*星空文庫

水曜日はアンモナイト

らっきょ太郎 作

水曜日はアンモナイト

水曜日はアンモナイト

「ミヤ、今日は久しぶりの呑みだ。遅刻するんじゃないぞ」
コウヤからの電話は仕事が終わってすぐにかかって来た。俺はその電話に出て分かっているよと簡潔に答えて言った。コウヤはおそらくあの店に向かっているんだろう。俺はそう思いながら通話を辞めて車に乗り込みコウヤのいる店へと目覚めした。

チャリン、チャリン。
店の戸を軽く押して俺は中に入った。
「いらっしゃいませ」
みずみずしい肌に丸いメガネをかけた青年が挨拶する。白いシャツに青いリボンを襟に飾っている。大学生のアルバイトだろうか?それにしては落ち着いているなと考えながら俺はその青いリボンを襟に飾った店員に話しかけた。

「すでにツレが入ってると思うが」
「では予約のお方でしょうか?」
「あぁ、寺井で予約している」
その名前を聞くと店員はにっこりと笑い。
「ご案内致します」と述べて軽い足取りで奥の方へと進んで行く。店員の後を追って俺は進み地下の階段を降りて黒いドアが見えて来た。そうすると店員はそこに立ち止まりドアを開いて中に俺を招待した。
「どうぞごゆっくり」

その部屋に入ると冷んやりと肌寒く、中は薄暗い。
「ミヤ!遅刻じゃないか?」
声が低い男の声が俺の名前を呼んだ。コウヤだった。コウヤは薄暗い部屋の真ん中にあるテーブルに腕を置いて足を組み椅子に座っていた。俺はその方向へと歩いて椅子に腰掛けた。
「遅刻はしてないぞ、五分前だろ」
俺はそう言うと腕時計を光らせてコウヤに見せた。
「遅刻みたいなもんさ」
コウヤはぶっきらぼうに言って「ははは」と笑う。
そして俺に言った。

「それで今日は何から呑むか?」
コウヤの問いに俺は即答する。
「決まっているさ、水曜日と言えばアンモナイトで一択だろ!」
俺はそうコウヤに伝えるとテーブルに準備されているグラスを取り、指でチィーンと弾いた。それが波紋となって響き渡るとさっき俺が入って来たドアが開いた。開いた中からは青いリボンを襟に飾った店員が音も無く登場した。
「ご注文はお決まりですか?」
ニコニコと店員は笑い俺とコウヤに確認した。

「あぁ、アンモナイト二つで宜しく」
「了解いたしました」
店員はそう述べるとナイフをテーブルの上から取り上げ薄暗い部屋の天井に向かって突き刺した。
ザク、ザクザク。
ナイフで天井を刺した瞬間。青白い光が小さく至る場所から輝き始めた。俺はその空間を見詰める。光で見えて分かったのはこの部屋は洞窟の様であった。壁も天井もゴツゴツとした岩であり鍾乳洞にも類似していると俺は思った。
店員は何やら切り取った様子で手に収めて眩い光を放つ物を俺とコウヤに見せて言った。
「アンモナイトの化石で御座います。ただいまからお作り致します」
店員はそう言うとナイフを慣れた手つきで対数螺旋の貝をカスッ、カスッと切った。そうした後に二人の前に並べてある透明のグラスにコツン、コツン、と優しく落とした。次に店員はボトルを手に取り泡をたてる炭酸水を注いだ。
小さい気泡がシュワシュワと粒を作り水面から飛び散っている。
「どうぞアンモナイトを味わって下さい」

透明のグラスの中でアンモナイトが淡く光り輝き17.03239度のピッチの層は俺の手の中に渦巻銀河を連想させまたそこにあった。
「何時見ても、飽きないよ。この景色は」
コウヤは嬉しくグラスの中を眺めて言う。
俺は口にグラスの縁をつけて淡い液体を飲んだ。甘くていい香りがする、そして炭酸が舌で踊る。
俺とコウヤはアンモナイトをいとも簡単に飲み干して店員に尋ねた。
「とても美味しかったよ。ところで何かオススメはあるかね?」
コウヤの言葉に青いリボンを襟に飾った店員は答える。
「はい。今の時期のオススメは珪化木、始祖鳥、トリケラトプスの顎、アノマロカリスの触手ですかね?おそらく全ての化石が満足して頂けると思います」
俺は心を愉しませて次の注文を伝えた。
「それでは御用意致します…」
店員はナイフを手に取り再び天井へと腕を伸ばして突き刺す。と、カキンッ、ナイフの刃が欠けた音が聞こえた。

『水曜日はアンモナイト』

『水曜日はアンモナイト』 らっきょ太郎 作

小さい気泡がシュワシュワと粒を作り水面から飛び散っている。 「どうぞアンモナイトを味わって下さい」

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2016-07-27
Copyrighted

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