【名を呼ばれるのは幸福か】 へし切り長谷部+主+御手杵

ブラック本丸取締官系へし切り長谷部の、任務中の(ほぼ)独り語り。

長谷部に『優しい汚れ仕事』をさせたいだけの刃生でした。

『汚れ仕事のある世界観』というのを、ピクシブ辞典で見かけてから、
ずっと長谷部氏に『汚れ仕事』をして欲しかった、という。

ぼんやりながら、ブラック審神者やブラック本丸描写がありますが、
七草本丸はソレを罰する側、という事で。

七草本丸は健全ホワイト、だがしかし、ブラックを憎む主の意向で、
政府公認のブラック対抗部隊を、6部隊も抱えてますよ、っと。

自分が『(ちゃんと制御出来てる系の)真性ショタ』だから、
ブラックに堕ちた本丸や審神者は、自戒も込めて許せない、
許せる自分になりたくない系審神者の七草さん。

【ショタに関する一考察】で乱ちゃんに話してた、『政府から貰ってる6振の長谷部』の話。

ネーミング魔人なので、名前を考えるのは大好きです。

【名を呼ばれるのは幸福か】 へし切り長谷部+主+御手杵


 その本丸には裏部隊が存在した。

 主の趣味が『ブラック本丸潰し』である故に。


「一輪隊長。

 保護対象を捕捉しました。」


「ご苦労、氷綺(ひのき)。

 本隊の任務は、離れに隔離されている実験体の確保だ。四季(しのとき)部隊の本丸強襲と同時に突入する。皆、準備を怠らぬように。」


『応っ!』


 隊長の下知に、他5名の、並ならぬ気迫が応える。

 一輪(いちりん)。

 それが政府から遣わされた6振の『へし切り長谷部』の内1振に、主が与えた個人名だ。『四季(しのとき)』も然り。

 名を与えるのが、好きな主だった。

 鍛刀に励み、他本丸からも積極的に刀剣を受け入れる一方で、錬結を嫌い、本丸を開いて以来一度も行った事がない。当然のように5振6振と同じ刀剣が重複したが、1振目が羨むような綺麗な名前を全ての『2振目以降』に付け、そして1振目同様に大事にしてくれる主だった。

