此れはとある愛の話
『先輩、好きだったのはぼくだけ…?』
「止めて!!聞きたくない!!」
『信じていたのに』
「そんなの知ってたに決まってる!!」
夢から覚めて過呼吸になる僕の妻はこれで僕の物になった、と思ってしまった。
「さくちゃん、ゆっくり息を吸って…吐いて…大丈夫、大丈夫。」
「やだ…ごめんなさい…ごめんなさ…」
「大丈夫、誰もさくちゃんに怒ってないよ」
「なんでこんなこと…したんだろう」
「さくちゃん大丈夫、大丈夫だから」
「会わなきゃ…謝らなきゃ…どうしよう、会わす顔もないよ」
「会わなくて大丈夫、ゆっくり寝て」
過呼吸の最な音が吹き抜けて
彼女は電池が切れたみたいに寝る。
さくちゃんは壊れちゃったみたいだ。
「アァナンデコンナコトニ。か。」
こうなるようにしたんだよ、とは言えない。
さくちゃんが裏切り続けてたこと。
したり顔の彼女のしてたこと。
全部全部知っていたからこそのこの罰だ。
彼女と別れることも出来なかった
別れる気も起きなかった
ずたずたにして初めて手に入るなんて皮肉だ
村瀬君の恋心はとっても鮮やかで
僕の淀んだ愛憎とは別のものだった。
「先輩が好きだからですか?か。当たり前に決まってるデショ。」
まっすぐにこっちを見つめてきた目にあなたに先輩が幸せに出来るんですか?の意思を見透かしたからあんな意地悪をした。
あえてさくちゃんを先輩と呼ぶ彼に「うちの妻」という当てつけを食らわした。
大人気ないなんてわかってるんだ。
でもそれでも手に入れたい彼女なんだ。
「ゆう、どこ…ゆう…どこにも行かないで…おねが…いゆう…」
「おいでさくちゃん大丈夫だからね。」
抱きついたまま眠りについてしまう幼い幼い僕の妻。
心変わりすら利用するずるい僕がどこかになんて行ってやるものか。
「『これが答えだよ、彼女とはこれもn回目の出会いの一つなんだ』なんてね。」
「『これが罰ですね?』」
「『いえ、罪ですよ、恋とは罪悪なものです。』じゃなくて寝なさい。さくちゃん。」
お気に入りの小説の一部を諳んじる彼女をたしなめて眠りにつかす。
相手役の男のセリフを呟くさくちゃんの口をキスで塞いで眠りなさい、という。
「私は彼女のために生きるのですよ。」
「おやすみ、ゆうくん」
此れはとある愛の話
この愛が、これから先どう永久に流転して行くのだろうか、彼岸過ぎ迄だろうか。