誕生日 【ザンスク←ディーノ、骸綱】

ザンスクが好きです。

ヴァリアー全体はもっと好きです。

誕生日 【ザンスク←ディーノ、骸綱】


 リング争奪戦。あの戦いの思い出し方は各人それぞれだろうが、参加者それぞれに、色々な物を与えた戦いだった。

 ディーノに『旧友との再会』を与えたのは、紛れもなくあの戦いだったのだ。


「ヴォおおおいっ! てめぇ何度も同じ事言わせてんじゃねぇぞ跳ね馬ぁっ!!

んな温ィ事やってられっかっ! 次ィ電話してきやがったらぶっ殺すからなっっ!!」


 某月某日某時刻・イタリア某所。

 とあるホテルの一室で、電話口を勢いよく怒鳴りつけたスクアーロは携帯よっ! 壊れてしまえっ、とばかりに思いっ切り電源を切った。それだけでは飽き足らぬと、彼は更に床に投げつける。

 受け止める絨毯の音すら苛立たしくて、乱暴にベッドの端に腰を下ろす。


「うっせぇぞカス鮫。何なんだ?」


「・・・大した事じゃねぇよ。」


「フン。」


 シャワールームから出てきたザンザスが、うるさそうに眉根を寄せている。実際スクアーロの大声はマフィア界有数だ。その声が怒りの侭に怒鳴りつける声量など、聞かされる方はたまったものではないだろう。

 今現在、手癖の悪いこのボスが、物を投げつけていないのは奇跡に等しい。

 アレから5年が経った。

 ザンザスではなく、沢田綱吉がボンゴレ10代目の座についてから。


「定時連絡は?」


「しておいたぜ。後はゆっくり寝て、明日の朝のんびり帰るだけだ。」


「ゆっくり、のんびり、か。」


「ザンザス?」


 スクアーロの言葉を鼻で笑ったザンザスは、彼の前に立つと軽くその肩を押しやった。大した力を入れたようにも見えなかったのに、2代目剣帝の体は簡単に背中から倒れ込んでしまう。長身の男が倒れる、ドサッという音が2人きりの室内によく響いた。いつもの騒がしいメンバーが居ない分、余計静けさが耳に付く。

 スクアーロはといえば、見透かしたような笑みを浮かべて、己の上にのしかかる男を見上げている。


「どうしたよボス、今更跳ね馬のヤローに焼き餅もねぇだろ?」


「うるせぇ、超弩級のドカス、最上級の大馬鹿野郎が。」


「黙って聞いてりゃてめぇはよ、」


 スクアーロに皆まで言わせず、ザンザスは問答無用で覆い被さった・・・まぁ、この男の問答無用具合は今に始まった事ではないが。

 銀髪の絡まる肢体に、舌先を這わす。柔らかい首筋から鎖骨、鍛えられた胸筋、腹筋の、更に下へ・・・それでいて腕の力は緩めずに、己の身に触れる事を禁じるかのように強い力で押さえ付け続けるのだ。

 真っ白いシーツに皺が寄る。スクアーロの右手が、ザンザスに触れられない不満を訴えてシーツに八つ当たる。

 やがて声なき声と共に、その細腰を一際跳ねさせて、スクアーロはザンザスの口に自身を解放した。


「相変わらず早い野郎だ。」


「うっせ、さっきのがまだ残ってんだよ。」


 ザンザスは殆どキスをしない。自分からは。今も、とっとと立ち上がるとバスローブを着直して、スクアーロの横に座っている。その横顔はいっそ拒絶されているのかと思う程淡白なものだ。

