【爪紅、時々、戦】 加州清光+三日月宗近+小狐丸

ハローハロー、漆黒猫でございます。

アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。

前作までとは、全く別の本丸、全く別の審神者さん。
女審神者・・というか、幼女審神者? 三日月爺様のお膝の上で、殆ど寝てますが。

初期刀・清光と三日月さまが、ネイル塗りながらお喋りしてるようです。
・・・今は『マニキュア』じゃなく『ネイル』って言うのか・・・そうか・・・。

この『加州清光』は、陸奥守のお茶に雑巾は絞りません♪♪
愛されるより愛したい、父性愛に目覚めちゃった系加州清光。

歴史修正主義者との戦についてのお喋り。
ゲームの展開的なメタ発言は置いといて、世界観的には、『こういう』事かと。

誰だってね、やり直したい事がいっぱいあるんだよ・・・。
腹ぁ括って、前向くしか無いんだよ・・・。

否が応でも審神者で居続けるしかない幼主の為に、腹括ってる加州清光の話。

【爪紅、時々、戦】 加州清光+三日月宗近+小狐丸


 風鈴の音が好きだった。

 あの、風次第でいつ鳴るとも知れぬ、鳴ったとして、か細く儚げで曖昧な、高い音が。

 好きだと。


「ぬしさま、兄上。

 此処におられたか。」


 夏の縁側で昼寝する主と、膝枕を提供する三日月宗近。

 見つけて寄ってきた小狐丸は、10にも満たぬ童の寝顔に微笑を、近侍を務める兄に羨望の苦笑を、同時に浮かべて自身も座り込んだ。

 宗近の背中に、兄より少しだけ大きい自身の背を合わせ、預ける。


「如何致した、小狐よ。

 そなたもこの兄に甘えたいのか?」


「兄上ばかりぬしさまに構(かも)うて頂いてズルい。

 なれば兄上が弟を構うて下され。」


「ふふふ、善哉、善哉。

 弟の『つん』を溶かすとは。夏の暑さも、中々良き働きをするものよ。」


「言うておれ。」


 風鈴の音を愛でる主は、夏はいつも、この音を聞きながら昼寝をする。何か思い出があるのであろうが。

 生家の事は話さない主だった。

 齢8つ、成人の早い平安の昔でも、童と呼ばれた年齢だ。自ら武の道を以って任じるには、凡そ早過ぎる年齢で政府はこの幼な子を戦線に投入した。

 理屈は、判らなくもない。

 今は目の前の使命をこなすのに精一杯でも、いつかは、他愛のない四方山話が出来るようになりたい。そういう余裕を持てるように、支えて差し上げたい。

 プライドの高さで有名な三条の兄弟にすら、そう思わせる将器なのだから。

 年の割にしっかりし過ぎていて、余程厳しく念入りな英才教育を施されたのだろう、と。そういう同情も多少、あるのかも知れない。

 『臣下』にそんな憐憫を掛けられていると知ったら、機嫌を損ねる事が容易に察せられる。そんな『主君』だった。


「あ~るじ♪ やっぱココに居たね♪」


「・・か、しゅうか。いかがいたした。」


「ううん、何でもないよ、主。寝てな?」


「ん・・・。」


 庭から探しに来た清光は、天下五剣の膝で眠る幼君の寝顔を、飽きずに眺めている。縁側に横座って影を作り、紅い瞳を細めて、愛おしそうに。

 ヤンデレとも情緒不安定とも、まるで縁遠い、慈愛に満ちたその表情。


「熱いのぅ、新選組の。」


「暑いねぇ、三条の。

 この暑さも楽しんでよね、お2人さん。春だけでイイトコを、春夏秋冬、4つの景趣全部揃えたのは、楽しむ為なんだからさ。」


「なに、景趣が選べるなどと、初耳だぞっ?

