タンポポの村
剣を振る少年の姿は少女の目に、何かいじましく悲しいものに見えた。
それは少年の技の熟練の度とは異なるものに由来した感情であった。
少女は少年が持つ未来を、それと知らずに予感していた。
少女はいずれ、彼女が少年についてほとんど何も知らぬ間に、少年の行く末を見届けることになる。
一方の少年は何も知らない。
そして少女自身にも、言葉にできる程の風景が見えているわけではなかった。
彼女は、ただただ切なさだけを心に染み入らせていた。
少年の剣の切っ先が空を切る、その度に鳴る風切音が、彼女の日々の記憶の合間々々に降り積もっていった。
少女は時にたまらなくなって、涙を流したりもした。
ある日、兵士を募集する旨の張り紙が村に張り出された。
それから間もなく、村に住む若者たちはこぞって戦場へと旅立っていった。中には剣の稽古をしていた少年の姿もあった。
少女はタンポポの綿毛がぽんぽんと舞い散る村で、出立する彼らの後ろ姿をじっと見つめていた。
戦は遠く。
過去は少しずつ、小川に乗って彼方へと流れ去る。
少女たちはいつしか乙女になる。
冬をいくつか越えた後の早春に、若者たちが村に帰還した。
担がれてきた棺桶をひとつひとつ丁寧見送りながら、乙女はようやく、幼い頃からの悲しみの終わったことを知った。
涙にくれる大勢の母親たちの合間で、少女は懐かしい風切音の幻聴を耳にしていた。
まだあどけない幼子らの吹いた綿毛が、風に乗って遥かな晴天にちらちらと舞っていた。
終わり
タンポポの村