いつつの鐘 レインメイカー②

その②

アリスが学園にきて2週間が過ぎた頃。

彼女の周囲に対する態度は
相変わらずであったが
それでも
ある変化が起きていた。

如何にも【日本的】と言おうか…

その傲慢に負けぬほどの
充分な能力を伴うアリス

その尊大な態度に憧れる
女生徒がチラホラと
日に日に現れ始めたのだ。

━━━クールでカッコイイ━━
とか
━━━媚びない姿勢が素敵━━━
だの

その風潮は
日増しに強くなっていた。

初めは彼女を嫌っていた生徒も
アリスから何でもない事を
(まれ)に話し掛けられるだけで
何だか誇らしいような…

そんな表情さえ浮かべている。


そんな中

どういった風の吹き回しが
【アリス主催】の【お茶会】が
催される事となった。

ごく小規模で、らしいが
【本場イギリス】の【家庭招待会(アト・ホーム)

形式のアフタヌーンティー。



アリスの厳しい審美眼に選ばれた者のみが
その【招待状】を贈られるらしい…。

この噂話は
たちどころに学園中に拡まっていった。

━━招待状を得る事は【淑女(レディ)の証拠】━━

平素より、やたらと比べたがり
己を一段高い所に置きたい
年頃の女子としては
それはとても価値のあるものに
見えてしまう。


その中でも
この学園に比較的多い
【お嬢たち】
は尚更のようだ。



万智には何ら関心の無いイベントであったが
この【お茶会の招待状】に
とても強い魅力を感じている者が
目の前に1人いた

・・・【萌】だ。

イギリスの伝統的な格式高いものであろうか
それともモダンな○☆§¢$●¥・・・・Etc.

その事ばかりを
和美と万智を前に【夢見る乙女】丸出しで
まるで夢遊病者の如く
延々と繰り返し
話し掛けてくる。


・・・恐らく萌が選ばれる事は
まず無いであろうが

ウンザリしつつも
その事は二人とも口には出せないでいた。

イベントの噂を聞き付けて以来
日に日に萌の乙女度が
怖いくらいに上がっている

━━━無理だと思うよ。

そのセリフを言った途端に
下手をすると気絶しかねない。

萌の頭上に乗せられた
【巨大なウサ耳リボンしばり】
不思議の国のアリス
そのアリスのイラストに有りがちなアレ・・。

これを見て取るに
怖いくらいの熱の入れ様だ。


━━アリスと【キ◯ガイお茶会(マッド・ティーパーティー)】━━

・・・そんな言葉が
万智の脳裏に浮かぶ。


そんな萌を意に介する事など
一切なく
ツグミを伴い
昼休みの教室へ入って来るアリス

どういった訳だか
ツグミはアリスの【お気に入り】の様で
最近は常に一緒に行動している。

ツグミにしても
皆の憧れのアリスと共にいる事で
【虚栄心】を満たしている様な節が見える。


それでも、
【和・洋の美人コンビ】は
生徒達の羨望を集めるのに充分なものがあった。


そんな
【美人コンビ】の会話に
巨大なウサギの【聞き耳】を立てる萌。

ツグミ
『これで全部配れたね♪』
アリス
『明日が楽しみです』

・・・・

・・明日?・・・全部・・・・?

萌の表情が固まる

その表情を見て思わず
ツグミを萌から見えない場所へ
引っ張ってくる和美

『ツグミさん…さ、ひょっとして
例の…お茶会のメンバーって決まっちゃった?』

コソコソと小声で
そう訊ねる和美

『あ♪今、招待状を全部配ってきた所!
最後の1人がなかなか会えなくてさ~♪』

ノーテンキ極まりなく
空気を一切読まないツグミが
そう朗らかに和美に答える

・・・普通に考えれば

いくらツグミでも

普段グループとして共に行動している
萌の言動から
その【想い】を察しても良さそうなものだが…。

バカには
その切ない想いは届かなかったようだ。


和美がとても言いづらそうに
ツグミに質問を続ける

『…そうなんだ…あのさ、
本当に勝手なのは解ってるんだけど
あと1人だけ追加で参加できないかな?』

ツグミ
『あ、もしか和美ッチ、来たいの?
早く言ってよ♪もう♪』


『私じゃなくて…、
萌が凄く行きたいみたいなんだ…
勿論、アリスさんのご都合次第だって
分かってるし…
図々しいのは承知の上なんだけど
ダメかな?
萌だけなんとか!お願いします!
あの子、自分からは言えなくて
ずっと誘われるの待ってて…。』