 刀剣男士に惜しみない慈愛を注ぐ一方で、敵に対しては苛烈を極める主でもあった。

 その最たる行動が『ブラック本丸潰し』だ。


「合図だ。

 行くぞ。」


 最低限の言葉で統率が取れる事、そのものが隠密部隊の証のようなものだ。

 何故、と。そう訊いた事がある。

 ブラック本丸を見付けたなら、政府の監察局に通報すれば良いだけの話だ。何も自ら足労せずとも、と。


『ケジメだよ。』


 明快で、そして力強い言霊を遣う主だった。

 今でこそ隠密部隊に任せているが、刀剣男士も連れず、たった一人闇に紛れ、幾つものブラック本丸を強襲し、蹂躙し、破壊した。心身共に、凶暴なまでに強い主。

 有用性を認められ、監察官の身分を追認で与えられる一方、危険視もされる程の。

 政府は主の本丸から選ばせるのではなく、敢えて官の刀剣保管庫・・・通称『蔵』から6振の『へし切り長谷部』を与えた。

 暴走するなら殺せと、内意を含ませた社畜刀を。

 人の身でありながら、それ程の武力と、何より執念と呼べる意思の強さで『ブラック本丸』を潰す主だった。


『こういうのを野放しにしてるとな、ウチの連中に顔向け出来ねぇんだよ。

 見た瞬間に潰さないと気が済まない。通報してる時間も、監察局が証拠集めしてる時間も、全てが惜しい。

 だってそうだろ? その時間の分だけ、ウチの大事な刀剣たちの同胞が、兄弟が、虐げられる時間が長引くんだぜ?』


 一輪に『ブラック本丸の潰し方』を教えながら、そう言って主は敵審神者の心臓を、新月の闇のような眼で潰していた。

 遣う武術も独特だった。琉球古武術。中でも棒術を好んだ。琉球貴族の末裔、という訳ではないそうだが。


「っ!!! これは・・・。」


「・・・よく探せ。

 氷綺(ひのき)の探索能力は絶対だ。生存者が1名は居る筈だ。」


 殺されたばかりだとしても。

 その言葉は敢えて呑み込む。主の許、この任に着いて10年。惨状には慣れている彼でも、一拍の間が必要な血臭だった。

 今回の標的は、狂科学者審神者の人体実験本丸。

 真名で縛られた刀剣男士たちが、実験とは名ばかり、血の滴るメスの痛みに晒されていると。監察局ではなく、主の許に直接『通報』があったのだ。

 裏を取るまでもなく、証拠は通報者が持っていた。

 曰く、定例集会で偶然知り合った人体実験本丸の審神者から、検体・・・刀剣男士の提供を求められたと。そんな審神者が実在する事も衝撃だが、そんな審神者に同類と思われた事は更に衝撃だと、青い顔して二重の意味でショックを受けていた、らしい。

 らしい、というのは、一輪自身は、その通報者に会っていないからなのだが。

 一輪も、他の『へし切り長谷部』・・・5人の隠密部隊長も。

 常に、既に決定された実働任務を主から直接、拝命するだけだった。それで充分だと思っている。作戦の可否も内容も、全ては主の領分。

 一輪はただひたすら、成功だけに邁進していれば良い。


「望月。大丈夫か。」


「・・・すまない、一輪隊長。戦えるよ。」


 青い顔で立ち尽くす、蜂須賀虎徹。

 声を掛けるとゆっくりと息を吐き、上げた顔は既に戦士のソレだった。

 夜戦を想定した隠密部隊の隊員は、短刀・脇差・打刀の3刀種で統一されている。それも『訳アリ』のを、主は敢えて選んで『長谷部たち』の許に付けた。

 例えば。

 目の前の『蜂須賀虎徹』・・・主は『望月』と呼ぶが・・・彼はブラック本丸の出身だった。重傷行軍は当たり前。暴力癖の強い審神者に、標的にされたのは太刀以上の長物であり、打刀の中でも特に、長曽祢虎徹が虐げられていた。

 望月は後悔していた。兄を救えなかった事を。自責の念に押し潰されそうな程に。

 その自責から解放されるには、堕ちるか、『償えた』と自覚するか・・・自分が納得するまで贖罪行為を続けるか。そこまで彼は追い詰められていた。

 機会をくれたのは、彼を保護した今の主だけ。政府の常識人の言葉では、彼の心は救い得なかった。

 だから望月は、自ら、隠密部隊の一角を担う事を選んだのだ。それは堕ちたくなかったからでもあり、『自分の中の兄』に償いたかったからでもある。

 『氷綺(ひのき)』は平野藤四郎。

 やはり他本丸の出身だが、最初はホワイトだったのだ。彼の主も、本丸も。

 だが顕現させた『平野藤四郎』に、異能があった。その事が・・・それだけの事が、黒染めの始まり。

 探索能力。敵に限らず、誰が何処に居るか、彼は感覚で知り得る。現世でストーカー被害経験者だった旧主は恐怖し、怯え、彼を幽閉した。

 諫めた初期刀の歌仙を折り、弟を守ろうとした一期一振を折り、旧主は加速度的に壊れていった。

 結果的に本丸崩壊の引き金となってしまった、己が能力。『同胞の救済』という大義に使わなければ、堕ちてしまいそうな程に平野は・・・『氷綺』は傷付いている。今も。

 そんな刀剣ばかりだ、この本丸の『隠密部隊員』は。

 別名を『メンタルケア部隊』とも言える。ごく偶に隠密部隊から表部隊に移る者も居るが、それはメンタルケアが済んだ証拠でもあった。

 政府の要人の中には、彼らの心の傷に付け入っている、という捉え方をしている者も居るようだが。

 笑わせる。

 外の闇に身を置かなければ、自らが持つ『自責』という名の闇に呑まれ、潰される。恐怖や痛みに身を晒していなければ、いたたまれない。日常の平穏が、日溜まりの縁側が、優しさが。針の筵に包まれるよりも恐ろしい。

 そういう苦しみ方をしている者の気持ちなど、そいつらは一生理解しないのだろう。

 精神医学の本をいくら読み漁ろうと、無駄な事なのだ。

 『彼ら』の救い方を、肌身で知っているヒトだった。主は。

 一輪の救い方も。


「一輪隊長っ! 生存者居ました、生存者1名発見ですっ!」


「よくやった、氷綺。

 『誰』だ?」


「『御手杵』さんです!

