【白い日の紅】 小狐丸×乱、燭台切光忠+一期一振
ハローハロー、漆黒猫でございます。
アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。
【狐の牙を夜に研ぐ】の続きです。布教続行中・・・。
前作へのブクマ・閲覧ありがとうございます・・・!!
もう本当に・・・ドマイナーで、どなたの御目にも留まらない自己満足作品かと・・・!!
光栄至極にございます。
捏造設定→小狐丸が特異体質(満月の晩に小狐丸の小狐丸が暴走。)
ホワイトデーなんぞ当の昔に過ぎ去っておりますが、
ホワイトデーネタ。3月中ならギリセーフ。
エロは無いのでR-18タグは付けませんが、恋愛色は前面に出しているので、腐向けにしてあります。
小狐丸さんが、乱ちゃんにホワイトデーの贈り物を手作りする話。
みっちゃんに、シリアスな恋愛相談してます。
時間軸としては、【狐の牙を夜に研ぐ】の前。
乱ちゃんを大切に想うあまり、うだうだと難しく考えちゃう小狐丸さん。
いち兄が、2人の関係を静観する気になった理由、みたいな。
乱ちゃんのリボンと小狐丸さんの結い紐が同じだったら、漆黒猫が嬉しい。
【白い日の紅】 小狐丸×乱、燭台切光忠+一期一振
ホワイトデー。
この日を作った人は天才である。この日があってこそ、バレンタインデーの意義があり、この日こそが、バレンタインがチョコレート会社の陰謀では無い事を証明している。この日無くして、バレンタインは完結しない。
燭台切光忠は、本気でそう思う。
「燭台切。
ちと相談なのだが・・・『ほわいとでー』とやらには、どのような進物が相応しいのか。教授願いたいのだ。
平安生まれの私は詳しくなくてな。」
ホワイトデーには、貰った側の中の、贈った側の立ち位置が浮き彫りになる。
そう固く信じている光忠は、思わず口許を綻ばせた。
2月14日、小狐丸は乱からチョコレートを贈られた。
主の時代(2205年)でもバレンタインの習慣は脈々と受け継がれ、健在で、いくら友チョコだの義理チョコだの派生しても、結局の所この行事はアレなのだ。
恋慕を秘めた者たちが、誤魔化しも逃げ道もなくはっきりと意思表示する為の、口実の日。
『つ、疲れた、疲れた時にでもっ、食べて、ねっ?!
出陣や遠征のお供に、みたいなっ! みたいな・・・!!』
『お、おぅ・・?』
お供にも何もたった今出陣から戻ったばかりなのだがていうか凄い勢いだなをい。
恐らくコンセプトは『お出掛け帰りの彼を捕まえて、さりげなく、何でもない事のように渡す。』といった所なのだろうが。
見事なまでに不審な挙動で、頬を真っ赤に染めて小狐丸の手に押し付けると、乱は背中を向けて一目散に逃げていく。物陰から次郎が見守っていたようで、きゃいきゃいと黄色い声が聞こえてきた。
『おやおや、愛されているね、小狐丸。』
『ヤる事ヤってて今更ソレかって感じはするけどな。』
『はっはっは。愛いではないか。よきかな、よきかな♪』
石切丸、同田貫正国、三日月宗近。
三者三様の揶揄を受けて、固まっていた小狐丸の頭がようやく動き始める。
『・・・何かの記念日なのか、今日は。』
ちょー訊きにくい。
というカオの小狐丸に、全刀剣男士が固まった。その後、怒涛の勢いで『バレンタインとは何か』について、集中講義を受けたのは言うまでもない。小狐丸が最も堪えた呆れ文句は、正国の『自他共に認める戦バカの俺でも知ってる事を、よりによってアンタが知らないなんてな。』だった。然り。確かにその通りだ。地味にかなり傷付いた。
不自然な程、皆『ホワイトデーにお返しを遣れ。』とは言わなかった。
理由は判っている。
あぁ、判っているとも実によく。
(他人に言われて贈るようなモノではない、という事じゃろう?
