今
さやか目線のお話です。
聞こえるのは、初夏の風が庭の葉を鳴らす音。
机にうつ伏せになってみる。
先ほど食べた昼食のせいもあり、このまま寝てしまいそうだ。
「さやかー、今日もゲームやろうぜ!」
テレビの前のフローリングにあぐらをかいて、こちらを見てる杏子に
「あー。私今寝そうだったのに。今日は一人でやってよ。私はちょっとお昼寝…」
めんどくさかったので、寝落ちするふりをした。
魔法少女としての役目を終え、キュゥべえ達が去ってもう三年ほど経った。
去年くらいから杏子が遊びに来てそのまま泊まることになって…っていうことを繰り返してたらいつの間にか居候されていた。前にもこんなことがあった。もう慣れっこだ。
「ちぇっ。なんだよ。ツレねぇ奴。」
そのあともなにか小言を言っていたが諦めたのか。軽快で電子的な音楽が流れ始めた。ちなみにゲームは杏子がいつの日か中古屋で買った超王道のRPGで昔話題になっていたゲームらしい。今までRPGの類のゲームをしてこなかった京子がどハマりしている。
操作音と共に杏子のえい!ほっ、コイツっ、くそっ、という声が響き始める。
こんな風に昼寝したり、ゲームをする午後を楽しめるなんて「あの時」は思っても見なかったなぁ。
魔女との壮絶な戦い。
自分の希望と引き換えに手に入ったのは「魔法の力」と「ゾンビの体」。
もう普通には戻れない、けど進まなければ道はない。いや、進むしかなかった。
最初は「後悔なんてない」って強がってたけど日に日に増える不安と恐怖そして、誰かを助けた分だけ自分が受け取る呪い。
まったく。ゾンビの体になったってだけでかなりダメージ食らったのに、他人様からも呪いを受けるなんてね。
当時の私は弱かった。今も強いわけではないけれど、今以上に弱かった気がする。
なぜこんな目に遭わなければならない?
私のやってることってなんの意味があるの?
望むだけ望んで、それ相応の対価に耐えられない自分がここにいる。
弱い。辛い。なぜ。
こんな弱い私を助けてくれたのは杏子だった。
「あああ!くっそぉ!!レベル上げ足りなかったかー?さやかがパーティーにいないせいだぞ!」
人のせいにするな、と思いつつまだ寝たふり。
おぞましい過去が未だに私の頭の中で鮮明に浮かび上がる。だから今こうやって平和に暮らせる日々が、この一秒が、とても愛おしい。
テレビゲームの切る音がした。
「ひとりでやっててもつまんねー」京子は立ち上がり、さやかの隣に座った。
また静かな空間になった。寝るチャンスだが、いろいろ考え事してたら頭が冴えてしまった。
起きようと、重たい頭をあげ、のびー、と天井に手がくっついてしまうじゃないかというくらい体を伸ばした。
「はぁー、もう、杏子がうるさくてあんまり寝れなかったよ」
「あーわりぃーわりぃ。ていうか今電源切ったのに…もしかして、ゲームやる気になったのか?!」
「もうゲームはいいでしょ。それよりさ」
杏子に抱きついた。
「ちょ、なんだよ、急にどうしたのさ!?」
「えー、なんかさ、こういう日々っていいよねって」
ちょっと笑いながら言ってみせた。
「はぁ?」
「お昼を食べて、眠くなったら安心して寝れる。2人で遊びたい時にゲームができる」
「まぁ、あの時は大変だったもんな…」
「こうやって、杏子と一緒に入られて、話せて、体温感じることができて、私…このまま…ずっとこのままがいい…」
「さやか・・・」
「ねえ、また魔女とか生まれないよね…!?もうキュゥべえみたいな奴に出会わないよね!?なんかもう…思い出したらおかしくなりそう!!!」
「さやか」
少しの間体を離された。
優しそうな、諭すような杏子の顔が近づいてきて、ちゅっと音がなった。
「…!」
ダメだった。私の頭の中で整理できなかったものが涙としてあふれ出てきてしまった。
「なんだよ、嫌ならちゃんと言わなきゃわかんねえぞ」
「ちがう…それは断じて違う…」
杏子は頭を撫でながら
「大丈夫。アタシはずっとそばに居るさ。キュゥべえ達が消えた後からずっと一緒にいたろ?それに、あんなことなんてもう起きない。起きたってまたみんなで頑張ればいいさ。わかりもしない未来に不安を寄せるな。今さやかとあたしはここにこんな近くにいる。それで充分だろ?」
杏子に包まれた。ぎゅっと優しく。足の先から頭のてっぺんまで、やさしさ。
あったかく、包み込んでくれる。
「そうだよね…」
私は、いつか「今」を生きられるだろうか。
今