 ならば加州よ、春だけで良いではないか。正直暑くて敵わん、毛艶が褪せるのだ。」


「ダメっ。

 春夏秋冬の気温差に体を馴染ませるのも、人の子にとっては、強い体を作るのに必要な事なんだから。主が虚弱体質になってもイイの?」


「うっ、良くは無いが・・・。」


「暑いなら水遊びしてくればいいじゃん。

 向こうの滝で、陸奥守と山伏が遊んでる。短刀たち居ないし、全裸で大丈夫。混ぜてもらえば?」


「そうする。」


 余程辟易していたのだろう、小狐丸は素足のまま庭に出ると、そのまま庭の奥へ消えていった。

 残された宗近は、おっとり穏やかに笑んで清光を見つめている。


「加州や、主に何か用事だったのではないか?」


「大した事じゃないんだ、三日月。

 政府から定例総会の案内が1通。返信不要。いつもの審神者仲間から、演練の申し込みが3件。顔馴染みだし、日もあるから急がない。

 と、ネイルの新色買ったから、主に塗ってあげようと思って。」


 懐から取り出したのは、可愛らしい若草色。

 常に凛とした主君にはそぐわないように思うが、そういえば確かに、私室に一番多い色は緑だった気がする。それも明るく、黄色に近いレモングリーンだ。

 彼女は本当は、そういう色が好きなのかも知れない。

 覚えておこう、と、宗近は清光が選んだネイルの色を瞳に焼き付けた。


「良き色よな。萌え出たばかりの、若葉の色だ。」


「でしょ? この色、絶対主に似合うと思うんだよね~♪

 今日の近侍、アンタだって知ってたからさ。アンタにも塗ってやろうと思って、似合いそうな色を持って来たんだけど。どう? 試してみない?」


「面白い。

 折角得た肉の器よ、今様の洒落も試させてもらおうか。」


「おっ、じゃぁ早速、ベースからね♪」


 開けられた透明な瓶の蓋に、小さく『爪を強くする』的な文言が書いてあるのを目敏く見つけた宗近は、小さく微笑んだ。

 ウチの『加州清光』はいじらしいやら、健気やら。


「そなたはまこと、主の保護者の如きよな。

 我らも仰ぎ見てはいるが、そなたはまた格別、父か兄の如きよ。微笑ましい。」


「・・・三日月さぁ。この戦、終わると思う?」


「何だ、急に。言葉遊びか?」


「言葉遊びじゃないよ、ジイサン。そのままの意味さ。

 歴史修正主義者。時間遡行軍。勝敗の行方の話じゃない。そもそも、終わるかどうかの話だ。」


「・・・・・・・。」


 清光の声音は穏やかだ。特段に思い詰めているようでもなく、膝上の主に遠慮して小声になるでもない。宗近の指先に触れる彼の手は、余計な気負いなど一寸も纏っていない。

 本当に、淡々と。天気の話でもするような声で、言葉を紡ぐ。


「終わりゃしないさ。

 敵の正体云々以前に、俺はこう思うんだ。

 どんな平凡で些末な奴にでも、偉人だ英雄だと褒め称えられる奴にだって。『やり直したい選択』っては必ず在る。

 実際問題、時間遡行なんて無理だから。だから『仕方ない、明日の朝メシ何にしよう?』って頭切り替えてるだけなんだ。

 でももし、ソレが出来るのなら。

 俺たちでさえ、無念の地に行けば、やり直したいと心が揺れる。今の主への忠誠心と目的意識で踏み止まってるけど、ソレが無ければ好き勝手やる奴は当然、出て来るだろう。

 踏み止まれなくて好き勝手やり始めたのが、歴史修正主義者。

 『時渡り』の技術さえ、確立されているのなら。

 誘惑に勝てない奴は、これからも出て来るよ。たとえ今この瞬間敵を全滅させたとしても、新しい奴が、新しい組織で時間を渡って、『やり直し』をしたがる。

 『誰かがやると思ってた。』『全裸待機して待ってました♪』のシリアス悪バージョンさ。

 この戦争、勝利はあっても終戦はない。

