骸様は優しい方です 10代目の証言 【10年未満後 骸綱】

発掘品。

フランあり、骸さん脱獄済みver.の骸綱。

フランとクロームを守るためになら労力を惜しまない骸様。

ちょっとだけ、ザンザス様出ます。
とばっちり・・・。

骸様は優しい方です 10代目の証言 【10年未満後 骸綱】


沢田綱吉の証言

「骸・・・。お前さ、甘いとか何とか、俺の事絶対に言えないだろ。」


 それは綱吉が10代目を継いでからしばらく経った時の事。

 骸は既に脱獄していて、それを成功させたフランも、勿論既にヴァリアーの一員として活躍していた時の事。

 不幸な偶然が重なって、綱吉率いる守護者サイドとザンザス率いるヴァリアーサイドが対立した事があった。

 綱吉は穏便に済ませたかったし、守護者たちとヴァリアー幹部たちも既に知らない仲ではなくなっていたので、当人同士に限って言えばそんなに危険な状態ではなかったのだ。ただ、守護者クラス・幹部クラス以外の主要人物たちが過剰反応してしまった。こういうのは往々にして外野の方がうるさいものだ。

 ザンザスは『取り成す』などという平和的な手段をしない人だし、お陰で最近の綱吉の頭はその事で一杯である。下手をすればリング争奪戦の時のように、戦いで雌雄を決するような事になりかねない。

 あの時はお互い、良くも悪くも若年だった。組織を背負って戦った訳ではなかった・・・というか、どちらが組織を背負うかの戦いだった訳だが。

 今、綱吉とザンザスが戦えば。それは即ちボンゴレの内部抗争だ。最悪、ボンゴレを真っ二つに割って2つの組織が誕生しかねない。勿論いがみ合う事が宿命づけられた組織、だ。

 百歩譲って2つになるのはいい。初代相手に『ボンゴレをぶっ壊す。』なんぞと啖呵を切った事もある綱吉だし、多少小さくなる位が丁度良いのかも知れない。

 だが、まずい。いがみ合い決定の組織になるのは、まずい。流血沙汰は御免だ。しかも子々孫々にまでも繋がるような因果なんて。

 ザンザスに聞かれたら、また『いつまで経っても乳臭さの抜けねぇガキがっ。腑抜けた事言ってんじゃねぇっ!!』とでも怒鳴りつけられる事になるのだろう。

 軽~く自信喪失気味に、綱吉は骸の精神世界を歩いていた。


「いつまで歩かせる気だ? 骸の奴・・・。」


 そう。

 悩みつつもしっかり就寝した綱吉は、今、己が霧の守護者の作り出した夢の世界に招かれていた。彼が獄中の身であった頃には毎晩のように訪れ、脱獄を果たしてからも時々足を踏み入れている世界。

 気付いたら、久し振りにここに来ていた。

 慣れたもので、何となく歩いているとそのうち骸の方から、何かコンタクトがあるものなのだが・・・。


「・・・沢田、綱吉。」


「ザンザスッ?!」


(どういうつもりなんだよ骸―――っ!!)


 見慣れて久しい白椅子に、これも見慣れて久しいふんぞり返り方で、王侯貴族よろしく座を占めるザンザス。

 綱吉は軽く恐慌状態に陥った。彼をこの世界で見るのは初めてだ。当然、骸が招いたのだろうが・・・。ちなみに『呼んだ』ではなく『招いた』である。骸にこの世界に来させたいと思われると、思われた方は強制参加で『招かれる』のだ。拒否権などないこのシステムは、綱吉からすると骸本人の傍若無人・神出鬼没振りを表現しているような気がしてならない・・・ぶっちゃけ迷惑だ。

 それはともかく。

 ゆっくり話す間もなく、綱吉がザンザスに気付くと同時に、周囲に急に人が増えていく。総勢10人程だろうか。守護者サイドも居ればヴァリアーサイドも居る。ボンゴレ共通で仕立てた揃いのスーツを着た彼らは、全員、互いに対して過剰反応した強硬派たちだ。