いくら私が疎うても、その程度は心得とるわ。)
別段、小狐丸が朴念仁、という訳ではない・・・筈だ。何と言っても、夜這いこそが恋愛の始まりだった平安の生まれである。自身の色事についても、神刀だった石切丸より彼の守り刀であった自分の方が、濡れ場の場数は多いと自負している。
ただ、今まで『乱藤四郎』という短刀が、そういう対象ではなかっただけで。
真っ直ぐに自分を見上げて笑っている、乱の笑顔を思う。
(・・・私などの、何処が良いやら。)
既に一夜、『満月の夜』を共に過ごした。
満月以外の夜も。共にする毎に、心の距離が近くなるのを感じる。
だが、だからこそ。
今でも思っている。迷っている。次の満月には遠ざけた方が良いのではないかと。
『道具として使ってくれればいい。』、乱はあの晩、そう言った。
思える筈がない・・・道具は、あんな風に笑ったりしない。
道具に、こんなに心揺らされたりは。
「・・・なぁ、燭台切の。」
「諦めちゃダメだよ、小狐丸さん☆」
「・・・いやしかし、コレは流石に・・・。
洋菓子初挑戦でフォンダンショコラは、流石にハードルが高過ぎたというか何というか。」
「平気だって☆ ちょっと焦がしただけじゃないか☆
もうちょっと頑張ろう、ね?」
「・・・うぅ・・・。
食材を無駄にした事はぬしさまに申し訳が立たぬが、このような生ゴミ、乱の口に入れる訳にもいかぬ。ええぃ、ままよ・・いざ手入れ部屋へっ!!」
大袈裟に小さく叫ぶと、小狐丸は炭化した残骸を、一息に己が口へと放り込んだ。
苦い、マズいと顔をしかめる三条に、光忠はクスクスと笑って水を渡す。
小狐丸が顕現して、2か月足らず。今まで親しく話す機会が無かったが、中々どうして、この狐は面白い。そのレア度や生まれの古さ・高貴さと相俟って、神々しさというか、近付き難いモノを感じていたのだ。そのような逡巡さえ、勿体ない事をしたと思う。
主には忠実だし、仲間に対しても物腰が穏やかだ。礼も知っていれば、気も遣ってくれる。食材を無碍に扱うような傲慢さが無いのは、厨の番人としては高得点でもある。
そこまで考えて、光忠は今度は自分に苦笑した。
完全に、思考が『妹の彼氏を値踏みするお兄ちゃん』だ。
「正直、ちょっと・・・かなり、心配してたんだけど。
安心した、かな。」
「・・・・。
なれば、私も正直に申そうか。」
頭の回転も速い狐だ。彼の真剣なカオは、光忠にとっても悪くない。
「人の身を得、感情を得て日が浅い事もあろうが・・・。
正直、乱への『この感情』が正しく色恋のソレか、今の私は判じかねておる。
特別誂えの進物を、私にだけくれれば嬉しいし、その菓子を他の者に譲る気にはならん。私にだけコロコロと表情を変えてくれる様は、素直に可愛い。もっと近くに行けば、もっと愛い姿が見られるのか、などと埒も無い事を考える。
乱からの『特別扱い』を、もっと受けたいとも。
出陣から怪我なく戻れば安堵するし、誉を取れば、我が事のように誇らしい。いつか共に遠征に出て、戦場以外の風景も見に行きたい。
本能に抗えなかった、あさましい姿を見せてしまっているからな。アレ以上恥ずかしい姿もそうはあるまい。そういう意味では、飾る必要が・・・飾りようがなくてラクだ。良くも悪くもな。
おい、燭台切の。
私は乱について話しているだけなんだが、何故おぬしの頭に誉れ桜が舞っている?」
「いやいやいや・・・なんていうか、聞いてて恥ずかしくなったっていうかウン。
まぁ杞憂だったのは安心したけどもっ。
恋愛感情か判らないとか言って、ソレどう考えても『好き』でしょ。
乱ちゃんの事、好きでしょ? 大事でしょ?」
「『好き』で『大事』。
ソレは初見から変わりはせん。」
「そうなんだ、変わらないんだ?」
「ただ、ソレが『友愛』だの『敬愛』だのとどう違うのか・・・。
線引きが解らんのよ。
おぬしには解るか、燭台切の。」
「んんっ、まぁ、心理学上は、友愛と性愛って違わないとも聞くからなぁ・・・。
あとは・・・解釈次第じゃないのかい?」
「・・・乱は、私に『性欲処理の道具として使えばイイ。』と言った。
ぬしさまが我ら刀剣男士を、戦事の道具として使うように。私が乱を使えば良いと。
だが、私は乱をそのように思えぬし、思えるようになりたいとも思わぬ。
笑っていて欲しいと思うし、出来得るならば、私が笑顔にしてやりたいと思う。他の誰でもなく、私がな。与えてもらった分、与え返したいとも。
それに、な。
特異体質者の番(つがい)になった者は、時に、特異体質者当人よりも嘲弄の対象になり易いとも聞き及ぶ。その辺りも私が気を配らねば。ぬしさまや長兄殿ではなく、私が。
私のせいで乱が不利益を被るような仕儀には、させとうないのだ。
燭台切よ。
次の満月には独り寝を頑張ってみようと思うんだが、どう思う?」
「えぇっ?!