 でも、大分混乱してて、」


「もう嫌だ・・・っ!!

 頼むからもう切らないでくれ、主、俺の本体を返してくれ!! 真名で命令しないでくれ、折らせてくれ、いっそ折れろと、真名で命じてくれ・・・!!!」


「落ち着け、『御手杵』。

 お前の主は、罰を受けた。もうお前を切り刻む者は居ない。お前は悪くないし、お前が折れる必要など無い。」


「・・・・・折れたいんだ。苦しい・・・苦しくて、息が出来ない・・・。

 皆、居ないんだ・・・主が切ってしまった・・・!!」


「御手杵。

 御手杵、よく聞け。」


 刀剣屈指の長身を折り畳み、壁際ギリギリに背を押し付けて震える男。切り傷だらけの体で膝を抱え、朗らかに笑うカオなどまるで想像もつかない男。

 焦点の合っていない『御手杵』の前に膝を付き、一輪は目線を同じ高さにした。

 ストラが床に擦れ、哀れな刀剣から流れたばかりの血が染み込んで、金色に染みを作る。それでも。そんな汚れなどは些事で。

 主がこの場におられたら、きっとこうする。


「いいか、御手杵。

 俺たちは、別の本丸から助けに来た。生存者はお前だけだ。

 お前だけでも助けたい。安全圏に離脱しよう。」


「・・・皆、ここで死んだ・・・折れた。置いて行けないよ。」


「・・・・・・・折れたいと、言ったな。真名で命じろとも。

 勝手に折れるなとでも、真名で命じられていたのか?」


「・・・うん。」


「なら尚の事、共に来い、御手杵。

 我らが主は、慈悲深い御方だ。真名での下命を嫌う。お前の命令も、すぐに解いて下さるだろう。再契約は、今のお前には恐ろしい事だろうが。

 主にお会いして、再契約して、一言目で折れる許しを頂いたら。

 次に主からお言葉を賜る前に、その場で折れてしまえば良い。

 たったの4拍だ。

 簡単だろう?」


「・・・会って、再契約して、命令もらったら、折れられる・・・。」


「そうだ。すぐに済む。ご命令頂けるように、俺も口添えしてやるから。

 一緒においで、御手杵。」


「・・・・・・・・・・・・判った。行く・・・長谷部の主に、折ってもらう・・・。」


 隊員たちの間に、ホッとした空気が流れる。

 巧みな話術で御手杵の譲歩を引き出した、一輪への賞賛の空気も。

 七草本丸の『あの』主が、みすみす折らせる筈が無い事は、部隊の誰もが判っていた。かの主は生存を強いない。一輪以上の巧みな話術と誠意で、生存を望むように『導いてくれる』のだ。この部隊の誰もに、そうしてくれたように。

