【誇りの在処】弐

捏造設定→捏造細川勝元公。

【誇りの在処】弐


『はじめまして、かつもとさま。

 ぼくはみだれとうしろう。かつもとさまのまもりがたなだよ☆』


『・・・よう戻った。我が娘よ。

 さぁ、父の許へ参れ。』


『?? はい、ちちうえっ♪』


 勝元が広げた両腕の中へ、『乱藤四郎』は躊躇なく抱擁されに行く。男を父と疑わない、その笑顔の無垢な事。

 幼い付喪神は、簡単に一線を踏み越えた。


「はっはっは、こりゃぁ驚いた♪

 気遣い細やかな真昼のホストっ! 燭台切光忠ともあろう者が、随分と初歩的な間違いをやらかしたもんだな。」


「お前らが悪い。」


 鶴丸国永、大倶利伽羅。両人からのダメ出しが、光忠と歌仙の胸を深く抉る。

 結局昨夜の内に乱と話す事は叶わず、今朝の朝食の席でも徹底的に避けられ、乱の隣に座を占めた三日月と小狐丸に牽制されて近付く事すらあたわずに。

 小夜の提案で、伊達組の他の2人に相談しようという事になり、今に至る。

 手土産は歌仙秘蔵の日本酒と、光忠の作った肴ひと揃いだ。


「前の主の事なんて、軽々しく振るモンじゃないぜ?

 刀剣関係を上手く回してくコツのひとつだ。

 よく考えてみろよ、一口に『前の主』と言っても、スタンスは色々だろ?

 宗三のように当人が生きてる内から一貫して魔王を嫌い、今川公に固執する者が居る。敗軍の将よと言われようが、宗三本人にとっちゃ今川公が至高の主だったのさ。

 そういう素直なのが居る一方で、長谷部のように、自分で散々悪し様に言ってるクセに、他人が一言一句同じように嘲弄すれば烈火の如く本気で怒り出す者も居る。

 一期一振は特に拘りは無いようだがな。秀吉だろうが家康だろうが、アイツは『どなたも大事なご主君で御座いました。』と芯から言える男だ。

 美点を探すのが上手い。褒めるのも。が、ある意味、主に一定以上の関心を抱かない無欲な男、とも言える。ソレを欠点と見る向きもあるだろう。

 蜻蛉切はある意味、真逆だな。アレは本田忠勝以外の『前の主』には興味がない。

 歌仙と小夜の『一番』は忠興公だろう?

 光忠の一番は政宗公だろうが、唯一ではないように見えるな。」


「え、そんな事ないよ、政宗公が一番で唯一だよっ?!」


「水戸頼房公。」


「・・・・・・。」


「結果だけ言えば、頼房公が伊達家から持ち出したから、数百年後の関東大震災で被災して焼身になった。させられた。伊達家で大倶利伽羅と居たかった。

 だから素直に慕う気にはなれないが、大事にしてくれた事には気付いてるし、多少の感謝もあるんだろ? 俺も色々な刀を見てきたが、焼身になって人を斬れなくなった刀を、武門の棟梁の一角が秘蔵し続けるって。相当だぜ?」


「・・・否定はしないよ。」


「こうして賢しらに他の刀剣連中を寸評してる俺にだって、色々あったさ。

 一番立場が安定したって意味なら、明治天皇だな。献上された時には、コレで大分、方々を転々とする可能性は低くなったなと安心したのを覚えてる。本人の人柄については、実の所欠片も覚えてないが。

 だが斬るという刀の本分を発揮出来たという意味なら、魔王信長だ。伊達家もバリバリの武門ではあったが、良くも悪くも、俺を『名刀』扱いで儀礼に使い過ぎた。実戦でガンガン使い倒してくれて良かったんだけどな。

 その辺り、信長は俺を実戦刀として見ていた。まぁ結局、長谷部同様部下に与えられちまったんだから、最上の、とは付けられん主だったが。

 よく『墓にまで同道させてくれたくらいだから、お前も安達貞泰が大好きだったんだろ?』というような事を訊かれるんだが・・・。

 正直、微妙だね。別に俺から頼んで入れてもらった訳じゃない。貞泰の性格自体はそれなりに気に入ってたが、ソレとコレとは別問題だ。

 今でも、静かで暗い場所は好きじゃない。

 その墓を暴いた北条貞時は、論外、と言いたい所なんだが。墓から出してくれた事には、礼を言わざるを得ない。不本意だが。墓を暴くような物欲人間だったが、見るべき程のものも持ち合わせていない極悪非道、という訳でもなかった。不本意だが。

 本当に、不本意なんだけどな。他の主とは見れなかった、興味深いモノが最も色々見れたのは、貞時と居た時だと言わざるを得ない。実に不本意だが。

 ちなみに信長が俺を与えた御牧と、最初の主だった平維茂の事はよく覚えてない。キャラが薄過ぎてな。

 穏やかと言えば、藤森神社での生活は穏やかだったな。

 俺はあそこの鎮守の森が好きでね。穏やかで、清浄で。付喪神の居場所としては、中々だった。散歩だの日向ぼっこだの、楽しんだもんだ。花冠の編み方を覚えたのもこの頃だな。樹木の精にじっくり教えてもらった。神事に使われるのも気分が良かった。

 だが俺は武具、刀の付喪だぜ?