ソレを今、僕に訊くのっ?! この流れで、乱ちゃんじゃなくて僕にっ?!」
「乱本人に訊ける訳なかろうっ!
アレは全て解っていて、私が自分を抱くように謀った男だぞっ?! それこそ上目遣いでも何でも使って、私が否と言えない状況を作り出すに決まっておるわっ!!
私は乱以外の、乱と私の身内以外の、乱を大事に思っている者からっ!!
現実的な意見を聞きたいのだ。」
「現実的ねぇ・・・。
君の体質そのものが、既に非現実的なんだけど。」
「地味に傷付いたぞ、今。」
「一期一振さんなら、黒い笑顔で『弟に指一本触れるなエロ狐♪』とか言うのかも知れないけど。あるいは無言でお覚悟されたりとか?
僕はね、色恋っていうのは、色んなパターンがあってイイと思うんだよ。
難しく考えなくていいんじゃないかな?
訊いてる限りじゃ、恋愛感情以外の何物でも無い気がするし。すっっっっっごい無自覚なだけで。『乱を守ってやらねば』って台詞が聞けた時点で、僕は安心したよ。
ソコさえ押さえててくれたら、他がいくら無自覚でも、君たちは大丈夫だと思う。」
「次の満月は、」
「好きにすればいいと思う。
ていうか、『乱ちゃんの』好きにさせてあげれば上手くいくと思う、君たちの仲は、色々と。乱ちゃんの方が、色々と自覚して解ってるみたいだから。
ていうか、小狐丸さんてさ、・・・、」
「?? 燭台切?」
「・・・いや、やっぱりいいや、何でもない。
これ言うと、余計に拗らせちゃいそうだし。」
「気になるではないかっ!」
「いーのっ、恋愛初級者には早過ぎるのっ!
ほら、材料尽きたから買ってきてっ! 万屋にはもう1人で行けるよね? 主くんには僕から伝えておくからさ。」
「フォンダンショコラは来年向けに、じっくり取り組もうかと」
「絶対に会得してもらいます。」
「しょ、承知したっ。」
光忠から掛けられた笑顔の圧に、小狐丸は泣きながら、それでも素直に財布を取りに部屋に向かう。その後ろ姿の素直な事、懸命な事。
来年。という言葉を、かの狐は使った。
つまり小狐丸は、乱との事を、それだけ長いスパンで考えている訳だ。一時の遊びや性欲処理の相手ではなく、本格的な付き合いとして。
「許してあげたら?