 その表情を見る限り、彼らもまた『強制参加』させられたクチのようだった。


「あの、ボス・・・。本当に現実のボスなのですか?」


「え~と、うん、俺だよ。」


 戸惑いがちに確認してきた部下たちに、綱吉はそう首肯するしかない。

 実物だからといって、今この状況を把握している訳ではないのだが。


(せめて獄寺君か山本を一緒に呼んでくれよ、骸・・・。)


「一体ここは何処なのですかっ?」


「まさか敵襲・・・。」


「ま、待って皆、落ち着いて。」


 両派の主要人物が揃っているこの場が、相手派の仕掛けた攻撃だと思う馬鹿者は流石に居ないようだった。その事に少し安心しつつ、恐慌状態になりかけた部下たちに綱吉は呼びかける。

 とりあえず、自分の知る限りの情報を教えて落ち着かせなければ。


「ここは骸の作り出した夢の世界なんだ。」


「骸・・・六道骸ですか? ボスの霧の守護者の。」


「うん。とりあえず危ない事はないから、」


        ガゥン・・・ッ!!


『・・・・・・・。』


 綱吉の言葉を、聞いた途端に。

 互いを謗り合い始めた両派に、それまで黙っていたザンザスが銃弾をぶち込む。天に向かって撃ったのは彼なりの自制心の表れだろうか。

 静まり返った場に、彼の低くて渋い、落ち着いた声音が響く。


「とっととこの馬鹿騒ぎを収めろ、ドカスが。」


「う、うん・・・ありがとうザンザス。」


「・・・フンっ。」


『・・・・・・。』


 自分たちの頭目2人の、思いの外仲の良い・・・というか、息の合った様子に、部下たちの間に先程とは違う沈黙が降りる。

 これじゃまるで俺たちが悪いみたいじゃん。


「聞いてるんだろ、骸っ。」


 そ知らぬ顔で優しげな青を降らせてくる空が、今は骸の左眼を連想させる。

 腹は立たない。これくらいで腹を立てていたら彼とは付き合えない。何か考えがあるのだろうとも、思う。決して浅はかな男ではないのはよく知っている。

 ただ。

 何も教えてもらえないまま巻き込まれるのは非常に迷惑だ。


「何か話があるんじゃないのか? 出てきて、俺や皆に説明してくれ。」


「ボス・・・。」


「クッフフフフフ♪」


 綱吉の呼び声に応え、姿を現した骸は大木の枝に優雅に腰掛けていた。幹に肩を預け、足を組み、両の手を組んで軽く膝頭に当てている。

 それはまるで、某不思議の国の猫のようで。


(チェシャ猫・・・。)


(チェシャ猫だ。)


(リアルチェシャ猫が居る・・・。)


 互いの目配せで、皆、互いが同じ想像に至っている事を確認し合った。

 知ってか知らずか、骸はその事については全く触れない。・・・当然かも知れないが。


「どうして皆を? 骸。」


「こんばんは、綱吉君。

 いえいえ、大した事ではないのですよ。ただ・・・最近ボンゴレ内部が荒れているようではありませんか。」


「え? え~と、まぁ、ソレは確かにそうだけど・・・。」


 眠る直前まで悩んでいた事もソレだった。だが、たとえ骸が綱吉の悩みを見抜いていたとして、解決に手を貸す彼だとも思えないのだが。

 綱吉は思う。

 骸が自分に語る愛は、確かに信じるに値するものなのだろう。が、その愛はある意味、とても厳しくて、少々歪んだモノだ。自分が泥沼に嵌まったとして、彼は手を伸ばしてはくれないだろう。脱け出す為に散々もがいて、悪戦苦闘して、脱け出せる目算がついてから。それからやっと、ほんの少しだけ、より脱け出し易くなるように、骸からだとは気付けない方向から手を伸ばしてくれる。そういう形の愛だ。自分が間違った方向に行っている事さえ、泥沼に嵌まっている事さえ気付けなくても、それを気付かせてくれようとはしないだろう。

