ねえ、ちょっと叱ってくれる?

「そんなことしちゃだめなんだぞ。」

君が叱る。僕のことなんて、ほとんど知らないのに。
それでも、真剣な声で言う。
僕は、「そんなことしてないよ」って誤摩化すように、へたくそに笑った。

あれから数ヶ月。
君に叱られることは無い。君と話す機会が無いから。
君から見れば、もっと叱らなきゃいけないと思うような人間に、僕はなっていると思う。

塗り薬で白くなった手首に絆創膏を貼る。少し端がよれてしまったが気にしない。
染まったティッシュをゴミ箱に捨てて、ぼすんっと布団に寝転がる。

今まで後悔なんて、したこと無かった。
けれど、君の言葉に、少しだけ、後悔した。
でも、おかげで君に叱ってもらえたという点では、よかったのかもしれないな、なんて変に前向きに考えてみる。

君の真剣な声が脳裏に響く。
叱ってるのに、どこか心配そうな、優しい声。

ああ、また、叱ってくれないかな...

ねえ、ちょっと叱ってくれる?

ねえ、ちょっと叱ってくれる?

誰かに叱られたいわけじゃない、君に叱られたい。そんな人、あなたにはいる?

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-10

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