 穏やか過ぎて暇で暇で、マジ心が先に死ぬかと思った。

 ま、俺の刃生なんぞこんなモンだ。総合して、今が一番、と言っていいだろう。昔馴染みのお前らと居れて、家は清浄で賑やかで、主はそれなりに善人で悪人で、俺は武具としての本領を発揮する事が出来ている。

 どうだ、つまらん刃生だろう?」


「いや・・・お鶴さんの人生経験の豊富さは、よく判ったよ・・・。

 流石レア太刀。」


「まぁ、そうへこむな。

 事ほど左様に、物の付喪神たる我らには、使い手というのは複雑怪奇で特別なモノなのさ。逸話を訊きたいのならば、少しずつ。外堀から埋めるべきだったな。

 名前ピンポイントで突撃するなんて論外だ。」


「へこむなとか言いつつその追い打ちっ!!」


「済まなかった・・・本当に反省しているよ、鶴丸国永。

 この謝罪を乱に直接伝えたい。だが三条が睨みを利かせていて、傍に寄れなくてね。拒絶が彼の望みでもあるのだろうし、迂闊に近付いてまた傷付けたくない。

 どうにか仲介して貰えないだろうか。

 古い付き合いの君の言葉になら、三条も耳を傾けてくれると思うんだ。」


「僕からもお願い、鶴丸国永。頼めるかな・・・?」


「承知した。

 コトがコトだ、いくら俺でも安請け合いは出来ない。だが君らと乱に話をさせるように、三条の連中に掛け合ってみよう。一期一振も巻き込んで・・・。

 そういえば光忠、君、一期一振には話したのか? 乱の長兄殿だろう?」


「それが・・・断られちゃって。筋的に一期一振さんが先だと思って、僕ら、お鶴さんより先に仲介をお願いしに行ったんだけど。

 乱君が口を閉ざした『前の主』の名前が、勝元公だって知った途端に顔色変えたんだ。

 そのまま青い顔で『私の口からは何も申せません。』て。『私自身、対応を間違えたまま、あの子にまだ許して貰えていないのです。』って。

 お鶴さんの名前を挙げたのは一期一振さんなんだ。僕らはまだ間に合う筈だから、僕らとも三条とも近い鶴丸殿に仲介をお願いしたら良いのではって。

 この件で、僕らより派手にやらかした事があるみたいだったけど・・・。

 お鶴さん、何か知ってる?」


「いや、知らん・・・こりゃ相当根深そうだな。」


「お鶴さんんんんんっ!!!」


「ええい、刀剣男士ともあろう者が、子供との喧嘩程度で泣くなっ!!」


「子供との喧嘩じゃないよ、絶対っ! 乱ちゃん、そういうトコ大人だもんっ! 僕らより大人だもんっ! 乱ちゃんの鮮やかな口の閉ざしっぷり、お鶴さんは見てないからっ!! アレ、絶対僕らが悪いって。僕らが無神経だったんだって・・・!!

 僕イヤだよ、このままもし、乱ちゃんが出陣先で折れたりなんかしたらっ! 僕が折れる時にも、この件が最大の心残りになるんだっ!!

 お願い、お鶴さんっ、僕何でもするから乱ちゃんの怒りを解いてっ?!

 一期一振さんがダメなら、薬研君でもダメだと思う。もうお鶴さんしか居ないんだ!」


「判った、判った。

 取り敢えず話をしてくるから、君らは内番に戻れ。話がややこしくなるから、くれぐれもフライングはしないように。」


「うんっ!」


「宜しく頼む。そもそも口火を切った僕が悪いんだ。」


「お願い、鶴丸国永・・・。」


「はいはい。」


 3人を追い出しながら、鶴丸は内心で顎を撫でる。

 何となく、本当に何となく。乱の感情は『怒り』とも違うように思うのだが。こればかりは、当人と話さない事にはどうにも判断が付けられぬ。この手の事に当て推量を持ち込むのは危険極まりない。今回は、下手をすれば三条すら敵に回しかねないのだ。

 軽く息を吐くと、鶴丸は三条部屋に足を向けた。


             ―Con―

【誇りの在処】弐

【誇りの在処】弐

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work