 今回は、まだだ。まだ、骸が綱吉に手を伸ばす気になってくれる段階には、まだ、なっていない。

 いない、筈だ。


「実はですね、皆さんにお願い事があるのですけれど。綱吉君派とザンザス派、双方にお願いします。

 仲良くして下さい。ね?♪」


「・・・七夕もエイプリルフールも終わってるぞ。」


「嫌だなぁ綱吉君たら♪ 僕は本気ですよ?」


「イースターも日本の終戦記念日も終わってるし、ハロウィンもクリスマスも正月もまだ先だぞ。ちなみに明日は夏休み最後の日だ。」


「クフフ、懐かしい響きですねぇ夏休み。でも関係ないですよ、何で行事ばっかりなんですか。もしかしてかなりパニクってます?」


「だってお前、そういう行事事って大好きだし。今回も何か、行事に因んだ気紛れなのかなと・・・。

 ええと、とりあえず理由は?」


 綱吉は、我ながら随分と警戒した質問だなとは思う。つきつめれば綱吉の望みは『両派が仲良くしてくれる事』で、綱吉の味方、霧の守護者である骸はその望みを叶えるべく、こうして行動してくれている、と見るべき状況なのだが。

 おかしい。何かがおかしい。

 骸が、他ならぬ自分の為だからこそ、こんなにストレートに解決の手を打ってくれるなど。絶対に有り得ない。

他の者も骸の言葉に集中し、ゴクリと生唾を飲み込んだ頃合いを見計らって、当の本人はニッコリと告げた。至って普通の、否、普通より余程慈愛に満ち溢れた良い笑顔だ。

 こういう表情の彼はロクな事を言い出さない。それが綱吉の経験則だ。


「綱吉君。

 僕の可愛いクロームは、君にとって『もう1人の霧の守護者』ですよね?」


「? うん。」


「ザンザス。

 僕の所のダメ弟子おチビさん・フランは、ヴァリアーの主要メンバーに数えられてますよね?」


「・・・あぁ。」


「ね?」


「・・・いや、『ね?』じゃなくてっ。だから何なんだよっ!」


「イヤだなぁ綱吉君。判らないんですか?

 僕視点で見ると、クロームは姉弟子、フランは弟弟子なんですよ。しかも2人はかなり仲が良い。自分で言うのもアレですが、上手に教育出来たと思ってます。

 君は、君たちは兄弟、姉と弟を両陣営に別れさせて戦わせるつもりですか?」


「・・・? ――――――っ!!」


 綱吉は今度こそ、盛大に落ち込んで膝をついた。ザンザスが可哀想なモノを見る目で、その背中を見ている。

 つまり、だ。

 恋人である綱吉の危機にはギリギリまで静観し、器を試す骸は、いざ弟子2人が引き裂かれ、敵味方に分かれて運命の戦いに身を投じようという可能性のある時には、こうして事前に手を打つのだ。わざわざ関係者を一堂に集め、頭目である綱吉とザンザスも呼びつけ、説得する。

 これはもう、完全に、綱吉より2人の方に愛の比重が傾いているとしか思えない。


「念の為2人には意志確認しましたが、やはりそれぞれに与えられた責任を全うする覚悟のようです。流石は僕の弟子。

 でもそれは僕の望む所ではない。ならば手を打たねばなりません。2人が戦わずに済むように、両陣営が仲良くなるようにね。それでこうして、両陣営にご足労願った訳だ。

 如何です? 聞く所によると双方既に武器の補充を始めているそうですが、それは外敵対策に回しませんか?」


「しかし・・・。」


「『しかし』・・・?」


 強硬派の1人が呟いた接頭語に、穏やかだった骸の瞼がピクリと動く。

 気配で察した綱吉は、ハッと顔を上げて制止した。


「待て骸、落ち着け、」


「いいえ綱吉君、落ち着けませんね。こちらはクロームとフラン、可愛い弟子2人の運命が掛かっているんです。ウチの可愛い弟子たちに、心の傷でも付こうものなら一体どうしてくれましょう? 兄弟で戦わせるなんて、なんて残酷で無情で無神経な事を。