 そんなのはもう慣れっこなのでどうとも思わないが、さりとて自分からキスをねだるのも何か違う気がする、と、こういう時いつもスクアーロは複雑な気分にさせられる。


「で?」


「あぁ?」


「跳ね馬がどうしたって?」


「・・・・・。」


 まだ気になってたのかこのツンデレ野郎は。

 呆れ半分、苦笑半分で、スクアーロは自由落下の如き乱暴な速度で、ザンザスの膝の上に後頭を乗せた。オイ、と目線で咎められるが、知った事ではない。

 すぐに諦めたらしいザンザスの、その大きな手が手慰みにだろう、銀髪を梳き始めた。


「誕生日パーティーをしたいんだとよ。」


「誰の。」


「俺の。」


「・・・・・。」


「6年前、リング争奪戦で再会した時から毎年だぜ? 毎年断ってるのに、毎年声掛けてきやがる。何を拘ってんだか知らねぇが、いい加減ウゼェっつの。」


「拘ってんのはお前に、だろ。」


「・・・ケッ。

 14で寮から逃げ出した背中を、今でもまざまざと思い出せる。なんて根性のねぇ野郎だと、呆れたから覚えてるんだ。

 8年後に会ったのが戦場だったからって、俺の野郎への評価は変わらねぇよ。そこから更に6年、何万人の部下を連れてようが、俺からすりゃボンボン育ちのガキのまんまだ。

 ガキが俺狙いなんざ、永遠に早ぇんだよ。」


「ガキだの何だのよく言うぜ。お前ら同い年だろうが。

 水槽に落ちたお前を回収したのも跳ね馬だろ。」


「俺は頼んじゃいねぇ。むしろ不愉快だった。目を覚ました時はな。奴は俺の、剣士としての誇りを汚したんだ。

 それに、」


 腹筋だけで上体を起こすと、スクアーロの右腕が、スルリとザンザスの首に絡み付く。

 その瞳は好戦的に輝いていた。


「俺の好みはお前も知ってる筈だぜ、ザンザス。」


「・・・たりめーだ。この俺様なんだからな。」


「そっちこそよく言うぜ。」


 咽奥で笑うスクアーロと、ザンザスの唇が重なる。深みに嵌まる口付けに、幾度も絡み合う舌の動きに。2人の体がゆっくりとベッドの上に沈んでいく。

 スクアーロの好み。それは年上で、手が付けられない程凶暴で、それが許されるくらいの知性と、何よりも圧倒的な武力を備えた、男。傍若無人で、畏怖で以って強引に人々を捻じ伏せるくらいが丁度良い。

 和を重んじるディーノとは、180度対極に位置する、男。


「オイ、カス鮫。」


「?」


 バスローブをそこらにポイ捨てしたザンザスは、不意に己が上に居る恋人を呼んだ。

 サラリと落ちてきた銀髪に指を絡める。


「今年は俺が祝ってやろうか?」


「・・・アホ抜かせ。」


 一瞬怪訝な顔をしたスクアーロは、すぐに意を察して半眼になる。意趣返しのように、少し強めに彼の上に落下してやった。そんな程度、強靭なザンザスの肉体に何の負担にもならない事は知っているけれど。

 肘から先の無い左腕。その残った上腕を撫でるザンザスの手が妙に優しげで、心地良くて、スクアーロは瞳を閉ざす。


「そもそも俺ぁ、誕生日ネタは嫌いなんだ。明日の保証のねぇ人間が、数を数えて何になる? それに、」


 続く台詞に、ザンザスの手が止まった。


「・・・あの8年間を思い出すんだよ、ド畜生め。」


「・・・・・。」


「警備の目を盗んで、何度も氷の中のお前に会いに行った。鉄板に囲まれて姿は見えなかったがな。

 時間が経つのが、あんなに遅かった時期はねぇ。

 経った証に誕生日を迎えるのが、あんなに怖かった時期もねぇ。

 歳を重ねるって感覚じゃねぇんだ。足場の岩が、1年経つ毎にブロックで剥落してく。岩が全部無くなっちまったら暗闇に呑まれて終わるだけだ。

 何も為せずにな。

 お前が氷漬けにされてからこっち、今でも。

 俺にとって『誕生日』は、あの頃の悪夢を思い出させるキーワードでしかねぇよ。」


「そういう事かよ。

 道理で、他の奴らも『誕生日』のたの字も口にしねぇ筈だぜ。」


「ベルなんざ、9歳の誕生日には絶対にチキンだと、うぜぇぐれぇ楽しみにしてやがったってのに。その前に9代目のせいでお前が氷漬けにされちまって、一ッ言も言わなくなっちまった。気味悪いくれぇにな。

