IN THE BED FIRST STORY

IN THE BED FIRST STORY

僕はパジャマを着替えようとしたけど、羊に「その格好で寝るつもりなの?」って言われて仕方なく
そのまんまの格好で家を飛び出した。

羊はしばらく辺りを見渡して、誰もいないのを確認した上で僕の顔をじっと見た。
「今から1人目の子の家に行くよ。ほんの少し強い風が吹くけど驚いたりしないでくれよ?風は風で臆病者だからね、君が驚いたりしたらびっくりして違う家に向かってしまうかもしれないからね」
そう言うと、羊は鼻を鳴らした。
その途端、僕の背中を誰かが思いっきり押し上げたみたいに強い風が!
一気に体がふわっと浮いたかと思うと僕は空を飛んでいた。

あまりに一瞬の出来事だったから、驚いてる暇も無かった。

空の上から地上を見るのは飛行機に乗ったことがあるから初めてではないけれど、足場のないふわっとした空の上から見る景色は窓ガラス1つないだけでこんなにも綺麗で透き通ってて、それでいて映画の始まり前みたいに静かだった。

僕と羊を乗せた風はあっという間に三角屋根の1件の家の前に運んでくれた。
羊はヒヅメを器用に使ってトタン、と地上に降りたけど、なれない僕はバタバタと腕を回しながらの不時着をした。

「ありがとう風さん。ほら、君もちゃんとお礼を言って、この先の家にも運んでもらわなきゃいけないんだから」
羊は多分そこに風がいる方向に頭を下げながら僕に言った。
僕がその方向に同じようにお礼を伝えて頭を下げて頭を上げると、もう既に羊は家の前にいた。

「どうやって中に入るの?」
僕の家の時もそうだけど、仮にも人の家、ドアには鍵もかかってるだろうし気になって聞いてみた。
すると、羊は少し得意げに目を細めて、にっと笑うと見ててと足元に目をやった。

トントントン、トントン
トントン、トトン 

タップダンスみたいに、でも静かな夜の静寂を壊さない程度に音を立てて、羊はその場で地面を足で鳴らした。
すると、目の前のドアがすーっと
消えて、玄関が現れた。
「ドアがノックしなきゃ開けてもらえないなんて人間の思い込みだよ。どうせならできるって思い込めばいいのに、って思うけどね。」

人の家、って気持ちが妙に悪い事をしているみたいで、僕は恐る恐る中を歩いていった。
羊は慣れた様子で時折辺りを見ては飾ってある絵を眺めたり、足元の床を軽く踏んで、古くなって音の立ちそうな所を見つけると僕にこっちから行くようにと道を指さし先導した。
ようやく辿りついた部屋の前で羊は、またあのステップを踏んでドアをすーっと消すと中に入った。
僕は周りに気づかれないのを確信して、心の中で「おじゃまします」と呟いて中に入っていった。

青い壁紙の小さな部屋、隅に小さな本棚と、壁には色鉛筆で描かれた飛行機の絵が壁紙の空を飛んでいるみたいに貼られていた。
そして、肝心のベッドの上では寝息をそっとたてて眠っている男の子とその側で見守るように姿を眺める羊がいた。

羊はしばらく男の子を見て、ほっとため息をつくと、僕を指さして小さな声で話しかけた。
「良かった、ちょうど頃合だ。
いいかい?今からこの子の夢の中に入り込むからね、やり方は1度しか教えないからよーく見て真似するんだよ、大丈夫、人間にできないほど難しいものじゃないから。この子の額に向けて指を指してこう唱えるんだ。」
羊は、男の子を見下ろして額に人差し指?を向けると静かに優しく言葉を投げかけるように呟いた。

「夢見が丘の真ん中を羊が一匹今飛ぶよ、数えてご覧、見てご覧、気づいた時にはもう朝だ」

すると羊の体が半透明に透けて優しい光に一瞬包まれたと思うと部屋から姿を消してしまった。

僕は見様見真似で人差し指を男の子の額に向けた。
そして1度大きく深呼吸をすると、シーンとした空気と微かに聞こえる寝息をしっかりと感じてから
ゆっくり、優しく呟いた。

「夢見が丘の真ん中を羊が一匹今飛ぶよ、数えてご覧、見てご覧、気づいた時にはもう朝だ」

僕の体は見る見るうちに透けて行き、目の前がふわっと眩しくなったと思うと次の瞬間、僕は工場?のような場所にいた。
周りからは独特な機械音が鳴り響き、大きな声で指示を出し合う汗にまみれた従業員が走り回っている。

「ここは?」
僕が尋ねると、羊は少し自慢げに
「これが夢の中さ。そして、僕らが守る男の子はあそこに。」
羊が指さした先にはガスと煙の立ち込める工場内で率先して指示を出す男だった。
僕が信じられずにいるのを羊は
「夢なんだから、何にだってなれたっておかしくないだろ?君だってあるだろ?夢の中で自分以外の自分に出会うなんてことくらいね」と、鼻で僕を笑いとばした。

「今までに夢の中で僕が出会ったのはどんな僕だっただろう、考えたら眠れなくなりそうだ」

僕は余計な事を言ったらしく、羊は、ぎっと僕を睨みつけるとイソイソと何かを準備し始めた。

長い棒

ランプ
マッチ
ろうそくが何本か
それと
甘いものがいっぱい入った袋

多分今何に使うの?なんて聞いたら、ほっぺたの毛が真っ赤になるなと思ってただただ見てた。

羊は並べた道具をじっくりと確かめると、立ち上がって僕に言った。

「さあ、仕事だよ。あの子の眠りを邪魔するヤツらを退治してやろうじゃないか」

ヤツらが何なのか使い方が分からない棒を持たされた僕は、不安とドキドキの混じったぐにゃぐにゃな感情を抱いて羊の後を追った。

IN THE BED FIRST STORY

IN THE BED FIRST STORY

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-29

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