【君の為に花束を】 蜂さに+浦島虎徹

ハローハロー、漆黒猫でございます。

アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。

前作までとは、全く別の本丸、全く別の審神者さん。

・・・タイトル詐欺と言われそうな中身ですが・・・。
ほのぼのカワイイ系の中身を連想させておきながら、
闇墜ち表現注意・審神者死亡注意。

『メンタル豆腐な弱い審神者さん』が書きたいなっと。

花ばっか育ててないで戦績上げんかいっ!! って政府に強く叱り飛ばされちゃった
くらいでヘタる系女審神者。

そして、そんな彼女の弱さをちゃんと知りつつ、
頑張っていた努力家で健気な審神者さんに惚れていた系蜂須賀虎徹。

そんな蜂さにがあってもイイ(遠い目)。

【君の為に花束を】 蜂さに+浦島虎徹


 花が好きなヒトだった。


「主。」


 決して、心の強い人間ではなかった。

 打ち続く戦禍に、刀剣たちの血の匂いに怯え、霊力だけは一人前だからと前線に送られた事を嘆いていた。

 精神力や生命力といったモノには、確かに欠けていたのだろう。


「花が咲いたよ、主。」


 だが、立ち向かおうとしていた事もまた、確かだった。

 重傷の刀剣を手ずから手入れ部屋に運び、中傷や軽傷でも包帯を巻いてくれた。泣きながら。知りたくも無かったであろう戦略や戦術の講義も、刀剣たちに進んで請うた。

 短刀たちを慈しみ、大人の刀たちと茶を飲み、交流してくれた。


「君が好きな黄色が、一番に咲いたんだ。

 主。」


 園芸に心の平安を見出していた。

 『逃げ込んだ』のではない。『心の均衡を保っていた』のだ。

 咲かせた花々を、本丸中に飾ってくれた。戦帰りの刀剣の為に、玄関に。酒の席を華やかにと、宴席に。食べられる花は、食膳の具にも。

 欲しいと言えば、イヤな顔もせず嬉しそうに手折って個室に飾らせてくれた。

 認めよう。主は、確かに『弱者』だった。人としても、将としても。


「主・・・。」


 だが、『弱い事』は罪なのか。

 守るに値しない、糾弾すべき罪悪か。邪悪であるなら断罪すべきだ。暗愚であるなら教育すべきだ。だが、主はそのどちらでもなかった。

 『弱い事』そのものが罪悪であるならば、霊力すら持たない現世の人間、大半が死罪になるべきではないか?

 主が、そうなった・・・そうさせられた、ように。


「・・・弱い、のは・・・誰だろうね、主・・・。」


 今、蜂須賀虎徹の前に、主が横たわっている。

 早朝の冷たい土の上に、心の臓の真上に園芸用の断ち鋏を突き立てて。

 弱くて、儚いヒトだった。生きるのに縋りつくモノが必要だった。

 逆に言えば、ソレさえあれば頑張れたのに。生きられたのに。

 政府が、彼女に禁じさえ、しなければ。


「・・・・。

 ―――――っっ!!!」


    ザッ!!


 何事も無いかのように風に揺れる、彼女が愛した黄色い花。

 不意に許せなくなって、蜂須賀は自分の本体で斬り飛ばした。光の結晶のような花びらが虚空に舞い、散っていく。

 彼女の髪に葉の切れ端が舞い落ちたのを見て、慌てて膝をつき、丁寧に払い落す。

 冷たい頬に触れた途端、蜂須賀の体までもが凍り付いた。

 そこが、正気の限界。


「蜂須賀兄ちゃんっ?!

 それ、」


 花の水遣りに来たのだろう、愛弟の声に、蜂須賀はユラリと立ち上がった。

 一見しただけで、状況を把握したのだろう。言葉を失い立ち尽くす、聡明な弟。大切な、大好きな、自慢の弟。会えた時は、本当に嬉しかった。彼女が会わせてくれた。彼女が与えてくれた口で沢山話し、彼女が与えてくれた体で、沢山遊び、共に戦った。

 全て、彼女の為に。


「おはよう、浦島・・・。」


「・・っ、に、いちゃ、・・っ、」


「これより先、兄は長曽祢ひとりと思え。

 贋作だが・・・お前を守れる男だ。」


 こんな形で、あの贋作を・・・彼を、兄と呼びたくはなかった。もっと早く、もっと別の形で、素直に呼んでおけばよかった。一度くらい。


「蜂須賀兄ちゃんはっ?! 兄ちゃんは何処に行くんだよ!

 お、置いて行かないで・・・!!」


「・・・済まないな、浦島。

 赦せないんだよ。彼女を殺した政府も、支えになれなかった、俺自身も。

 俺が、初期刀。彼女の、初期刀・・・それが誇りだったのに。」


 体が、心が、黒く染まっていくのが解る。内側から。

 それは冷たい炎に焼き殺されるような感覚だったが、同時に光輝く安寧に満たされるような感覚でもあった。

 そうだ、政府に行こう。


「済まない、浦島。」


 勝てないのも、勝つべきではないのも、全て解っている。コレがどんなに無意味な行動か。否、どうせ彼女を喪った瞬間から、『蜂須賀虎徹』という刀には、存在意義など消失しているのだ。今更『無意味』を重ねたところで、どんな不都合があろう。

 物言わぬ彼女の体を、緩慢に抱き上げる。

 姫抱きにして、ギュッと抱き締める。

 彼女は応えない。当たり前だ。もう、彼女は此処に居ないのだから。

 それでも、抜け殻と判っていても、置いて行けなかった。


「済まない、浦島・・・。」


 重ねて詫びる。足に力を込める。

 弱くて儚くて、愛しい俺の主。

 君の為に、闇と血の花束を持って逝こう。



                    ―FIN―

【君の為に花束を】 蜂さに+浦島虎徹

【君の為に花束を】 蜂さに+浦島虎徹

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-05

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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