【誇りの在処】壱 乱中心・三条+細川+伊達+一期一振
ハローハロー、漆黒猫でございます。
アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。
【狐の牙を夜に研ぐ】、【白い日の紅】と同じ本丸。
ですが、こぎみだであってこぎみだなシーンも描写も御座いません。
何故だ・・・。
乱ちゃんに号を付けたのは細川勝元(細川宗家京兆家当主。忠興さまのご先祖)。
なのに、細川組を名乗らない理由。
ソレが書きたかったのだと思われ。
燭台切さん友情出演。
細かい事は言いますまい。薄暗い脳みそですよ、はい。
子供の虫歯対策をした方がよい訳
【誇りの在処】壱 乱中心・三条+細川+伊達+一期一振
乱藤四郎は『前の主』について話さない刀だった。
「おいでませ細川組・・・!!」
「いやだよ、何言ってんの歌仙さん。」
誘い文句を一言の許に斬って捨てられた歌仙は、ガックリと食卓の上に突っ伏した。
誘われた乱は呆れ顔で頬杖を突いている。
「なに、寂しいの? 小夜居るじゃん。小夜可愛いじゃん?」
「寂しくはないよ。あと小夜殿は可愛い。物凄く可愛いし、尊敬してる。自慢の同郷だ。」
「あなたたち2人共、何を言っているの。やめてよ。」
話題の短刀は恥ずかしそうに小さく呟くと、皿で顔を隠した・・・ガラス製なので、隠し切れずに模様から透けて見える。真っ赤に染まった顔色が。
光忠は苦笑した。
乱の趣味は『ガラス工芸』。中々に本格的で、主から板敷きの部屋をもらって機械を運び込み、工房化するレベルである。地道に誉を溜めたご褒美だ。カンストした暁には、もっと本格的な機械を買ってもらえるのだとか。
そこに目を付けたのが、歌仙だった。
雅を愛する彼は料理が上手だが、好きが高じて、最近は器にも拘りたくなったのだとか。四季折々、風流の機微を捉えた『当本丸ならでは』の食器が欲しい、と。
芸術人の誰もが達する終極『オリジナル』。
『夏用の涼しげな食器が欲しいって? ボクが作ってあげる。平皿、小鉢♪ お茶碗、湯呑み♪ 何でもござれってね♪♪』。
二つ返事で引き受けた乱と厨の番人2人、それに好奇心から小夜も。夕食後の今、皆の去った食卓で試作品のお披露目会と相成った訳だ。
小夜の小さな手は、色鮮やかな大皿を蝋燭の灯に透かして眺めている。その瞳は静かに輝いていた。
「すごく綺麗だ。」
「ありがとう、小夜。
実用性も重視したつもりだよ? ちゃんと食器用のガラスで作ってるしね。」
「面白いね。ちゃんと用途別に分かれてるんだ?」
「分かれてるよっ、酷いなぁ燭台切さん。
例えば窓に使うガラスは、発色は二の次。無色透明のまま使うし。それに割れた時に粉々になる。砂みたいにね。中に居る人に刺さらないように、安全重視だから。車の防弾ガラスとか、そもそも飛び散らないように工夫されたのもあるよ。
食器用は、また別なの。
まず発色重視でしょ? 見た目に綺麗だったり、盛り付けて料理が引き立つお皿じゃなくちゃね。透明感も大事。
頑丈さも大事だけど、実際に割れちゃった時の安全性も大事だよね。
コレね、割れても飛び散らないし、塊状に割れるガラスなの。砂みたいにはならないんだ。掃除もし易いし、怪我人も出にくいでしょ?