両手を合わせ拝み
そうペコペコと頼んでいる和美

万智はその様子を見て

和美は何を考えているのやら、と
呆れていた。

あれほど
━━関わるな!━━
と忠告したのに。

これだから
お人好しというのは手に負えない

萌にしても
流石にそこまでしては
行きたくないと思うのだが…。

万智はふと頭上に視線を感じ
振り替えると
いつの間にか萌が大粒の涙を流し

ツグミと和美の様子を窺っている

『…イキタイヨウ…イキタイヨウ…イキタ…』
そう呟き続ける萌。


行きたがってる!

そこまでして
行きたがってる!!

驚愕を隠せない万智


向きを変え和美とツグミの様子を
改めて見てみると

ツグミが
アリスの元へ…タタタと駆け戻り
何やら相談しているようだ。


和美は萌の元に戻り
『アハッ!余計な事しちゃった♪
でも、よく頼んでくれるみたいだよ!
・・・・きっと大丈夫♪』

そういうと笑顔で萌の手を握っている。


そんな二人の前に
ツカツカと歩いて来るアリス


緊張を隠せない二人を前にすると
アリスは表情ひとつ変えず
その手を振り上げ

━━━パンッッ!!

と、萌の頬を平手打ちした。

『 身の程を知りなさい、化け物 』

唖然とする【萌と和美】
そして周りの生徒達

今度は和美をチラリと見据え
アリスの手がゆっくりと
もう一度大きく
振り上がる

…と、同時に
アリスの後頭部へ紙ヒコーキが当たる

・・?

振り返り、ほんの一瞬ソレに気を奪われた
アリスの頬へ
和美の強烈なビンタがバチンッッ!と
命中する。


『化け物とは何よっ!あなただって
まるで【吸血鬼】みたいな顔して!
この冷血女!』

矢継ぎ早にそう捲し立てる和美

当の萌はといえば
ウサギ耳を握りしめ(うずくま)
ただその巨大な肩を小さくし
声を()(ころ)して
グスグスと泣きじゃくっている

その萌の様子を見て
和美が更にキレた

全く予想しなかった反撃を受け
茫然自失としているアリスに
側にあった筆箱だのノートだのを
何でも構わず
投げつけまくっている和美。



その様子に
呆気に取られていた
クラスメイト一同だったが
ようやく皆、我に返り
やっと慌てて止めに入る


かくして
その後、数年間にわたり
語り継がれる事になる

【和美・昼休みの乱】

・・・・は、和美の
【自宅謹慎2週間】
の処分と共に終わった。


それでも、万智は
その1枚破り取られた
自らのノートを見詰め

ホッと安堵していた。

2週間が過ぎる頃には
アリスは帰国する筈

アリスの留学初日に
思い浮かべた【最悪の事態】が
少なくとも【和美と自分】に襲い掛かる事は
もうこれで無いであろう・・・と。

謹慎2週間なんて
命に比べれば安い安い!

