彼女違い 【アニメ版未来編 雲髑】
発掘品。
比較的短めで、アニメ版の大人恭さん目線。
10年後恭さんから見た、クローム髑髏、みたいな。
彼女違い 【アニメ版未来編 雲髑】
「笹川了平は沢田の決断後に、ここへ来ます。
その前にクローム髑髏に会っておきますか?」
「いいよ。
骸はそこにはもう居ないんだろ?」
「へい、おそらく・・・。」
風紀副委員長だった頃から、草壁哲矢にとって恭弥の言葉は絶対だ。その言葉に逆らうなど有り得ないし、時には問い返す事さえ躊躇ってしまう。
今も。
笹川了平が連れて来た・・・というか、保護してきた『10年前のクローム髑髏』に、『会わない』と言う主の真意が、哲矢には掴めない。『10年前の』でも、大事な恋人には違いない筈なのだが。
さりとて問い返すのは無粋な気がする。ただでさえ、その手の事には口重たくなる恭弥の事だ。下手な言い方をすれば咬み殺されるかも知れぬ。
後でよくよく考えてみよう、と思考を後回しにした時、もう少し、恭弥が言葉を足した。
「『あれ』は、彼女であって彼女じゃない。
確かに偽物ではないが、本物とも言い難い。
死なれては困るが、わざわざ会うには値しない。」
「10年間の記憶が欠落しているから、ですか?」
「そういう事さ。」
謎掛けのような自分の言葉を、そう結論付けた哲矢に恭弥は口許だけで微かに笑ってみせた。どうやらド正解ストライクだったらしい。
恭弥はそれ以上言葉を重ねず、次の話をしながら、瞳は机上の文鎮を眺めていた。
「・・・ボ、ス・・・・。」
「俺はここだよ、ここに居るよクロームっ!」
突然容態の悪化したクロームを、周りは為す術なく取り囲むしか出来ない。治すべき臓器そのものが無いのだ、手の施しようがない。傍に居る事しか出来なかった。
「・・・あ・・った、かい・・・。」
「クロームっ!」
握った手が今にも崩折れてしまいそうで、綱吉の瞳が、喪失の恐怖に大きく見開かれた。
と、その時いつの間にか現れていたのは恭弥。
「雲雀さんっ、」
「・・・死んでもらっては困る。」
「・・・?」
わざわざクロームを抱き上げ、そう呟いた恭弥の様子に、綱吉が不思議そうな顔をした。この人はこんなにも、誰かに熱い視線を送る人だったろうか、と。
哲矢が皆を出し、2人きりになった集中治療室で、彼は彼女を見つめていた。
「・・・・・。」
彼女もまた彼を見つめ返すが、その瞳に熱はない。
『誰だったろう。』という顔だ。恐らく今が体調の落ち着いた平時であっても、そんな顔をするのだろう、『この』彼女は。
それでいい。
無理もない。
ここに居るクローム髑髏は、『恭弥を知る』クロームではない。10年間分、記憶喪失に陥っているも同じなのだから。
恭弥はゆっくりと『彼女』の右手を取った。
「骸が何故、君にボンゴレリングを託したか、考えた事ある?」
「・・・・・。」
恐らく今の『この』彼女にとって、恭弥の声はその他大勢と同じだろう。綱吉の声の方が、ボスとして仕える必要がある分、余程彼女の中にはよく響くかも知れない。
今の、この13歳の彼女の中に、恭弥は居ない。
「まだ、死にたくはないんだろう・・・?」
虚空を泳ぐ彼女の瞳に、誰が映っているのかなど容易に察せられる。余裕ぶった態度が気に入らない変態南国果実であり、野良犬であり、植物だ。
霧のリングに、覚悟の炎が宿る。
この覚悟は、骸の為の覚悟。彼の器として、霧の守護者として生きたい、という望み。
「君の覚悟で、君自身の体を創ってご覧。」
それで、いい。
恭弥自身が会いたいと切望するのも、『この』彼女ではない。
待っている。
彼女の帰りを、ずっと待っている。その為に、今は『この』彼女に死なれては困るのだ。
「弱いばかりに群れを成し、咬み殺される袋の鼠・・・。」
足下には、白と黒の大量の群れ。
己の背後には、『恭弥を知る』10年後に繋がる彼女。
「結構残ったね。なら、ここからは僕が相手をしてあげるよ。」
恭弥のやる事など決まっている。あの群れを彼女の枕元に近寄らせてはならない。
その為なら誰とだって何千時間だって戦い続けられる。
「・・・・・。」
帰って来た彼女は、恭弥の名を呼んでくれるだろうか。
―FIN―
彼女違い 【アニメ版未来編 雲髑】