日本号さんや御手杵さんが乱暴に使ってもそんな簡単に割れないし、秋田や五虎退がうっかり手を滑らせても、そうそう手を切ったりもしない筈だよ。
ひとつ、割ってみせようか。」
「いやいやいや、実演しなくていいよ勿体ないっ!」
「え~? 勿体なくないのに。
ガラスのイイトコは、綺麗に洗って溶かせばまた使えるトコだよ、燭台切さん。色は混ざるけど。ソレはソレで面白い色になるし。」
「自分の作品が勿体ない、とは思わないんだね。乱ちゃん。」
「ボク、自分の作品への執着ってあんまり無いんだよね。後世に残したい的な? 手を加えられたくない的な、そういう執着。ひとつ作って満足したら、すぐ次っていう。作ってる間が一番楽しいタイプ。
実用品として作った物だしね。皆だって『割ったら乱がうるさいぜ。』って思いながらご飯食べたくないでしょ?」
「確かに・・・乱ちゃんて、意外と現実的なんだね。」
「どうだろ。意外とっていうなら、むしろ意外と前衛的なのかも。
ガラスの何が好きって、儚いトコなんだよね。割れにくい種類はあるにしても、基本割れるモノでしょ、ガラスって。
儚いけど、溶かせば使える。そういう意味では、凄く頑丈。
どんなに分厚くて存在感があっても、透明な限りは、光を通す。向こう側のありのままが見える。まるで存在しないみたいに。
キラキラして綺麗なのも、もちろん魅力的なんだけど。
主さんに工房貰っちゃう程のめり込んでるのは、その『二面性』かな、やっぱり。」
「聞いてはいけない事を聞いてしまったような・・・。」
「ナニ、ボクが作った物、使うの怖くなっちゃった?♪」
「怖くはないけど、やっぱり君も『細川』なんだなと思うよ。」
「乱。前から訊きたかったんだが。
君は『前の主』について話さないね。例えば号を授かった細川勝元公の事とか、足利将軍家の誰かとか、豊臣秀吉公の事とか。
足利では三日月殿と、秀吉公の許では兄上とご一緒だったのだろう? 人も刀も、どんな御仁がいらしたのか。是非とも聞きたいな。
一番聞きたいのは、忠興さまのご先祖である勝元公の話なんだが。」
「あ、それ僕も聞きたい♪
政宗公と同じで、すっごく多才な人だったんだよね? 料理が上手で一流の文化人、武道にも政治にも長けていたかと思えば、自ら医術書も著された程の研究人でもいらっしゃったとか。格好イイよね、憧れるよね♪
ねぇ、乱ちゃん・・乱ちゃん?」
「ん??」
「だから、勝元公の話・・・。」
「うん、食器の話ね。
全部耐熱ガラスで作ったから、加熱の事は気にしなくてイイよ。あとは3人で話し合って、後で教えてね。どれを量産したいかとか、更にどんなのが欲しいとか。
じゃぁ、ボクもう寝るから。
お休みなさい。」
「え・・あぁ、うん、おやすみ・・・。」
『・・・・・・・。』
「踏んだね。地雷。」
小鉢を撫でていた小夜が、ポツリと呟く。
否、グサリと、だ。
「や・・・やっちゃったよ歌仙さんっ!! 僕、ただ『前の主』トークで盛り上がりたかっただけなのにっ!!
別に今の主に不満があるとかじゃないよっ?!
たださ、たださっ、やっぱ懐かしいモノじゃないっ?! 不満が無いからこそ、落ち着いて回顧出来るってモノじゃないっ?! 前の主がどうとか、刀だからこそ出来る話じゃないっ?! 僕は割といつも政宗公政宗公言ってるから今更だけどっ。
乱ちゃん言わないからっ、聞いた事ないからっ、長谷部君みたいに恨み言すら言わないからっ!!
だから、そこんトコどうなのかなって、かなって・・・!!」
「落ち着け燭台切。
忠興さまのご先祖の話が聞きたかったのは、僕も同じだ。同罪だよ、僕らは。」
「僕も止めなかったし、聞きたかったから・・・同罪・・・。」
「歌仙君、小夜君・・・ずっ友・・・!!」
「取り敢えず、僕らに乱を傷つける意図はなかった。そこだけはちゃんと伝えないと。
彼にとって『前の主』が何なのか、何故口を閉ざし、地雷とするのか。推測する術はないが、『意図せず』傷つけてしまったのは確かだ。
ちゃんと謝罪して、以後、彼にこの話は振らない事。
そうするより他、道はないだろう。」
「うん、そうだねっ。
でも僕ら、謝罪するまでがハードル高いと思うんだっ!!」
「??」
「忘れたの、歌仙。乱には三条が付いてるんだ。
あの防御は・・・鉄壁だよ。」
「・・・乱を追おう、今すぐ、彼が三条部屋に入る前に・・・!!」
ガタガタッと、凡そ雅ではない騒音と共に歌仙が立ち上がる。出陣ですら見せない必死な、引き攣って土気色の、本当に酷い顔色だった。
短刀の機動は侮れない。今頃は既に三条の誰かの許だろう。何故か3人共、粟田口部屋に戻っているだろうとは考えなかった。
小夜は自分の掌に収めた、上品な小鉢に目を落とす。色合いが良いだけでなく、形も絶妙だ。人の手によく馴染むよう、考えられた形だ。独学だとは思えない・・・まるで遠い昔、誰かに師事したかのような。本丸に顕現するより、更に遥か昔に。
『彼』は他ならぬ『乱藤四郎』の名で付喪神と成り、目覚め、顕現した。
『乱藤四郎』が勝元を嫌っているとは思えない。長谷部が口では四の五の言いつつ、結局、魔王への崇拝を捨て切れないように。後は、何故その『好意』を隠すのか、という話だ。
「小夜君、ごめんっ! 後片付け宜しくっ!!」
「うん・・・いってらっしゃい。」
明日以降だな、この件の決着は。
そう悟った左文字の短刀は、嘆息して小鉢を食卓に戻した。
―CON―
【誇りの在処】壱 乱中心・三条+細川+伊達+一期一振