそんな話必要ないって気付いてやめたんだよね。あーあ、もう考えるのやーめた。」

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「明日、天気がよかったら公園にいこうか。芝生で寝転がって目をつむって、太陽の光を浴びたら心が洗われる気がするんだ。一応これはデートのお誘いです。だから明日晴れるように、今日はてるてる坊主を作りましょう。あれ、作ってくれないの？こういう願掛けとか好きじゃなかったっけ？」

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「ねぇ、もしも次、目が覚めなかったら、ここから一万歩くらい歩いたところにベッドを置いてほしい。できたらそれは夜にしてほしい。ベッドが天涯つきなら、即席のウェディングチャペルみたいじゃない？二人にちょうどいいチャペルだよね。そこでふたりっきりで結婚式をしよう。なんの隠し種もケーキもないけど、きっと幸せだと思うんだ。だからさ、ねぇ、

頼むから泣かないで。」