 優しく言ってダメな子には、厳しく言って導くしかありません。」


「骸っ!」


 突然地面が隆起した。綱吉、ザンザス、それに強硬派たちの足下が脆くも崩れ、その隙間から灼熱のマグマが吹き上がってくる。逃げようと走り出しても、共に隙間から成長してきた蓮の茎が足に絡まって思うように動かない。

 とにかくマグマに触れないよう、逃げまくって散り散りになる幹部たち。綱吉を含む彼らに、俄かに掻き曇った天から骸の声が降ってきた。


「安心なさい、殺しはしません。

 ですが優しくする理由も無くなってしまいました・・・。残念です。」


「絶対残念とか思ってないしっ!」


 逃げながら律儀に突っ込みを入れた綱吉に、隣を走っていたザンザスが半眼になる。


「所詮はマフィアです。ボンゴレがどうなろうが僕の知った事ではありません。武力抗争に発展するのは君たちの自由だし、それを止める権利は僕にはありません。だが、君たちを弄ぶ自由なら僕にもある。

 このまま抗争の準備を続けるなら、毎晩こうして悪夢を与え続けましょう。別に夜でなくても、白昼夢という手もありますね。毎日毎晩絶える事なく悪夢を与え続けていたら、武力衝突前夜には勢い余って、本当に全員殺してしまうかも知れませんよ?」


「お前の『かも知れない』はいつも本気じゃんかっ!」


 綱吉の切羽詰まった声音に、聞こえた幹部の幾人かの顔が引き攣った。


「クッフフフフ。

 さぁ、遊びましょう。遊びながら考えるといい。僕のお願いを聞き入れてくれるのか、あるいは僕と戦うのかを、ね。」


「負ける気なんて更々ないクセにっ! 絶対、どんな手使っても勝つ気だろ?! ていうかもう既に勝つ準備整えてるよな?! そういう奴だよなお前はっ。

 骸の馬鹿―――!!!」


 最後の一言はボスとしてではなく、綱吉個人の魂の叫びである。聞いていた強硬派、敵味方問わず全員が思わず同情してしまう程悲痛な叫びだった。

 500%偶然隣を走っていたザンザスが、念の為という感じで確認してくる。


「おいドカス。お前の守護者どもに野郎の暴走を止められる奴は居ねぇのか。」


「無理っ。戦士で最強なのは雲雀さん、術士で最強なのは骸だから。雲雀さんなら抑えになるかもだけど、拮抗してるし、そもそもクローム一筋だから今回きっと骸の邪魔はしてくれないと思うんだよね・・・。

 そっちの霧の守護者、アルコバレーノのマーモンはっ?!」


「バカがっ。野郎は一度お前の霧に負けてるだろうが。しかも全力には程遠い野郎に敵前逃亡しやがった。

 全力のお前の霧に勝てる筈ねぇだろっ。」


「ひぃ―――っ!!

 それじゃ本当に本気で本格的に武装解除しない限り、ここに居る全員抗争前夜に殺されるって事?! 何で止めようとした俺たちまでっ!!」


「テメーが部下を操縦し損ねたからだろうがっ! 『たち』とか一緒にすんなドカスがっ。」


 マグマは容赦なく迫ってくる。足下まで迫って灼熱を伝えてくるクセに、『殺さない』という言葉通り、蓮の茎が足を取る事はあってもマグマに灼かれる事はない。スライムの如く伸びてきて、超高温の存在感で以って脅してくるだけだ。そしてその脅しが何より怖い。

