ジャイアニズムも真っ青

 悔しい。
 悔しい悔しい悔しい。
 悔しくて体がはじけ飛んでしまいそうだ。どうしてあいつはあんなにケロッとした態度でいられるのだ。もっと、もっとヘコめ。自分のやったことを後悔し、頭を抱えてベッドの上で奥歯が割れるほど噛みしめて、目を血走らせるくらいしなくてはいけない。前向きになんてなるな。自分のしたことを恥じて、人に顔向けできないと頭をかきむしり、明日学校に行きたくないと心の底から思うくらいでいなくては、ダメなのだ。「まあ、立ち直りが早いほうが良いよね」なんてことはただの自己満足だ。
 少なくとも一日。二十四時間。それだけは落ち込んでもらわなくては困る。前向き? そんなことば、自分を正当化するだけの自分勝手な言葉だ。お前に落ち込んで欲しいと思っている奴がいるのだ。本当に悪いと思うなら、そいつのストレスを解消させるためにキチンと落ち込まなくてはいけない。口だけでも、態度だけでもダメだ。心の底から、そう思わなくてはダメだ。自分を責めろ。生きていることを恥じろ。自分は本当にダメな人間、そう思って、他人と自分の出来の違いを恥じろ。他者と自分の差をしっかりと胸に刻め。そしてヘコめ。出来の悪さを恥、生きている意味を疑い、自分という存在がいかにダメかをしっかりと自覚しろ。そして生きている意味を問え。ベッドに入って部屋を暗くした瞬間から、そのことが頭から離れなくなって何度も寝返りを打て。眠れない夜を過ごせ。枕を濡らし、次の日に目を腫らし、目の下を真っ黒にして学校に来やがれ。そのくらいしなくては困る。
「ああもうっ!」
 私は髪の毛をかきむしった。なぜ私がこんなにイライラしなくてはいけないのだ。世の中理不尽だ。私がこんなにイライラしているのに、あいつは全く気にしていない。表面上こそ申し訳なさそうな顔をしていたが、心の底ではまったく堪えていない。ツイッターでペットの写真を呑気にアップしたりしている。なめている。その場が済んだらケロッとしている。それが気に入らない。あいつも誰かにイライラすれば良い。むかついて、やるせなくて、地団駄を踏みたくなるような気持ちになれば良い。あんな平然とした態度をしないで欲しい。
 わざとやっているなら良い。私をこう言う気持ちにさせるために、わざと気にしていない振りをしているなら、まだ可愛げがある。だけれど、あいつは本当に気にしていないのだ。どこ吹く風なのだ。それが余計にたちが悪い。
 悔しい。
 ――ホントにごめんね。春子ちゃんのプリンだとは思わなくて。明日スーパーで新しいの買っておくから、許してね。でも、次はちゃんと名前を書いといてよ。わかんないから。

 ああもう!

 研究室の冷蔵庫の中にあるプリンを勝手に食べるなんて正気を疑う。瓶詰めのプリンなんて控えめに見ても高級そうだと分かりそうなものなのに。そこらの大量生産のプリントは訳がちがう特別なものだと分かりそうなものなのに。手を伸ばすのすら躊躇うだろうに。
 よくもまあ、当たり前な顔をして食べられるもんだ。ジャイアンだって真っ青だ。よっぽど甘えさせて育ったのか、人の物は人の物だと親から教わらなかったのか。百歩譲って、人の物は自分の物だと教わって育ったにしても、食べる前に一言確認くらいできるだろうに。ジャイアンでさえ、「これもらうぞ」くらい言うぞバカたれ。

 悔しくてたまらない。
 めっちゃくちゃ楽しみにしてた、プリンだったのに。

ジャイアニズムも真っ青

ジャイアニズムも真っ青

悔しくて仕方が無い。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-30

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