 俺たちは分霊(わけみたま)だ。戦に倦んだら、疲れたら、勝手に折れて、本霊(もとすだま)に帰ればいい。

 でも主は・・・審神者は、そうはいかない。

 この本丸から、本当の意味で出る事は二度とない。」


「故にそなたは、我らが主の父兄となったか。

 この幼き人の子の、心を守る為に。」


「大袈裟に言えば、ね。やってる事はそう大層なモンじゃないけど。」


「長谷部が愚痴を零していたぞ。

 加州清光は、公の場以外で我らが主に膝をつかない。不敬では、と。」


「長谷部はソレでいいんだよ、忠臣だから。

 でも俺はダメ。『保護者』に毎日跪かれてたら、主の人格が歪んじゃうだろう? だから俺は、座椅子にも日傘にもなるけど膝はつかない。主が成人するまではね。

 幼主の初期刀は、幼主を真っ当な人間にするまでが役目なんだから。」


「仕事か?」


「権利か義務か、って話なら、権利だよ。とても楽しい権利だ。

 使わない、なんて有り得ないね。」


「流石に初期刀、と言ったところか。

 陸奥守が顕現した時、新選組との仲を取り持ったな。アレも『初期刀だから』か?」


「まぁね。俺も思うトコが無い訳じゃないけど。アイツに会ったらそうしようと、最初から決めてたし。初鍛刀じゃなかっただけマシでしょ。

 ただでさえ、俺は保護者なんだから。ましてや自分の好悪の感情を主君に押し付けるなんてね。奸臣のする事だよ。」


「長谷部が初期刀に選ばれなかった理由が、判った気がするぞ。

 アレは奸臣ではないが、融通が利かぬ。」


「長谷部に初期刀は無理でしょ。

 有能だけど、有能過ぎて何でもこなしちゃうんだもん。アイツの中で完結するばっかりで、アレを初期刀に選んだ審神者は10年経っても仕事なんて覚えないよ。

 幼主を任せたりなんかしたら、確っ実、脳ミソお花畑のダメ人間が出来上がる。日本語を喋れるかどうかも怪しいモンだ。」


「ハッハッハッ♪ 手厳しいな。」


「はい、出来た。

 どう? 少し地味だったかな。」


「いやいや、コレは中々、美しい。気に入ったぞ。」


「良かった♪

 服より少し暗めの群青を選んだんだ。アンタの白い肌にも映えるだろう? ゴールドでラインを・・金色で曲線を入れれば、華やかになる。三日月っぽくも見えるしね。

 単色に差し色だけでも、結構カワイイだろ?」


「うむ。早速他の連中にも見せて来よう。

 主の身柄、預けても良いか?」


「判った。任せてよ、三日月。」


 まずは水遊びに興じている連中が標的らしい。ウキウキと滝の方へと消えていく宗近を手を振って見送る。

 お洒落した時の非日常感は、年齢に関係なく良いモノだ。

 自分の膝で引き続き眠る主君の、あどけない呼吸が愛おしい。


「可愛いモノも、綺麗なモノも。汚いモノも、怖いモノも。

 たくさん、目一杯、皆で見に行こうね、主♪」


 『綺麗なモノもそうじゃないモノも、包み隠さず見せてくれそうだから。』。

 だから清光を初期刀に選んだと、大人連中の居ない所でこっそり打ち明けられて、清光は『この主となら上手くやっていける。』と確信したのだ。初期刀だって、主との相性は相応に気にする。拒否権は無いにしても。

 眠っている内にネイルを完成させたりはしない。

 会話しながら作り上げていくのが、楽しいのだから。

 幼主の本丸は、今日も平和だった。



                ―FIN―

【爪紅、時々、戦】 加州清光+三日月宗近+小狐丸

【爪紅、時々、戦】 加州清光+三日月宗近+小狐丸

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-05

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