 伝わってくる灼熱が、数日後には実際に皮膚を焼くのだと思うと・・・。あるいは骸の気紛れで、今すぐここで殺されないとも限らない。

 暗黒に染まった雲の下、足下が一際暗い影に覆われる。

 背中に、今まで感じた事のないくらいの高温が迫ってくるのが判る。

 マグマだ。マグマが津波の如く押し寄せて、そして押し潰そうとしているのだ。避けようもなく押し潰されて、綱吉の意識は暗転していった。


「・・・代目・・・10代目・・・っ!」


 目が覚めるといつもよりずっと早い時間で、しかし隼人が心配そうに自分を覗き込んでいた。それを見て綱吉は、自分が相当うなされていた事に気づく。

 そりゃぁ、あんな夢を『体験』させられれば誰でもうなされるだろう。むしろ何で自分で起きれないかな、と変な事で自己嫌悪になってしまう。


「大丈夫ですか、10代目。相当悪い夢だったみたいですけど・・・。」


「大丈夫・・・今はね。」


「??」


 そう、今は、まだ。抗争前夜でもないし。

 綱吉は隼人に紙とペンを持って来てもらうと、そこにザンザスの名を書いた。そして約10名の、あの悪夢を体験した強硬派の名前も。

 書いて、それを隼人に渡す。


「あのね、獄寺君。最優先で会議を開かなくちゃならなくなったんだ。

 急でゴメン。今ここに書いた名前の人間を、出来るだけ朝イチで広間に集めてくれる?多分、本人たちも何で呼ばれたのか判ってると思うから。」


「夢を通すのは、あいつの十八番です。

 骸の野郎が何か言ってきやがりましたか?」


「雲雀さんと物凄く気の合いそうな理由でね。

 助かったといえば助かったのかも知れないけど・・・。まぁとにかく、例の抗争寸前の件は何とかなりそうだから。」


「そうですか。良かった。これも10代目のご人徳です♪♪♪」


 尊敬の眼差しで懐いてくる隼人の、その髪を撫でて笑って誤魔化す綱吉。

 同じ夢にザンザスも招かれていた事は内緒にしておこう。


「クロームと、フランか・・・。」


「10代目?」


「いや、兄弟とか、兄弟分とかっていいなと思ってさ。」


「10代目にも跳ね馬が居るじゃないですか。それに俺の姉貴を見て下さいよ、絶対あんなの要らないって思いますから。」


「ビアンキは、あのポイズンクッキングさえ無ければねぇ・・・。」


「他にも欠点なんて腐る程持ってますよ? 例えば、」


 本人が居ないのをいい事に、隼人はビアンキの欠点を言いたい放題挙げ始める。聞いていると物凄く性格破綻した社会不適合者のようだ。

 楽しく聞きながら、ふと思う。自分を大事にしてくれない骸は嫌い、そう言ってしまうのはあまりに簡単で、そして早計で幼いと。骸にも愛情というモノは存在するのだ。まぁ、そんなのも結局、彼の天秤を目の当たりにしても揺らがないこの想いを、正当化する為の言い訳、なのだろうけれども。

 だが、揺らがないにしろ思う所はある訳で。


「とりあえずこの問題が解決した後。

 骸に何か意趣返ししよう、絶対。絶対確実にダメージになる方法を考えないと。次に俺と何かを天秤に掛ける時には絶対に俺の方が重くなるように・・・でもナッポーネタには抗体出来てるからなぁ・・・。」


「俺も一緒に考えますよ、10代目♪

 10代目公認で変態ナッポーに仕返し出来るビッグチャンス・・・!」


「殺しちゃ駄目だからね、獄寺君。」


「イヤだなぁ10代目、判ってますって♪」


 ルンルン気分で浮かれている右腕は、棒読み口調の上の空だ。相当恨みを溜めて込んでいたと見える。

 折角の機会だから守護者全員で共謀しようか。そんな危険な事を思い浮かべて、綱吉は苦笑した。何をどう考えていても、判っているのだ。最後には必ず、己は彼を許し、必要とし、生きて側に居て欲しいと思うだろうと。

 自分の心すら思うに任せないのだ。これで何故、他人の心など思うが侭になるだろう。結局誰に対しても、誠実に言葉を尽くすしか説得の道はないように思える。

 広間に集める面々は、骸の事があるとはいえ素直には言う事を聞かないだろう。だが、とりあえずここは敢えて言葉を用意せず、その場になってから言葉を探そうと思う。

 綱吉は、まず朝食を摂るべく寝台から降りた。


                          ―FIN―

骸様は優しい方です 10代目の証言 【10年未満後 骸綱】

骸様は優しい方です 10代目の証言 【10年未満後 骸綱】

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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