【音を捧げる】 へしさに+鶴丸
ハローハロー、漆黒猫でございます。
アテンション→アテンション→漆黒猫は刀剣乱舞、未プレイ民。
前作とは、更に別の審神者さん。
へし切り長谷部は、『戦闘家』ではなく『戦闘狂』。
たぬきにとって、『戦』は刀としての存在意義そのものっていう感じですが。
長谷部にとって、『戦』は主君への愛情表現の一環、という感じ。
似ているようで、そこらへん、深く話すと相容れない部分が浮き彫りになってしまいそうな2人。
付喪神×付喪神に見えて、さりげなく転生ネタ?
夫婦刀って響き、好きです。
【音を捧げる】 へしさに+鶴丸
彼女はピアニストだった。
審神者として政府に見出される前、現世でピアノの弾き語りをするアーティストとして、名声を博していたらしい。
だが、穏やかな人だった。
芸術家にありがちな不安定さの無い、優しくて、包容力のある、お茶目な女性だった。
「君の演奏を聴いたぜ、姫。
現世の映像記録装置は凄いな。君の『ふぁん』が、いんたーねっとに宴の映像を載せてたのを見たんだが・・・いやぁ、驚いた。綺麗に残せるモンなんだな。」
「ふふふ、本当に見てくれたのね、ありがとう、鶴丸殿。
それで、どうだったかしら。何かお気に召した曲はあって?」
「『自分が綺麗とは言ってくれないのか。』とは言わない所が、いかにも君らしいな。
綺璃姫(きりひめ)。」
「私は女優ではないもの。音で勝負する芸術家よ?
両の手さえ動けば、たとえ全身に火傷痕が残ってもピアノに向かうわ。」
書類仕事の合間、束の間の休息に青空に手を伸ばす。
縁側の温もりの中で雑談する、この時間が鶴丸は一番好きだった。時に他人を驚かせるよりも・・・この主のならば、近侍という仕事も悪くない。
たとえその横顔が、鶴丸ではない何処かの誰かを見ていたとしても。
「どの曲も美しかったな。
だが姫、ひとつ訊かせて欲しい。」
「??」
「君は一体、あの音を誰の為に奏でていたんだい?」
「・・・・・・。」
「何万人の観衆の前で弾いていても、顕彰された授賞の場でも、鎮魂祭の供物として奏でていてさえ。
君の音楽は、その一音に至るまでが、たった一人の誰かの為の音のように聴こえたぜ?
家族や友人、そんな近しく目の前に居る人間じゃない。何処か遠くの、見果てぬ場に居る人間の顔を思い浮かべているような。君のは、そんな音だ。
どうしたらそんな音が出せるのか。俺はソコに一番興味が湧いたんだがね。」
「・・・驚いた。そこまで具体的に言い当てられたのは初めてよ?」
「どうだ、驚いたろう♪
それで? 相手はどんな男なんだ?」
「言っておくけれど、生身の男性、という訳ではないのよ?」
「??」
「何と言ったら良いのかしら・・・。
物心ついた時からね、漠然と、こう・・・イメージがあるのよ。朧な印象と言ったら良いのかしら。顔はよく見えないのだけど、20代半ばくらいの男の人で・・・私はその人がとても・・・とっっっっても、大好きで。
でも、顔も名前も、思い出せないの。
それでも覚えている事はあって・・・その人が、音楽が好きらしい、っていう印象があって・・・それで、ね。
何処かに居るかも知れない、まぁ居ないのかも知れないし、これから生まれる人なのかも知れないけど。
暫定『何処かに居るかも知れない』その人に、届けばいいなって。その人だけが聴いて喜んでくれれば、他の人には別に評価されなくてもいいやって。
そう思って、弾いて、歌ってたの。
私の音を聴いた時、『その人』が幸せでありますようにって、祈りながらね。
鶴丸殿が言い当てた通り、私の音は、全て『その人』の為のモノよ?」
「おっ、大層な惚気だな。」
「所詮、実在しない人が相手だから。いくら惚気てもタダだし。
今まで誰にも話した事、なかったの。『その男は何処に住んでる誰サンだ?』って訊かれても答えられないし・・・脳内恋人? って狂人扱いされるのがオチだから。
この本丸の刀剣男士たちなら平気だろうけど、他の本丸の人には言わないでね、鶴丸殿。」
「心得た。」
「君たち、またこんなトコでサボって。
お茶菓子あげないよ?」
「ごめんなさいね、歌仙殿。
あぁ、鶴丸殿は先にお使いに行って来て頂戴な。万屋に注文したお品を引き取りに。
お茶菓子はちゃんと取っておくから。」
「分かった、引き受けよう。」
上機嫌で縁側を去った鶴丸は、さりげなく建物の影、裏庭に回った。
影供のつもりが丸っきり話を拾ってしまった男へ、ニヤニヤしながら声を掛ける。
「風下で良かったなぁ、色男。
風上だったら今頃、誉れ桜の嵐で庭中が真っピンクだぜ。」
「・・・このクソジジイ、綺璃姫の・・が俺だと、薄々解っていて聞かせたろう?」
「さてさて、何の事やら♪
言ってやればいいのに。
『お前の前世は『天尽綺璃姫(てんじんきりひめ)』って刀に宿っていた剣精で、魔王の正室・濃姫の所有だった。魔王の愛刀だった俺とは、『夫婦刀』として隣に並んでいた事もあった。』って。一期一振と三日月宗近みたいにさ。『俺が黒田家に下賜されるまで、中々に良い仲だったんだぞ。』ってな。
俺も織田時代に仲良くしてもらったが。
瑠璃色の刀身そのままの、深い蒼の瞳。
あの頃の美しい瞳は、ヒトに転生しても変わらなかった。お前だって、今でも心惹かれているんだろう?」
「―――世迷言も大概にしろ、鶴丸国永っ!
とっとと万屋に行って来い!!」
「いや~、勿体ない。実に勿体ない。
審神者と刀剣として『再会』出来たのは、縁が切れていない何よりの証拠だと思うがな。」
「・・・本っ気で死にたいようだなビックリジジイ・・・。
どんな死に方を迎えれば驚く?」
「おおっとぉ?
そろそろ行くとするか♪」
ご機嫌で退散していく悪戯好きの鶴に、へし切り長谷部は苦々しく舌打ちした。因幡の白兎のように、いつかその羽を全て毟られてしまえばいいと半ば本気で思う。
『その人が、音楽が好きらしい、っていう印象があって』
今は主君として仰ぐ彼女の、言霊が脳内で反響する。
ちなみに長谷部は、音楽の素養に関しては、人並に多少、毛が生えた程度である。嫌いではないが、特に好きという事もない。
『あの時』長谷部が言ったのは、音楽が好きという意味ではなく。
「琴の腕前を褒めたつもりだったんだがな・・・。」
この本丸に顕現した時、生まれたばかりなのに心臓が止まるかと思った。
当然だろう、かつて愛した剣精と瓜二つの女性が目の前に居れば、誰だって驚く。真名ではないとはいえ、仮の名前さえあの頃同然の文字を選ぶとは、無意識とは恐ろしいモノだ。滞りなく口上を述べられただけ、マシというものだろう。
言うタイミングを逸したというのもあるが・・・それ以上に。
(言えない。)
「言える、ものか。」
自戒の為に意識して声に出すと、長谷部は踵を返して道場に向かった。
カンストした今でも、常に自分を鍛えておかねばならない。
自分と、それ以上に彼女の為に。
二度は無い。
『今度こそ』彼女を守り切ってみせる。
―FIN―
【音を捧げる】 へしさに+鶴丸