結果オーライ

我ながら
上手く事を納めたものだ。

うん、私も近いうちに2週間ほど
学校は病欠(アルバイト)しよう・・。


そう考えながら
人知れず
紙ヒコーキを
コッソリと回収するのであった。


━━━同時刻・イギリスからの航空機にて
日本に降り立つ
【1人の女性】がいた。

此所に【カミラ】が来ている・・

今度こそ失敗する訳には・・・

その足は
星空学園へと
真っ直ぐに向かっていた。



━━━━━━━━翌日━━━━━━━━━


表向き【和美の乱】は
まるで無かった事のように
授業は進められた。

そして放課後
問題の【お茶会】に
招かれた数名の女生徒たちが


用意されたリムジンへと
アリスと共に
乗り込んでいく。


その中には【ツグミ】の姿も見える

その様子を
三階の教室の窓辺から
ボンヤリと眺めている
万智と萌

当然、和美は自宅謹慎中。


・・・しかし、とびきりの美人ばかり
よく集めたものだ。


『ま、しょせん

【 心は鏡に映らない 】

・・・からね
気にしちゃダメだよ!萌 ♪』


いつになく
萌に優しい万智


・・・慰めになっていない気もするが
コクコク、と涙目で頷く萌


『さて、じゃ・・・あのお節介の所にでも
二人で寄って行こっか?
昨日の夜、電話があって・・
とびきりの【紅茶(ティー)】が用意してあるから
【是非お越し下さい】だって。』

そう萌の背中に乗り掛かりながら
【和美手書きの招待状】を2通片手に
ニヤニヤ笑う万智.


『謝らなくちゃ・・・』
涙が止まらない萌。


『それにしてもあのバカには呆れる』
ツグミには
あの騒ぎのあと万智の口から

━━お茶会は行かないほうが良いとおもうよ━━

そう、一応忠告したのだが。


まあ、後でツグミがどうなろうと
自業自得だ。
あれだけ普段は萌から
勉強の面倒を見て貰っておきながら…

のぼせたバカには
ほとほと呆れる


バカは少し痛い目を見せたほうがいい、
つける【薬】がないのだから。

・・・【少し】で済めばの話だが・・・


萌が泣き止むのを暫し待ち

そして学校を出ようとした所へ

学園の緊急全体放送が流れる

━━━『帰宅前の生徒は全員
校庭に集まるように!』━━━


『・・・・なに?』

なにやら胸騒ぎのする万智

嫌な予感が止まらない。


そして校庭へと急ぐ二人
まだ下校時、間もなくということもあり
相当数の生徒が集う中

担任により
取り急ぎ各自の点呼が取られる

『臨時バスを用意しますので
御父兄のお迎えが難しい者は
必ずそちらで帰宅するように!』


その注意が
何度も繰り返し
きつく生徒たちに言い渡されている。

そこへ
万智の携帯に
和美からのコール



『あ!万智!たいへんさっきき、き、』
昨日の興奮状態がまだ
続いているのか
ひどい慌てようだ。


『・・・一旦・・深呼吸』
万智が電話越しにそう
和美に伝える


『それどころじゃないんだってば!もうっ!
さっき、【コウ】から国際電話があってね!
あの【アリス】はアリスじゃないんだって!
本当のアリスが
【惨殺死体】で見つかったって
イギリス中のTVでやってるらしいのよ!』


『・・・』
その言葉を受け
なぜなのか
冷静なほど
落ち着いている万智


『き・い・て・る・のっ!』

『・・・聞いてるってば、
だからいったでしょ?【近付くな】って。
確信が持てなかったし
黙ってたけど、アイツ
初日に手を突き出したでしょ?

あの【アリス】の手相はね・・・

今迄に調べた悪名高い

快楽殺人鬼(サイコキラー)

たち、独特の手相と
共通するトコがありすぎたの!

━━━━怖いくらいね。

だから関わるな!って言ったの。』

その言葉に息を呑む和美


『・・・・・ツグミさんは?
他の招待状を受けた人は?』

これは怒っているな、
万智にそう確信させるには充分な
トーンの和美の声。


『しーらないよ━』
万智はあっけらかんと
そう答える。

『こんのッッバカーッッッッ━━━━━━
とにかく、今から行くッッ!
学校にいて!』

バタバタと何か
支度をする音と共に
電話がブツッと切れる。

『謹慎なのに・・いいの?』
万智の言葉は伝わらなかったようだ。



通話をオープンにしていた為
萌にもその内容は伝わっている

ガクガクと震えている萌

『命びろいしたね♪』

━━━━そう涼しい笑顔で呟く【万智】が
萌はただ本当に恐ろしかった。



・・後編へ続く

いつつの鐘 レインメイカー②

いつつの鐘 レインメイカー②

全四話です。その②

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-10

Copyrighted
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