待ち合わせ中の若干変っぽい学生

変っぽいけど根はマジメなのが主人公です。多分。

「あ”ーーー」

 ユウマは公園のベンチに腰を下ろしたまま喉を鳴らした。声とは言えない不穏な音を急に発したため、目の前を通り過ぎようとしていた犬の散歩中の男性老人が反射的にユウマに振り向き、半開きのユウマの目とばっちり目が合うと反射的に前を見て何事もなかったように進行方向にまっすぐ向かおうとした。ユウマに向かって急接近する柴犬の首輪を思いっきり引っ張りながらなんとか進行方向に向かおうとしていた。
 ユウマは足元にまでやって来た柴犬に喉を鳴らしながら首を左右に振りつつ左手を狐のような形にして柴犬とじゃれ合おうとしたが、老人の懸命な力技により首輪をこれでもかと引っ張られた柴犬はユウマに接近するのを諦め、どうにかして制服姿の不吉な音を発する高校生男子から距離を置こうとする飼い主の元へ駆け寄っていった。
 飼い主はそのまま老人にしては妙に早足でユウマの座るベンチから離れていった。ときおり振り返る老けた柴犬と頑なに振り返ろうとしない老人の後ろ姿を半開きの目で眺めながら、ユウマは喉鳴らしのボリュームを落としていき、開いた口からはなにも音が発されなくなった。

「ダリ」

 だるいという意味でつぶやいたユウマだったが、ふと頭に芸術家の名前がよぎり、そういえばこの芸術家は朝目が覚めると窓を開けて自分の名前を大声で叫び、自分が自分であることを心から陶酔しきっていたと聞いたことがあるな、と思いふと自分の名前を叫んでみようかと思ったが、さすがにそれは公共の場ではふさわしくないと思い直し実行に移さなかった。
 そもそもその芸術家ほど自分を愛しているわけでもないし、形だけの叫びは虚しいだけだと考えた。大声で自分の名前をいうのははっきり言って恥ずかしいと素直に認めない言い訳に納得したユウマは、体をのけぞらせてストレッチをした。隣のベンチに座るユウマとは別の制服を来たカップルは、ベンチの背もたれに限界までのけぞって後方の樹木を見つめるユウマを横目でうかがいながら、カップルそれぞれが手元のスマートフォンに視線を落とした。二人ともスマートフォンのトップ画面を見つめたままぜんぜん手が動いていない。
 ベンチの上で海老反りになっていたユウマが勢いよく体を前のめりに戻して先ほどまでのだるそうな背筋の曲がった姿勢に戻ると、カップル二人が肩をビクつかせて手元からスマートフォンを落とした。ユウマがカップルに視線を向け、カップルは足元のスマートフォンを凝視しながら素早く拾い上げ、男子が女子の手を引きながらユウマの座るベンチと反対方向へ早足で去っていった。ユウマは首を左右に揺らしながら別の高校のカップルを眺めつつ唇をとがらせて立ち上がり、大きく伸びをした。

「場所ここじゃないとか?」

 ユウマはだれにでもなくつぶやき、ポケットからスマートフォンを取り出して起動した画面を見つめた。数分前に入っていた新規メッセージに気づいたユウマは画面を操作してメッセージを開く。

『気になってた子と一緒に学校出たらそのまま街ブラつくことになった』

「せめて侘びの一言くらい挟めや!」

 砂利を蹴りながらスマートフォンに元気よく突っ込むユウマの横を通り過ぎたランニング中の男性が飛び跳ねた。

待ち合わせ中の若干変っぽい学生

待ち合わせ中の若干変っぽい学生

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-06-29

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