 ああいうタイプは根に持つぜぇ?」


 ケケケッと含み笑うスクアーロ。

 ヴァリアーにあれだけ手荒く扱われても、9代目は意外な程しぶとく健在で、引退した今はボンゴレ管轄の小さな別荘でペットと一緒に暮らしている。

 8歳の少年の心の闇を、増幅させたのが自分だとも知らずに。


「だが、お前は別だぜ、ザンザス。」


「?」


「お前が自分の誕生日パーティーをしてぇってんなら、俺もアイツらも大喜びでやってやる。どうする、今年にでもやるか?」


「カスが。そんなモンに興味はねぇよ阿呆。」


 一言の許に斬って捨てたザンザスは、スクアーロの側頭を軽く小突くと体を反転させて彼の体を組み敷いた。

 指に絡めた銀髪を、口許まで引き寄せて口付ける。その色気がゾクゾクッと、彼の背筋に甘い電流を走らせる。無意識の内に、ザンザスの腕を掴んでしまう程に。


「俺が今欲しいのは、俺好みの野郎だけだ。」


「ハッ、相変わらず強引で正直な野郎だぜ。」


 それを同意と受け取って・・・否、同意など無くても、欲しければ貪るのがザンザスという男だ。スクアーロの肌を嬲る動きが本格的に始まる。

 跳ね馬ディーノが刺激した嫉妬や独占欲は、今夜の最高のスパイスになるだろう。

 始まったばかりの夜に、今、2人の熱はようやく温まった所だった。


 ボスになる前からの役目のひとつに、落ち込んだディーノを慰める役、というのがある。

 綱吉は今夜も掛かってきた兄貴分からの愚痴電話に、苦笑しながら付き合っていた。


「ディーノさん、6年連続空振りって、それ作戦変えた方がいいんじゃありません?」


『そうだろうか、でもなツナ、誕生日って言ったら特別な日だろ? やっぱりなぁ・・・。』


(ていうか根本的な問題に、スクアーロの好みがディーノさんとは正反対ってのがあると思うんだけど・・・。)


 むしろ何でディーノがスクアーロを追い掛けるのかが不思議だ。14時分の憧れとか、格好良いイメージとかが残っているせいだろうか。

 でも、恋敵が『あの』ザンザスじゃぁなぁ・・・。


『ツナ、聞いてるか?』


「はいはい、聞いてますよディーノさん。」


 ボスの座を継ぎ、より間近でザンザスを見る機会が多くなるにつれ、リング争奪戦時分に抱いていた『粗野で暴力的なだけのボス』というイメージは当て嵌まらないと痛感させられていた。

 カリスマ性と、それに厚みをもたせるだけの実力もある。ではザンザスが10代目でも良かったかと訊かれると、はっきり否と答えられもするのだが。

 綱吉視点では、ディーノにはスクアーロなどよりもっと、穏やかで優しい人の方が必要だし、合ってもいると思うのだが。

 目の前では骸がニコニコ笑顔で、電話が終わるのを待っている。


『でさ、その時のスクアーロがさ~、』


「あのディーノさん? 俺、ちょっと人を待たせてるんで・・・。」


『トラブルか? 何なら俺も手伝うぜ?』


「いや、そういう訳では・・・骸なんですよ。」


『ツナの馬鹿野郎ー!!』


 泣き声と共に切れた電話に、また苦笑する。

 机の上をザッと片付けて立ち上がると、すぐに骸が、綱吉の両手を自分の両手で包み込むように握ってきた。

 その顔には先程の『クフフフフ、この僕より跳ね馬を優先するなんて良い度胸ですね。』という圧迫の籠もった笑顔ではない、本当に上機嫌な時の笑顔が浮かんでいる。


「骸?」


「い~え? ただ、何度されても気分の良いものだと思いましてね。

 綱吉君。君が他の人間より誰より、他ならぬ僕を優先する所を見るのは。」


「あはは♪ 骸、それディーノさんの前で言ったらマジで怒るからな♪♪」


「クフフフフ♪♪♪♪」


 約束通り一緒に夕食を食べに出ながら、綱吉は心の底からディーノがスクアーロを諦められる日が来る事を祈った。

 あの優しい兄貴分が、骸のような性格の悪い恋人に捕まりませんように。



                            ―FIN―

誕生日 【ザンスク←ディーノ、骸綱】

誕生日 【ザンスク←ディーノ、骸綱】

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2016-08-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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