 それでも、折れる・・・本霊に帰る事を選ぶ者は、確かに居る。

 だがソレは、今この瞬間の御手杵のような、苦悶に溢れた絶望の表情ではない。

 安らかに、自分の意思で。

 『折れる選択をする』か『折れる以外に選択肢が無い』か。同じように見えて、その違いは大きい。


「一輪隊長、標的審神者の気配が消えました。

 四季(しのとき)部隊の本丸掃討、終了です。」


「そうか、氷綺。

 俺たち一輪部隊も合流し、任務の第二段階に入る。

 御手杵、お前の本体も探さないとな。」


「っ、うん、本体が無いと、再契約して折ってもらえないもんなっ。」


「そうだな。」


 旧主が死んだ時点で、真名による束縛は外れている筈。

 ・・・などという事実は、誰も指摘しなかった。今の御手杵は『再契約してからでないと折れられない』という、その『誤解』を糧に生きている。

 その誤解を解くのは危険だ、今は。

 すぐに折れられると、知れば次の瞬間に折れるだろう。それは部隊の誰も望む所ではない。誰もが一度、今の御手杵と同じ境地に立った事があるからこそ。

 生きて欲しい。死なないで欲しい。

 自分自身の『有り得た別ルート』のようで、見たくないから。

 救われて欲しい。救わせて欲しい。

 かつて同胞に、兄弟に、してやれなかった事だから。

 赦して欲しい。今は亡き彼らの代わりに。


「長谷部の主、俺の事、資材として使ってくれるヒトだといいな。

 俺、何も持ってないもん。俺を折ってくれる長谷部の主に、あげられるモノ、自分しかないもん。

 ね、長谷部、長谷部♪」


「懐かれたね、一輪隊長。」


「気持ちはよく判るが・・・。

 その感謝を捧げられるべきは、俺ではなく我らが主なのだがな。」


 望月の微笑に、一輪は苦笑で答えた。

 一輪1人ならば、こんなブラック本丸にわざわざ関わろうなどとは思わない。通報どころか見て見ぬフリをすると、正直な所、そう断言出来る・・・そんな事を平気で・・でもないが、口にしてしまうから『主を間違わせる刀』などと嘲弄されるのだ。

 それでも。

 偽らざる本音として、一輪にとっては倫理観や綺麗事より主の方が大切で、巻き込まれて主が怪我をするかも知れないなどと、そちらの方が余程、恐ろしいのだ。

 ただ複雑な事に、一輪の主は一輪の主と成るようなヒトだからこそ、積極的に敵を探す、自身の怪我を厭わぬ主だった。

 その苛烈さが、主自身が自らの『歪み』を嫌悪するが故の、自罰感情から来るものだとしても。

 救われた者が居る事を、いつか知って欲しい。

 主に対して、個人的な望みを持つなど僭越とは思うし、自身の性格とも微妙に矛盾する。だとしても。

 いつか改めて、ちゃんと『ありがとうございました。』と言いたい。長く諦観に支配されていた『へし切り長谷部』を1振、受け入れてくれて感謝していると。


「折れる事ばっか考えてたけど。錬結も捨てがたいな。」


「我らが主は、錬結がお嫌いだ。一度もなさった事がない。」


「マジっ?! そんな審神者居るのっ?!」


「俺の事は『一輪』と呼べ、御手杵。主から賜った名だ。気に入っている。

 2振目以降は、皆に名を与えて下さる。お優しい主だよ。」


「名前・・・名前かぁ・・・。

 俺さ、名前って真名で縛られる時の痛みを思い出して、あんま好きじゃないんだけど・・・そうか、個人名をくれる主も居るのか。

 俺が長谷部と同じ本丸に顕現してたら・・・出来てたら、どんな名前で呼んで貰えたのかな。」


「さてな。俺より主の名付けの方が、数段美しい。

 お会いした時に、伺ってみたらいい。折れる前に。」


「そうか・・・そうだな。

 折れるまでの数秒だけでも、俺だけの名前がもらえるって、何か良いな。」


 いい感じに、他の事にも目が向き始めている。折れるの前提だとしても。

 御手杵の本体は、すぐに見付かった。


「一輪部隊・四季部隊、帰還した。

 両部隊ともに負傷者不在。生存者1名、御手杵を同道。

 主に取次願いたい。」


「おぅ、お帰り♪」


 門番の獅子王の顔を見ると、一輪はホッとする。本丸は健在なのだと。

 彼は他本丸の出身だが、主の『1振目の獅子王』だった。故に個人名は無い。

 御手杵は主の『22振目』だ。『だからこそ』佳い名を貰えるだろう。


「一輪。四季。

 皆、ご苦労だったな。」


 獅子王の端末から連絡を受けた主が、わざわざ玄関まで迎えに出てきてくれる。出陣から戻った刀剣男士は、可能な限り、自ら足労して出迎える。それが主の自分ルールなのだ。

 主に名を呼ばれると、『一輪』は身が震える。

 何度でも、感動で。


「御手杵。お前を歓迎する。」


 主の重厚な低音に、優しく呼ばれた御手杵が瞠目する。

 名を呼ばれた、それだけの事で涙が溢れてくる。今まで一度も『かの主のように』呼んでくれた人は居なかったから。

 一輪にはよく判る。政府でも汚れ仕事をさせられていた彼の、傍に居たのは正義感と共に責める善人か、蔑視と共に利用する悪人だけだったから。

 在るがまま受け入れてくれたのは、今の主だけだったから。

 一輪。

 政府も歴史も関係ない、ソレが『主のへし切り長谷部』の名前だ。



                   ―FIN―

【名を呼ばれるのは幸福か】 へし切り長谷部+主+御手杵

【名を呼ばれるのは幸福か】 へし切り長谷部+主+御手杵

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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