吊られた太陽

吊られた太陽

吊られた太陽

「おかぁさん!今日もまた雨なの?」
少女は窓ガラスに水滴がつき、フルフルと震えて地に滴る雨の粒を眺めた後、頬を膨らませて文句を述べた。
「私に言っても仕方がないでしょ?お家にいるのが嫌ならカッパでも着けて遊んできなさい」
エプロンを腰に巻いた髪が長い女は食器を洗いながら言う。その言葉に少女は反応した。
「なら遊んで来ますー」
少女は赤いカッパと黄色い長靴を履いて透明のビニールの傘をさして玄関の戸を押した。

雲は灰色。少女は空を見上げ落ちてくる小さな粒をおでこに濡らした。もうこの雨が続いて2週間になる。そろそろ雨も飽きたなぁと考えながら少女は目的もなく歩き出した。

少女はパシャパシャと水溜りを踏み、泥を蹴り、蛙に挨拶をして歌を口ずさんでカカトを地面に付けないで歩く。雨が好きな蛙とかたつむりは不思議、不思議だなぁ。そうして傘をクルクル回転させた時である。近くの林の奥から「ワン!ワン!ワン!」と犬の鳴き声が聞こえ何かに向かって吠えているのであった。
少女はぴたりと其処で立ち止まり何故か非常にその鳴き声の先にある物が気になった。だからだ。少女はその雑草を長靴で踏み、手で木の枝を分けて進んだのだ。
するとどうだ。燃えたオレンジのぼんやりとした光が葉と葉の間から漏れて見える。焚き火か?でもこんな雨の天気に焚き火なんてするんだろうか?少女はまた犬の吠える声が聞こえたので更に進む。そしてオレンジの光がさらに強くなり眩しくなったので少女は目を絞りそれを見ようとしてまた葉を分けた。
「ワン!ー」
犬が鳴く。

其処には一本の立派な広葉樹があった。だが少女はその自分の瞳に始めて映したそれに驚嘆した。広葉樹の枝に太い締縄がくくり付けられており、その締縄の地面へと垂れた先にはオレンジ色にまばゆい光を放つ裸で顔が丸くギザギザの透き通る水晶を頭と顔の周囲から生やした生き物が左足に締縄を縛られて宙に浮いていた。
どうやら犬はこの摩訶不思議な生き物に吠えていたらしく少女が近づいても全く気が付かないで「ワン!ワン!ー」とまだ鳴いている。
少女はその光景に圧倒され見続けていたが等々その摩訶不思議な者に問い尋ねた。

「あなた此処で何をしているの?」
少女は傘をクルクルし回してそのオレンジ色に光る者に近づいて言葉を発した。どうやらこの生き物の体温らしく近づくと妙に暖かかった。
するとどうだ。この熱を出す生き物は少女の質問に答えた。
「あやややっ!人だ!人だ!助けて下さい!私、2週間前からこの木にずっと吊られているんです!お願いしますから!」
オレンジ色の生き物はそう言うと身体をジタバタさせて締縄を揺らして言った。しかし締縄はとても丈夫そうでギシギシと言うものも左右に揺れるだけである。
「別に降ろしても良いけど、どうしてあなたは吊るされているのよ」
少女はオレンジ色の生き物の左足の締縄を解こうとして指に力を入れてまた聞いた。
「地上に降りて散歩していた時です!急に背後から目隠しされてこの場所に吊るされたんです!誰かは分かりませんが酷い奴です!」

少女はオレンジ色の足に少し触れる。やはり暖かい熱を帯びている。そして天から降ってくる雨の水滴はその生き物を避けている様でまったく濡れていなかった。
少女は締縄を解いた。少女の腰程の背のオレンジ色の生き物は地面に頭から落下して「イテッ!」と声に出して転がった。落ちて土の上で横たわるオレンジ色の生き物の頬を犬は舌でペロペロと舐めた。
熱がふつふつと漏れる息と声を出してオレンジ色の生き物は言った。
「ありがとうございますー。これでやっと家に帰れますよー。雨雲の奴が私がいなくて怒っていそうです、なんせ2週間も仕事をさせているんですから」
オレンジ色の生き物はケツをパンパンと叩き少女に言う。そして続けて述べる。
「あとこの犬、ずっと私に向かって吠えていたんです。きっと私を助けてしょうがなかったんでしょうね!」
オレンジ色の生き物がそう述べた時だ。犬はオレンジ色に光るケツに噛み付いた。
「いったぁああ!」ケツを両手で押さえてぴょんぴょんと跳ねる。
「あははは」少女は笑い、犬の頭を撫でた。
「よしよし、良い子だねー」
犬は「ワン!」とだけ答えた。

オレンジ色の生き物は体制を整えて少女に話した。
「それじゃあ私は急いで帰りますので、またいつか会える日まで」
オレンジ色の生き物は少女にお礼を言う。その言葉を聞いて少女は「雨に濡れて帰るの?可哀想だから傘を貸してあげるよ!」右手を出して傘を渡す。
「そこまでして頂くとは…すごく感謝です。ではでは!」
オレンジ色の生き物は傘をさし、クルクルと回転させながら林の奥に消えていく、その途中で犬も付いて行き横に並ぶ。

少女はその小さいオレンジ色の背中をぼうっと見詰めていた。

少女は家に帰って赤いカッパと黄色い長靴を脱ぎ玄関に置いて居間へと向かった。外はまだ雨がザァーザァーと降り続けている。しかし途端にピタリと止んだ。雲は散り散りに拡散し、その隙間から暖かい光のカーテンが注ぐ。晴れになりつつあるのだ。少女は嬉しくなっておかぁさんに走って報告に行く。
「おかぁさん!おかぁさん!雨が止んで晴れになりそうだよ!」
その言葉を聞いて困った表情でエプロンを腰に巻いた女は言った。
「そうなの?良かったわね」
「うん!」
少女は元気頷いてまた窓の方に駆けていく。
「誰が縄を解いたのかしら?」
エプロンを腰に巻いた女は深いため息を吐いて窓の方向を眺めた。

吊られた太陽

吊られた太陽

少女はまた犬の吠える声が聞こえたので更に進む。そしてオレンジの光がさらに強くなり眩しくなったので少女は目を絞りそれを見ようとしてまた葉を分けた…

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-29

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