長兄殿。」
「・・・・・・。」
ていうか今、何処から出て来たんだこのヒト。
薄暗がりからスッと姿を見せた一期一振の、手には本体、口許には吐血の痕。真っ白い顔色に、笑顔にだけは常のロイヤルさが漂っているのが怖ろしい。
きっと今の彼の血管には、黒い血が流れている。そんなカオだ。
気持ちは判る。光忠に弟は居ないが、大事にしている相手は居るのだから。
例えば大倶利伽羅が、傍目に爛れて見える恋愛をしていたとしたら。しかも『利用される側』だったら。平静では居られないだろう。大事な親友に何をするかと、本体片手に相手の許へ怒鳴り込みに行くかも知れない。
乱とて、妹のような存在なのだ。
だが幸か不幸か、今の光忠は限りなく第三者の立ち位置だ。ならば、懸け橋になるのが天意かとも思う。
微苦笑を纏った唇から、結局、出て来たのは中立の言葉だった。
「あのヒトきっと、本気の恋愛、した事ないんじゃないかな。
『本気未満』の経験だけは、色々と豊富そうだけど・・・。
乱ちゃんが初めてなんだろうね、本気で好きになったの。色々と無自覚なのは、そのせいなんだと思う。出自も良いし、武力も高い。まぁ、顕現したてでレベルが低いのは如何ともし難いけど、太刀だしね。短刀の乱ちゃんとは相性がイイと思うよ。
乱ちゃんは良い相手を選んだと思うけど。」
「・・・乱が、選んだ・・・。」
「そうそう。乱ちゃんが自分で選んだ相手。乱ちゃんの意思、一番大事。
長兄の教育の賜物だよね。流石一期一振、刀剣男士一のお兄ちゃん♪ 日頃の躾が良いと、パートナーの選び方まで自然と上手になるんだね☆」
「そ、そのような世辞で、騙される私ではございませんぞっ。
ですが、乱の幸福は確かに大事。あの子の願いが端緒である事も、また確か。小狐丸殿の事は、しばらく監視、もとい、見守る事と致しますっ。
燭台切光忠殿。
乱が泣いていたら、すぐにお知らせ下さいますよう、お願い申し上げる。」
「オーケイ、任せて♪」
チョロい、とは思うまい。
要点がはっきりしている、という事だ。その要点に、徹底的に拘り抜く覚悟も。守るべきは粟田口の体面ではなく、弟の幸福。
一期一振の兄弟愛が、光忠は好きだった。見ていて微笑ましい。
「チョコ系は材料尽きちゃったし、生クリーム系食べたいな。
今日のおやつ、イチゴのショートケーキにしてあげる♪」
「・・・あの御仁、本当に材料全て使い尽くしたのですね・・・。」
「不器用なのに、質には拘るんだよねぇ。
半端なモノは、乱ちゃんに食べさせたくないんだって。主くんにインターネットの使い方から教えてもらって、クックパッドでフォンダンショコラ見つけて、コレが作りたいって譲らないんだもの。
そんな難しいお菓子じゃないんだけどね。何せ不器用だから。」
「・・・・・・・。」
「今、健気の気配を察知した?♪」
「そのように簡単に、絆されたりなど致しませんっ。」
真っ赤に染まった頬を隠すように、背を向けて厨を出て行く一期一振。
その後ろ姿はやはり乱に似ていて、光忠は微笑を深くした。
後日。
小狐丸が悪戦苦闘していたのと同じ厨に、今度は乱が顔を出した。
「見て見て、燭台切さん♪ 小狐丸がボクにって♪
内番の時に付けるんだ♪♪♪」
「うん、可愛いね。」
「ふふふっ♪」
乱のストロベリーブロンドを結んでいたのは、綺麗な紅のリボン。
あ、コレ小狐丸さんとお揃いだ。
すぐに気付いたが、敢えて指摘しない方がイイ気がした。
「あとね、フォンダンショコラ、美味しかった。
燭台切さんが指導してくれたんでしょう? 小狐丸、すっごく感謝してたよ? ホントにね、すっごくすっごく美味しかったんだ♪
小狐丸、不器用なのに手間かかるお菓子作ってくれて。すごく嬉しかった。」
「ハンドミキサー、初めて使ったって。」
「やっぱり? 嬉しいな。小狐丸の中で、ボクは『それだけの手間に値する存在』なんだって。そう思っててもいいんだよね?」
「勿論。」
「ふふふ♪ 嬉しいな♪ お菓子と贈り物で浮かれちゃうなんて、ボクって単純☆」
「乱ちゃんが思うより、小狐丸さんは乱ちゃんの事、大好きだと思うよ?」
「うん。だったらいいな・・・嬉しいな。」
嬉しい、と。
乱は何度も口にした。泣きそうな笑顔で。
光忠は思う。
ホワイトデーは必須だ。ホワイトデーこそ、必須だ。バレンタインに勇気を奮った精鋭たちが、報われるべき日なのだから。突撃される栄誉を得た者たちは、明確な解を与える義務がある筈だ。
小狐丸という刀剣が、ソレが出来る者で良かったと思う。
「乱。」
「小狐丸が呼んでる♪
またね、燭台切さん☆」
内番に行くのだろう、迎えに来た小狐丸の、乱を見る目は柔らかい。
光忠は笑って2人を見送った。
―FIN―
【白い日の紅】 小狐丸×乱、燭台切光忠+一期一振